「ラウエル所蔵文書」の翻訳・出版
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「GHQ草案手交時の脅迫問題」の記事における「「ラウエル所蔵文書」の翻訳・出版」の解説
その後の検証作業は、高柳賢三と田中英夫によって行われた。1965年の夏、高柳賢三はラウエルから憲法制定の過程に関わる文書の全部―「ラウエル所蔵文書」―のコピーの提供を受け、それを田中英夫が翻訳し、1965年から1967年にかけて、『ジュリスト』に「ラウエル所蔵文書」の題で24回に渡り連載した。2・13会談の記録は、第357号(1966年11月1日号)に連載第21回として掲載された。前述したように、これはケーディスら3人が連名で書き、ホイットニーに報告したものである。 以下は、1946年2月13日、日本側がGHQ草案を読み、松本が「貴案ハ我方ノ考ト余ニ懸離レ居ル為」「充分検討ノ上更ニ御相談致シ度シ」と述べたあとのホイットニーの発言である。冒頭、ホイットニーは、「自分は非常にゆっくりしゃべるが、もし松本博士に分からない点があれば、いつでも私の発言をさえぎっていただきたい、というのは、吉田氏だけでなく松本博士にも、自分のいうことを一語残らず理解して欲しいからである」と言い、次いで次のように述べた。 「さて、みなさんにこの文書の内容をよくみていただいたわけですが、これまでどおりわれわれはすべて手のうちを見せあって行きたいと思いますので、最高司令官がこの文書をあなた方に提示しようと考えるにいたった真意と理由とについて、若干説明を加えたいと思います。最高司令官は、最近各党が公にした政綱が憲法改正を主たる目的としていることを知り、また国民の間に憲法改正が必要だという認識が非常に高まっていることを知りました。国民が憲法改正を獲得できるようにするのというのが、最高司令官の意とするところであります。」「あなた方が御存知かどうか分かりませんが、最高司令官は天皇を戦犯として取り調べるべきだという他国からの圧力、この圧力は次第に強くなりつつありますが、このような圧力から天皇を守ろうという決意を固く保持しています。これまで最高司令官は、天皇を護ってまいりました。それは彼が、そうすることが正義に合すると考えていたからであり、今後も力の及ぶ限りそうするでありましょう。しかしみなさん、最高司令官といえども、万能ではありません。けれども最高司令官は、この新しい憲法の諸規定が受け容れられるならば、実際問題としては、天皇は安泰になると考えています。(略)」 「最高司令官は、私に、この憲法をあなた方の政府と党に示し、その採用について考慮を求め、またお望みなら、あなた方がこの案を最高司令官の完全な支持を受けた案として国民に示されてもよい旨を伝えるよう、指示されました。もっとも、最高司令官は、このことをあなた方に要求されているのではありません。(略)最高司令官は、できればあなた方がそうすることを望んでいますが、もしあなた方がそうされなければ、自分でそれを行うつもりでおります。(略)」 「マッカーサー将軍は、これが、数多くの人によって反動的と考えられている保守派が権力に留まる最後の機会であると考えています。そしてそれは、あなた方が左に急旋回〔してこの案を受諾〕することによってのみ、なされうると考えています。 (以下略)」 — 2・13会談でのホイットニー発言より 話が一段落してから、ホイットニーは、松本が一度も通訳の助けを借りなかったことを話題にし、松本もこれに応えて、自分はホイットニーの言ったことは完全に理解したが、このことを総理大臣に知らせ、かつ憲法草案について検討し討議する機会をもつまでは、ホイットニーに回答することはできないと述べている。次いで松本は通訳者を介して、一院制を定めた規定について論議を始める記述が続くが、これは日本側の記録と同様である。 『ジュリスト』の連載を単行本にしたものが、1972年刊行の『日本国憲法制定の過程』I・IIである。1946年の松本「二月十三日会見記略」から26年後、1954年の自由党証言から18年後にアメリカ側の詳細な記録が世に出た。これは2・13会談当日に記録され、証拠性が極めて高いと思われた。同著の「序にかえて」の中で高柳は、「GHQ草案を日本に示したのは日本政府に対する命令ではなく、勧告であって、日本政府は説得によって、この勧告に従うことになったと考えていた司令部関係者は、GHQ草案押し付け論は心外なことと感じていた」と書き、同著により日本国憲法の制定に関する歴史的事実の解明が期待された。
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