さらば、わが愛_覇王別姫とは? わかりやすく解説

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さらば、わが愛/覇王別姫

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/13 09:20 UTC 版)

さらば、わが愛/覇王別姫
タイトル表記
繁体字 霸王別姬
簡体字 霸王别姬
拼音 Bàwáng bié jī
注音符号 ㄅㄚˋㄨㄤˊㄅㄧㄝˊㄐㄧ
英題 Farewell My Concubine
各種情報
監督 陳凱歌(チェン・カイコー)
脚本 李碧華(リー・ピクワー)
蘆葦(ルー・ウェイ)
原作 李碧華(リー・ピクワー)『さらば、わが愛 覇王別姫』[注 1]
製作 徐楓(シュー・フォン)
徐杰(シュー・チエ)
陳凱歌(チェン・カイコー)
孫慧嫥(スン・ホエイ)
製作総指揮 湯君年(タン・チュンニェン)
徐楓(シュー・フォン)
出演者 張國榮(レスリー・チャン)
張豊毅(チャン・フォンイー)
鞏俐(コン・リー)
音楽 趙季平(チャオ・チーピン)
撮影 顧長衛(クー・チャンウェイ)
編集 裴小南(ペイ・シャオナン)
衣装 陳昌敏(チェン・チカーミン)
美術 楊予和(ヤン・ユーフー)
楊占家(ヤン・チャンミ)
製作会社 北京電影製片廠
トムソン・フィルムズ
中国電影合作製片公司
配給 ヘラルド・エース/日本ヘラルド映画
KADOKAWA(4K版)
公開 1993年1月1日
1993年5月20日CIFF
1993年7月26日
1993年12月10日
1994年2月11日
2023年7月28日(4K版)
上映時間 172分
製作国 中国
イギリス領香港
台湾
言語 中国語
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さらば、わが愛/覇王別姫』(さらば、わがあい はおうべっき、原題: 覇王別姫)は、1993年の中国香港台湾合作映画である。

日中戦争文化大革命などを背景として時代に翻弄される京劇役者の小楼や蝶衣の目を通して近代中国の50年を描く。原作は李碧華(リー・ピクワー)の同名小説[注 1]。表題にもある「覇王別姫中国語版」とは、四面楚歌で有名な項羽虞美人とを描いた京劇作品で、この映画では劇中劇として演じられる。

1993年第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞。2023年に4K版が公開された[1]

2008年に日本で舞台化された。

ストーリー

1924年の中国・北京。楼閣の女郎、艶紅の私生児である小豆子は、京劇俳優養成所に連れられる。養成所に向かう道の途中で、艶紅は小豆子を抱き上げ、一座の芝居を見せる。そこにいたのは後に小豆子の兄弟子となる石頭で、彼は名前の由来である石頭でレンガを割ってみせる。養成所で艶紅が座長の關師匠に小豆子を紹介すると、多指症故に一度は入門を断られる。しかし年長になった息子を、妓楼では置いておけないと判断した艶紅は、小豆子の指を切断し、關師匠率いる養成所に預ける。この時、小豆子は9歳であった。厳しい稽古と折檻の中、仲間から娼婦の子といじめられる小豆子をことあるごとに助けてくれたのは、兄弟子の石頭。やがて小豆子は、石頭に同性愛的な思慕を抱くようになる。ある時、小豆は仲間の小癩に誘われるようにして共に脱走を図るが、その日は折しも天下の名優が北京を訪れている日だった。名優は歓呼と熱狂に迎えられ、そして名声通りの素晴らしい舞台を繰り広げる。小豆は覇王(項羽)に心奪われ涙を流す。二人は養成所へ戻るが、そこでは脱走を見逃した罪を問われ、仲間たちが激しい折檻を受けていた。小豆は黙って罰を受けるが、その過酷さを目の当たりにした小癩は首を吊って自殺する。覇王別姫は、少年だった小豆に強い印象を残すのだった。

