「カトウ・チャカ」
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「タニワタリノキ連」の記事における「「カトウ・チャカ」」の解説
熱帯アジアからオーストラリア北部にかけて分布が見られる木本バンカル(Nauclea orientalis)の学名はリンネにより記載されたものであるが、リンネがこの学名の根拠とした資料の一部には「カトウ・チャカ」 (Katou Tsjaca あるいは Katou Tsjaka) というバンカルとは別の種への言及が含まれていた。この「カトウ・チャカ」の正体が何であるのかは19世紀以来諸説入り乱れることとなったが、1984年以降はクビナガタマバナノキとする説で固まりつつある。 バンカルは最初リンネにより『植物の種(英語版)』初版 (1753年) で Cephalanthus orientalis という学名が与えられ、後にリンネ自身の手によりナウクレア属に組み替えられたものである。そしてこの『植物の種』初版には複数の資料が引用されているが、それは実質的には次の3種類のものに絞られる。 ヘルマンの植物標本室の図版338番に基づいてリンネが著した『セイロン植物誌』 p. 22, no. 53 (1747年) の記述 ヘンドリク・アドリアーン・フォン・レーデ・トート・ドラーケステイン(英語版)による『マラバル植物園(英語版)』第3巻、p. 29 および図版33番 (1682年) ベルナール・ド・ジュシューによる果実2個の情報あるいは資料 この中でバンカルを指していると認められるのは最初のヘルマンの図版のみであり、ジュシューによる情報は対応する記録が見つからず資料も現存しないとされる。そして残る Rheede (1682) は現地語名の音写「カトウ・チャカ」の名と共に紹介されているものであるが、このカトウ・チャカが何の種に対応するのかに関しては以下に挙げるように3通りの解釈が出され、そのいずれもがバンカルとは異なる種であったとする見解である。 Haviland (1897:32) および Merrill (1915:533) による Ochreinauclea missionis 説 Wight & Arnott (1834) による Neonauclea purpurea 説 Rumphius (1743)、Trimen (1894)、Bakhuizen van den Brink (1970:473) によるクビナガタマバナノキ説 レーデ・トート・ドラーケステインの『マラバル植物園』はインド南西部のマラバール地方、つまり現在のケーララ州にあたる地域で見られる植物を対象とした著作であり、リズデイルは「カトウ・チャカ」という呼称の由来を探るために同地域の植物誌3冊を参照しているが、候補となる3種の現地語名は以下の通りである。 「カトウ・チャカ」の候補とその現地語名Bourdillon (1908)Gamble & Fischer (1921)Rama Rao (1914)Neonauclea purpurea- Ahwan - Ochreinauclea missionisタミル語およびマラヤーラム語:Attu vanji Attu vanji マラヤーラム語:Attuvanji クビナガタマバナノキマラヤーラム語: Attu ték, Kodavâra, Chakka Kodavara: Attu tek マラヤーラム語:Kodavara, Attuthekku リズデイルは 'Katu' から 'Attu' への変化や 'Tsjaca' から 'chakka' への変化は許容範囲であるように思えると述べ、「カトウ・チャカ」とは Attu chakka のことで、クビナガタマバナノキを指して広域で一貫して用いられてきた呼称である模様だとしているが、実際にはクビナガタマバナノキを指して〈野生のジャックフルーツ〉を意味するマラヤーラム語名 കാട്ടുചക്ക (kāṭṭucakka) も存在する。いずれにせよ3つの候補のうち N. purpurea に関してはそもそも呼称以前に花の色、雌蕊(めしべ)の柱頭(英語版)の形状、果実の断面といった要素が「カトウ・チャカ」と十分に一致せず、さらに N. purpurea 自体ケーララ州トラヴァンコールには稀にしか見られないということもあり、リズデイルは真っ先に「ありえないであろう」としている。ただ残る2つの候補に関しても O. missionis は葉がより倒卵形で托葉がはっきり半宿存性である点、クビナガタマバナノキは葉が無毛で基部が楔形といった特徴は普通は持たない点が「カトウ・チャカ」の記述や図像とは食い違っている。この「カトウ・チャカ」の図版には花と果実の両方が描かれているが、そのことや先述の現地語名の一貫性を総合しリズデイルは、これらが別々の機会に採取されたもので、レーデ・トート・ドラーケステインは本来クビナガタマバナノキについて述べたかったものの実際には複数の要素が混ざっていたのではないかと推察している。その後1984年にジャン・ボセが混乱していたクビナガタマバナノキの学名を検討し直した際、有効な学名の基となった学名が記載された際の文献が Rheede (1682:t. 33) を引用しているということもあり、この図版をタイプとしている。 なおバンカルとクビナガタマバナノキの形態には以下のような相違点が存在する。 バンカルとクビナガタマバナノキとの相違点バンカルクビナガタマバナノキ頂生生長の芽強く扁平(ただしまれに見かけが円錐状のものも見られる) 円錐状 托葉半跨状ではない 半跨状 花冠漏斗状 高坏状 子房2室、胎座がY字形で2つの短い上向きの腕と長く下向きの足を持つ 下部は2室だが上部は4室、胎座は2つで全体的に裂けたところがないか二また 果実集合果 集合果ではなく、子房の上部に4つの空洞な軟骨質の構造物(#検索表の胎座の図を参照)を持つ 種子(ナウクレア属全体について)卵状から楕円状、時に弱く左右相称に偏平 幾ばくか3角状あるいは不規則な形状
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