『日本書紀』の編纂
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『日本書紀』は『古事記』と並び日本に伝存する最も古い史書の1つである。しかし『古事記』が序文において編纂の経緯について説明するのに対し、『日本書紀』には序文・上表文が無く編纂の経緯に関する記述は存在しないため、いつ成立したのか『日本書紀』それ自体からはわからない。『日本書紀』の成立について伝えるのは8世紀末に完成した歴史書『続日本紀』であり、養老4年(720年)5月癸酉条に次のようにある。 .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}先是一品舎人親王奉勅修日本紀 至是功成奏上 紀卅卷系圖一卷以前から、一品舎人親王、天皇の命を受けて『日本紀』の編纂に当たっていたが、この度完成し、紀三十巻と系図一巻を撰上した。 ここから、『日本書紀』の成立は養老4年(720年)とするのが一般的である。しかし『続日本紀』の記述は簡潔であるため、いつから編纂が始まり、どのような経緯を経て完成に至ったのか確認することはできない。このため現代の学者は『日本書紀』の内容に基づいてその具体的な経緯を推定している。 歴史学者坂本太郎は、天武天皇10年(681年)に天皇が川島皇子以下12人に対して「帝紀」と「上古の諸事」の編纂を命じたという『日本書紀』の記述を書紀編纂の直接の出発点と見た。21世紀初頭現在でもこの見解が一般的である。なお、近年になって笹川尚紀が持統天皇の実弟である建皇子に関する記事に関する矛盾から、『日本書紀』の編纂開始は持統天皇の崩御後であり、天武天皇が川島皇子に命じて編纂された史料は『日本書紀』の原資料の1つであったとする説を出している。 高寛敏は、『日本書紀』編纂の出発点は天武記定本にあるが、それを具体化したのは、701年の大宝律令の完成と704年の国名表記の改定からであり、これによって初めて、『日本書紀』編纂の基本理念と歴史叙述に不可欠な地理的表現が確定したと考察した。また、天武年間から704年までの間は、史料の蒐集期間であり、まず天皇は皇帝=周辺の藩屏国から朝貢される存在とされ、それを事実化するために朝鮮関係資料が必要となり、旧伝や天武賜姓に絡む異伝、それに民間伝承なども参照されなければならず、それらの個別的で断片的な史料は、律令の理念に沿うように手を加えられ、固有名詞もできるだけ統一されたが、それが分注などに引用された一書であると考えられる。 また、645年の乙巳の変が『日本書紀』にも藤原氏の『藤氏家伝』にも伝えられているが、この2つは藤原不比等が父の中臣鎌足を顕彰するために、また『日本書紀』の史料として8世紀初めまでに書いた「原家伝」に基づいて書かれたと考えられるとした。 加えて、高寛敏は、『日本書紀』、『藤氏家伝』はともに「三韓進調」「三韓表文」の語を用いているが、「三韓」とは「原家伝」にあった言葉であり、逆に「原家伝」以外の原本にはこの語は見えず、「三韓」の語は、隋唐時代に朝鮮三国を指して用いられ、7世紀後半には新羅でも用いられていることから、不比等は新羅使と積極的に接触しており、三韓一統の功臣である金庾信についてよく知っていたため、不比等は、金庾信と武烈王の逸話を用いて、鎌足と中大兄皇子間の話に換骨奪胎し、「三韓」の語を借りて乙巳の変の舞台を作ったとした。 そして、以上の点から、不比等は『日本書紀』編纂の全般に関わったと考えられ、『日本書紀』編纂のリーダーは舎人親王であるが、実際の責任者は不比等であり、不比等は自ら携わった大宝律令の理念を『日本書紀』で歴史化したと主張した。 なお、『続日本紀』和銅7年(714年)2月戊戌条に記された詔によって紀清人と三宅藤麻呂が「国史」の撰に加わったとする記事が存在しているが、『続日本紀』文中に登場するもう一つの「国史」登場記事である延暦9年(790年)7月辛巳条に記された「国史」が『日本書紀』を指し、かつ『続日本紀』前半部分の編纂の中心人物であった菅野真道本人に関する内容であることから、菅野真道が「国史」=『日本書紀』という認識で『続日本紀』を編纂していたと捉え、紀・三宅の両名が舎人親王の下で『日本書紀』の編纂に参加したことを示す記事であると考えられている。
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