ある日、一座は宦官(張公)の屋敷で京劇を披露する機会を与えられ、役選びの視察が入る。そこで小豆子も視察隊の那の前で、『思凡』の一節を披露するが、「女として生を受け」という台詞を「男として生を受け」と言い間違えてしまう。見かねた石頭が泣く泣く彼の口にキセルを突っ込み、小豆子は堂々と『思凡』の一節を演じ直す。それにより抜擢された小豆子と石頭は、張公の屋敷にて見事に覇王別姫を成功させる。そして、張公に気に入られた小豆は性接待をさせられる。小豆子は性的搾取による衝撃で石頭に何があったのかと問い質されても答えることができない。2人は帰り路に泣いている捨て子の赤ん坊(後の小四)に出会い、劇団へ連れて帰る。この日の公演の成功と小豆子が受けた性的搾取をきっかけに小豆と石頭は京劇の世界で名をはせていくようになった。

成長した2人は、それぞれ程蝶衣(小豆子)と段小樓(石頭)という芸名を名乗り、『覇王別姫』 で共演しトップスターになる。特に蝶衣は、京劇界の重鎮であった袁四爺から熱烈な庇護を受ける。京劇に没頭する蝶衣とは反対に、石頭は妓楼通いに精を出し、女郎の菊仙と結婚をほのめかすほどの馴染みになる。小樓の妓楼通いを良く思わない蝶衣は、彼に対して「死ぬまで一緒に歌い続けよう。一分一秒だって離れていたくない」と小樓に訴えた。

袁による横断幕贈呈が行われた日の晩、菊仙が劇場赴き小樓の元を訪ね、結婚を申し出る。菊仙は置屋の女主人から、女郎は幸せになれないと罵られるが、幸福を手に入れるべく全財産を妓楼に受け渡し、過去と決別したのだった。蝶衣は自らを捨てた母と同じ女郎の菊仙に激しい敵意と嫉妬心を抱き、小樓と菊仙に対して侮蔑の言葉を口走る。それを聞いた小樓は縋る蝶衣を置いて、菊仙と共に劇場を後にしてしまう。蝶衣は憂さ晴らしに同性愛者かつ彼のパトロンである袁四爺の元へ行く。袁の屋敷で目にしたのは、かつて張公の屋敷で小樓と蝶衣が見つけた宝剣だった。この剣を譲り受けることを条件に、蝶衣は袁に体を許す。その後、蝶衣は袁の屋敷から小樓の家へと向かい、結婚祝いとして宝剣を小樓に手渡す。小樓は蝶衣に「ここは舞台ではないから刀に用はない」と言い、これを聞いた蝶衣は絶望し、小樓との共演を辞めることを決めた。日中戦争が激化した1937年、北京は日本軍の占領下となる。蝶衣の姿は日本軍の将校を魅了したが、小樓は日本軍とのいざこざから捕えられる。菊仙は蝶衣に小樓との離別を条件に、将校に取り入るよう頼み、蝶衣は将校らの前で崑曲『牡丹亭』を舞う。結局、小樓が釈放された後も菊仙は小樓とは別れず、二人で蝶衣から離れ堅気の生活を送ることになる。しかし、小樓の生活は堕落。闘蟋(コオロギ相撲)賭博に熱中し、舞台衣装さえも売り払う羽目になる。一方の蝶衣も兄弟子を失った喪失感からアヘンに溺れていく。数年ぶりに養成所に訪ねた2人は關師匠と再会し、堕落した生活を叱咤され、舞台への復帰を決意する。ほどなく關師匠は老衰による死亡、養成所の一座は解散となるが小四だけは行き場所が無く、自らに師匠に言われたままの折檻を自らに課していた。蝶衣は小四にかつての自分の姿を重ね彼を弟子にする。

やがて日本は敗戦、北京には中華民国軍(国民党軍)の兵士たちが入城する。彼らの観劇の態度は日本軍に劣るものであり、舞台上の蝶衣に悪質な行為を繰り返す。それに怒った小樓は兵士と乱闘になり、小樓を助けに行こうと試みた菊仙は乱闘に巻き込まれ、流産してしまう。戦後は漢奸裁判が行われ、蝶衣も日本軍への接待を理由に裁判にかけられる。小樓は袁に頼み、蝶衣に有利な証言をさせるが、蝶衣は「日本人は自分の体に指一本触れなかった」と話し、自ら不利な立場に立つ。

