アウトバーンの設計作業
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 07:16 UTC 版)
「フリッツ・トート」の記事における「アウトバーンの設計作業」の解説
世界の高速道路の原点となったアウトバーンは、シビルエンジニアや建築家、造園家の共働作業によってもたらされた技術と英知の結晶であり、第三帝国のミステリーとも言われた。アウトバーン建設局の初代の総監督者になったのがトートである。 総監就任当時、ダルムシュタットとハイデルベルクを結ぶアウトバーンを見たトートは、まず高速道路を跨ぐ橋梁のデザインのひどさに落胆し、橋梁のデザインについては建築家パウル・ボナーツを、構造についてはシュトゥットガルト工科大学の橋梁工学の教授であったカール・シェヒテルを召集。ランドスケープについてはオットー・クルツ、そしてミュンヘン市の造園家であったアルヴィン・ザイフェルトに協力を依頼している。 トートはアウトバーンを統一したコンセプトのもとで計画する必要性を痛感し、「風景と土地とは、人の生活と文化の基礎であり、人を養育し文化を育む故郷である。技術者は、社会の基盤を築く者であるという認識をもつならば、風景と土地が保存されるように仕事をし、かつここから新しい文化価値が生まれるように、構造物を設計し、創造する義務を有している」と述べたという。 風景に融合した道路の建設こそ、当時のアウトバーン建設局の目指すものであり、トートのコンセプトに賛同したポナーツは、アウトバーンの目指すべき橋梁は、美しいプロポーションを備え、浮かぶように軽快で、しっかりと荷重を支える印象を与え、かつ力の流れが明白なデザインであると考えた。これは純粋な工学的フォルムを美しく造形しようとするシェヒテルの考えとも共鳴した。1935年、帝国交通省の総監督に任命されたシェヒテルは、ボナーツとともにアウトバーンに計画される橋梁の美しい造形と完璧な建設をスローガンとしてアウトバーン管理局を設置する。これまで橋梁のデザインに関しては互いに反感を抱いていたドイツの構造エンジニアと建築家の関係は、この二人の出会いによって修復され、橋梁のデザインに関する新しい歴史がここに始まったという。 トートらの業績として重要な点は、今日ではアウトバーン建設局において美しいデザインを実現するためのシステム作りが行なわれたこととして知られる。国内にアウトバーン管理局のもとに上級建設管理事務所OBKを設置、それぞれの事務所に建築家を配置することとし、これによって、似たような単一デザインが繰り返されることを防止した。さらに15のOBKで実施したデザインはすべてシェヒテル、ボナーツの所属するベルリンの管理局に送られ、審査を受けたのち指摘事項を文書やスケッチによって通知される仕組みとした。このように中央でデザインを管理することによって、有能な建築家、エンジニアや造園家の発見と育成が行なわれた。 一方、橋梁のデザインだけではなく、道路のデザインについても危惧を抱いていたトートは、ザイフェルトに手紙を書き、ミュンヘンとホルツキルヒェンを結ぶ20キロのアウトバーンの建設に際し、ランドスケープの観点から道路を造形することの重要性を説く一方、建設局の造園家として協力してくれるよう要請した。手紙には、失われたドイツのランドスケープを再生をさせるために、法面勾配をこれまでの1:2.5勾配から1:3.0勾配に変更し、その地域に適した植栽を行うことや、法面を自然の造形にするために、グレーディングや法肩の角をまるくするラウンディングを提案。さらに、ドライバーの立場に立って、運転の快適性を高めるため、エンジニアリングにクロソイド曲線を導入することや、視線誘導や対向車線のランプを遮蔽する機能を有する植栽の在り方を論じた。こうして、アウトバーン建設局において、建築家、エンジニア、遥園家による協力体制ができあがった。 ドイツにおける国家プロジェクトは、鉄道建設プロジェクトをはじめとして数々あったが、アウトバーンの建設プロジェクトほど計画初期段階から明確なコンセプトを持ち、その実現のための実施方法が建築家、造園家等の様々な視点から検討され、その思想や手法が広く広報されたプロジェクトはなかったとトートはアウトバーンのプロジェクトを讃えたが、一方ではそれがヒトラーの政権下において国家の威信を示すために計画されたプロジェクトであり、失業者対策のために建設需要を喚起するという経済的な背景と、国民が一丸となってプロジェクトを支持する政策的プロパガンダが不可欠であったという背景もあった。
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