くまもと阪神の誕生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 11:15 UTC 版)
岩田屋の撤退表明時にはMBOによる独立する案も模索され、ビルのオーナーである九州産業交通が同案を強力に支持していたが岩田屋側が拒否して実現せず、20億円近い保証金を償還しなければならないとされた九州産業交通も窮地に陥ることが心配された。 しかし、2002年(平成14年)3月5日に熊本岩田屋を閉店する方針であることが報じられると、熊本市出身で1988年(昭和63年)から1995年(平成7年)までと1997年(平成9年)から2000年(平成12年)までの通算10年間、熊本岩田屋に勤務した経験を持ち、当時久留米岩田屋経営計画部部長だったため経営内容についてある程度把握していた松本烝治が「もし現行のシステムと人材を新たな百貨店受け皿会社にスムーズに移行できれば、売上高150億円でも十分利益を出して存続できる」と考え、2002年(平成14年)3月28日に高校時代の同級生でもある印刷協同組合・サンカラーの橋本雅史社長に会って話をしたのが県民百貨店設立の始まりである。 橋本雅史は「岩田屋本体など周囲の協力が得られ現有の資産が活用でき、居抜きに近い形で出店できるのならば利益は出していけるのではないか」と判断し、2日後の3月30日にかねてから業界最後発ながら地場屈指の住宅会社に成長した経営手腕を評価していたシアーズホームの創業者で社長の丸本文紀と松本烝治の3人で会って松本の再建案の細部を説明を受け、丸本も松本の熱意に負けて動き出すことになった。 4月9日の閉店の正式発表前後からは、岩田屋が地元への影響を考えて、大丸、三越、阪急百貨店などに水面下で打診をしたが上手く行かず、ビルのオーナーである九州産業交通も東急百貨店など電鉄系百貨店に接触したが具体化できず招致を事実上断念し、熊本商工会議所も8月13日の専門家会議で地元出資での百貨店再開は困難とするなど、後継店舗招致が暗礁に乗り上げてしまった。(九州産業交通が後継店舗の招致断念を熊本県と熊本市に正式に伝えたのは9月24日だった。) 熊本県は従来から取引先の経営や従業員の雇用など地元経済への多大な悪影響を避けるため、岩田屋本社や熊本商工会議所と接触してきたが、7月4日に自ら受け皿会社を設立する案を持っていると聞いていた橋本などとも会って構想を確認し、熊本商工会議所が地元出資での百貨店再開は困難と結論付けた翌日の8月14日に村田信一・商工観光労働部次長が、片岡楯夫部長とも協議した上で橋本などの構想に県としても支援する旨を橋本に伝え、官民一体で後継店舗招致に乗り出すこととなった。 それを受けて、まず大家の九州産業交通の承諾を取り付けると共に岩田屋本社からも営業譲渡・譲受の内諾を得た上で、9月には橋本が懇意にしていた北山創造研究所・北山孝雄を通して接触した阪神百貨店の幹部と面談する為に大阪の阪神百貨店本社へ松本・橋本・丸本の3人で訪問し、10月1日に阪神百貨店の三枝輝行社長が熊本を訪問する約束を取り付けることに成功し、訪問当日には熊本県商工観光労働部の片岡楯夫部長と村田信一次長の仲介で、潮谷義子知事、三角熊本市長、宮嶋昭二熊本商工会議所会頭、岡洋一九州産業交通会長という地元政財界のトップが顔をそろえて地元の熱意を訴え、実際に熊本岩田屋の店内を見て社員の様子を確認し、訪問時には決断していなかった三枝輝行社長がその場で支援を決断した。 この決断を受けて橋本・松本・丸本の3人は受け皿会社の設立の動きを本格化し、県などの協力を受けていたことを踏まえて県民百貨店という名称で10月25日に資本金1100万円の新会社を設立した。 百貨店の営業存続を願う13万6500人の署名)や潮谷知事名で送付された誘致要請文、否決された場合には三枝輝行社長自身が個人的に支援する意気込みを受けて、同じ日に開かれた阪神百貨店の取締役会で提携が承認され、無事支援が受けられることになった。 この決定後、自らの会社経営があったため、本格的な事業開始時には他の人に経営を任せて身を引くことを考えていた創業メンバーである丸本と橋本は三枝など周囲の説得もあって経営陣として残り、丸本が社長、橋本が副社長として引き続き経営に関与し、みずほ銀行を主幹事に、みずほ銀行5億円、三井住友銀行3億円、肥後銀行3億円、東京三菱銀行1億5000万円、熊本ファミリー銀行1億5000万円の総額14億円の協調融資を受ける契約を結んで運転資金調達の目処を付け、2003年(平成15年)1月16日には阪神百貨店による7.5%3000万円の出資を含め、4億円に増資するなど資金面での準備も進め、2月11日に岩田屋が閉店したわずか12日間後の23日に早くもくまもと阪神として店舗と従業員の大半を引継いで開業した。
※この「くまもと阪神の誕生」の解説は、「県民百貨店」の解説の一部です。
「くまもと阪神の誕生」を含む「県民百貨店」の記事については、「県民百貨店」の概要を参照ください。
- くまもと阪神の誕生のページへのリンク