その後、蝶衣のアヘン中毒は更に悪化し、演技もままならなくなるが、小樓の支えで立ち直る。

しかし舞台に戻った蝶衣は、労働者を主役とする共産主義思想に戸惑う。一方、共産主義思想に順応した小四は蝶衣と決別し、文化大革命を背景に彼を陥れて蝶衣の役を奪い、トップスターの座を手に入れる。孔廟事件前夜、菊仙は文化大革命に強い不安を感じ、いつになく小樓に甘える。夫婦の愛の営みを偶然居合わせた蝶衣は黙って垣間見るだけだった。孔廟事件で京劇は文芸界の毒草、堕落の象徴だと弾圧される。京劇の台本や衣装は次々と火にくべられ、さらにはあの宝剣までもが火にくべられるが、菊仙は自分の身を厭わずに宝剣を火の中から救い上げる。紅衛兵に自己批判を強要された小樓は、蝶衣のアヘン中毒を暴露、さらには蝶衣と袁に肉体関係があったことを暴露してしまう。最愛の兄弟子に裏切られたと感じた蝶衣は、菊仙が女郎だった過去を暴露する。さらには小楼までもが菊仙と離縁すると言い出す。菊仙は絶望の中、宝剣を蝶衣に託した後、自宅で花嫁衣裳を身につけたまま、首を吊り命を断つ。共産主義政権の下で順風満帆に見えた小四だったが、蝶衣のものだった舞台用の宝飾品を身につけ悦に浸っているところを背後から毛沢東主義者たちに取り囲まれる。

それから11年、四人組の失脚を受けて、ようやく蝶衣と小樓が『覇王別姫』で共演できる日が戻ってきた。リハーサル中、立ち回りに衰えを感じる小樓に対し、時を感じさせぬ美貌を保った蝶衣は小樓に向かって優雅に微笑む。小樓はニヤリと笑って『思凡』の一説を吟じ、それに乗った蝶衣は幼い頃と同じ台詞の間違いをする。「間違えた!また間違えたな!」と笑う小樓。練習は『覇王別姫』に戻り、ラストシーンに差し掛かったところで、蝶衣は小樓の腰にかかった宝剣を抜き、劇中の虞美人同様に自らの人生と愛に幕を下ろす。振り返った小楼は「蝶衣!」と叫び驚くが、蝶衣の方を見つめたまま小さな声で「小豆子」と呟き頬をゆるめる。

小説との違い

・小説では物語は1929年の香港から始まる。この時小豆子は9歳のため、映画版より数歳若い。加えて小樓は蝶衣の3歳年上であることが書かれている。

・読み書きができない。映画版では蝶衣が小樓からの手紙を読むシーンがあるが、小説では2人とも自分の名前が書ける程度の能力しかない。大人になっても読み書きができない蝶衣を、子どもたちがからかうシーンもある。ちなみに小説版の蝶衣は小樓が芸名を貰って初めて名前を書いた紙を、ずっと大事に持っている。(1939年〜文化大革命までは確定。その後も大切に衣装箱に保管してある、という描写があるが、文革で焼却または略奪された可能性もある。)

・結婚発表をした日の晩、蝶衣が結婚祝いに宝剣を渡すと小樓は、「今まで貰ったものの中で最高のプレゼントだ」と大喜びで周りに自慢している。

・小四の出自が不明。幼少期は蝶衣と同じ劇班、喜福成に籍を置いている。少年期から青年期は蝶衣の芝居に惚れ込み、蝶衣の身の回りの世話を担う小間使いのような役目を買ってでている。蝶衣のために桃を剥いたり、衣装の整理をしたりする描写がある。

・2人は1982年の香港で再会する。香港に移り住み、電車の運転士をする小樓と、文革後名誉回復されて現場監督として働く蝶衣。小樓は路面で偶然蝶衣率いる劇団の香港巡業の広告を見つけ、劇場に走る。(蝶衣の名前だけは彼の中で忘れられない文字であり、広告に含まれた「程蝶衣」の字を見つけると、小樓は自身の記憶力を半ば疑いながらも劇場に向かっている。)新光劇場の舞台裏で2人は再会するが、蝶衣は既に老いており、昔の美しさは失われていた。加えて蝶衣は文革中の労働で1本指を失っている。

・小樓は菊仙の自殺後、独身を貫いているが、蝶衣は名誉回復後北京で茶葉工場に勤める女性と結婚している。

・小四は文革後に水牢に入れられ、気が狂ったとされている。

・2人が『覇王別姫』を演じる場所は、蝶衣が巡業で監督を務める香港の劇場、新光劇場の舞台である。小樓は文革で以前のような歌声を失い、化粧の仕方も忘れている。一方の蝶衣も容姿の美しさや立ち回りのしなやかさを失っている。「わたしは昔から虞姫になりたかった」と言って蝶衣は自刎を試みるが、死亡はしない。香港にて数日療養してから、北京へと戻っている。

エピソード

キャスト

役名 俳優 日本語吹替
程蝶衣〈チェン・ディエイー〉 張國榮(レスリー・チャン) 山路和弘
段小楼〈ドァン・シャオロウ〉 張豊毅(チャン・フォンイー) 江原正士
菊仙〈ジューシェン〉 鞏俐(コン・リー) 山像かおり
關師傅〈グアン師匠〉 呂齊(リゥ・ツァイ) 村松康雄
袁四爺〈イェンスーイエ〉 葛優(グォ・ヨウ) 千田光男
老師爺 黄斐(ファン・フェイ) 家中宏
張公公〈チャン〉 童弟(トン・ディー) 幹本雄之
戯園老門〈劇場主〉 英達(イン・ダー)
青木三郎 智一桐(チー・イートン)
小豆子〈シャオドウヅ〉(幼年) 馬明威(マー・ミンウェイ)
小豆子(少年) 尹治(イン・チー)
小石頭〈シャオシートウ〉(幼年) 費洋(フェイ・ヤン)
小石頭(少年) 趙海龍(チャオ・ハイロン)
小癩子〈シャオライヅー〉(幼年) 楊永超(ヤン・ヨンチャオ)
小癩子(少年) 李丹(リー・ダン)
小四〈シャオスー〉(少年) 李春(リー・チュン)
小四(青年) 雷漢(レイ・ハン)
紅衛兵 呉大維(ウー・ダーウェイ)
蝶衣の生母 蒋雯麗(ジアン・ウェンリー)

スタッフ

  • 監督:陳凱歌(チェン・カイコー)
  • 製作総指揮:湯君年(タン・チュンニェン)、徐楓(シュー・フォン)
  • 製作:徐楓(シュー・フォン)、徐杰(シュー・チエ)、陳凱歌(チェン・カイコー)、孫慧嫥(スン・ホエイ)
  • 原作:李碧華(リー・ピクワー)『さらば、わが愛 覇王別姫』
  • 脚本:李碧華(リー・ピクワー)、蘆葦(ルー・ウェイ)
  • 美術:楊予和(ヤン・ユーフー)、楊占家(ヤン・チャンミ)
  • 音楽:趙季平(チャオ・チーピン)
  • 撮影:顧長衛(クー・チャンウェイ)
  • 編集:裴小南(ペイ・シャオナン)

日本版舞台 2008年

『さらば、わが愛 覇王別姫』(さらば、わがあい はおうべっき)は、京劇役者の愛憎を描いて世界中で大ヒットした中国映画さらば、わが愛/覇王別姫』 の、初の舞台化作品。 主演の東山紀之は本作で初の女形に挑戦した。

出演

ほか

スタッフ

脚注

注釈

  1. ^ a b 日本では英語版からの重訳がハヤカワ文庫より出版されている(田中昌太郎訳、1993年)。

出典

  1. ^ CORPORATION, KADOKAWA. “さらば、わが愛/覇王別姫 4K”. KADOKAWAオフィシャルサイト. 2025年7月22日閲覧。

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