《来ていただく》の敬語
「来ていただく」の敬語表現
「来ていただく」は、「来て」と「いただく」から成り、相手に「来る」ことを「してもらう」という意味です。「来る」の敬語表現は、尊敬語は「お見えになる・いらっしゃる・おいでになる・お越しになる」、謙譲語は「参る・伺う」、丁寧語は「来ます」となり、「いただく」は「自分のために相手に何かをしてもらう」という意味の謙譲語です。「来ていただく」の敬語表現は「来て」の尊敬語と、謙譲語である「いただく」を合わせて「いらしていただく・おいでいただく・お越しいただく」となります。「いらしていただく」は「いらっしゃっていただく」を略した表現です。どちらかというと身近な人に丁寧に頼む場面で用いるのに適しており、「相手に来てほしいと頼むこと」に対し恐縮するような場面では用いません。
「おいでいただく」は目上の人に対し広く用いることができる表現です。「お越しいただく」は「おいでいただく」とほとんど同じニュアンスですが、「越」という字が入ることから「わざわざ遠方から来てもらう」「わざわざ忙しい中来てもらう」といった相手の労力や手間に対する敬意や恐縮を感じさせるため、どちらかというとより強く敬意を表したい場合に用いられます。
「来ていただく」の敬語の最上級の表現
「来ていただく」の敬語の最上級の表現は、「来る」の敬語「おいでになる・いらっしゃる」の古語「おはす」に、尊敬の意を表す補助動詞の古語「たまふ」を付けて「おはしたまふ」となります。なお、現代仮名遣いでは「おわしたまう」と表します。「来ていただく」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
例えば、仕事の打合せをするために顧客や取引先の担当者など目上の相手に自社まで来てもらいたい場合は、相手に手間をかけさせてしまうことに対し敬意と恐縮を表す意味で「お越しいただく」を用いるのが適しています。以下にビジネスメールや手紙での例文をご紹介します。なお、このほか、相手との関係性やその時の状況などにより「お越しいただきますようお願い申し上げます」「お越しいただければ幸いです」「お越しいただいてもよろしいでしょうか」「お越しいただきたく存じます」「お越しください」などの表現を用いると良いでしょう。□□株式会社運営サービス部A山様
お世話になっております。△△株式会社企画部のB川です。
先日お伝えいたしました〇〇プロジェクトについて打合せしたく存じます。大変恐縮ですが、弊社までお越しいただきますようお願いいたします。打合せのお時間は1時間程度を考えており、候補日時は以下に記載いたします。もしご都合が合わない場合は、別途候補日時をいくつかご教示いただけますと幸いです。
【候補日】
〇月〇日10〜12時
〇月△日14〜17時
〇月◇日終日可能
お忙しい中お手数をおかけしてしまい申し訳ございません。ご回答をお待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします。
△△株式会社企画部B川
事業所所在地・連絡先
「来ていただく」を上司に伝える際の敬語表現
自社の上司に対しては「おいでいただく」が適しています。一般的に「いらしていただく」だと少し近しく親しげな感じ、「お越しいただく」だと他人行儀で少し仰々しいような感じを与えます。上司との関係性や上司の役職により使い分けても構いませんが、もしも迷ったときは「おいでいただく」を「おいでください」「おいでいただければ幸いです」「おいでいただけますか?」のように活用すれば、失礼にあたることもなく安心です。「来ていただく」の敬語での誤用表現・注意事項
「来ていただく」の敬語「いらしていただく・おいでいただく・お越しいただく」を用いるうえで、誤用されがちな表現や注意事項をご紹介します。「いらしていただく」はこの3つのうち最も敬意の度合いが低い表現のため、社外の人など目上の人に対して用いない方が無難です。また「いらして(いらっしゃって)」は、「来る」のほか「行く」「居る」という意味も持つため、もしも相手に誤解を与える可能性がある場合は、他の表現に言い換えましょう。
「おいでいただく」で誤用されがちな表現には「おいでになられる」があります。これは「おいで」も「られる」も敬語のため二重敬語となり適切ではありません。また「おいで」は「いらして(いらっしゃって)」と同様に、「来る」のほか「行く」「居る」という意味も持つため、この場合も相手に誤解を与える恐れがある場合は、他の言い方で表現しましょう。
「お越しいただく」で誤用されがちな表現には「お越しいただければと存じます」があります。「〜れば」は条件提示の表現なので、本来はその後に「その条件ならなにか」が続くべきですが、この表現ではすぐに「存じます(思います)」という言葉を続けているため適切ではありません。この場合、例えば「お越しいただければ幸いに存じます」か「お越しいただきたく存じます」と修正すれば問題ありません。また「お越し」は「来る」のほか「行く」という意味も持ちますが、ほとんどの場合「来る」で用いられています。
なお、「おいでいただく」でご紹介した「二重敬語」と「お越しいただく」の「条件提示+存じます」の誤用例は、一方だけでなく両方に当てはまります。
「来ていただく」の敬語での言い換え表現
「来ていただく」の敬語での言い換え表現には、「お運びいただく」「ご来訪いただく」「お立ち寄りいただく」「ご足労いただく」などがあります。「お運びいただく」や「ご来訪いただく」は「おいでいただく」「お越しいただく」より少し改まった感じを与えるため、社外などの目上の人に対する言い換えに用いることができます。また「お運び」は「お越し」と同様に「来る」のほか「行く」という意味も持ちますが、大抵の場合「来る」で使用されています。「お立ち寄りいただく」は目的地に向かう途中や他の用事などの「ついでに来てもらう」という意味があり、社外などの目上の人も含めて期日を問わない要件などの場合に、拘束力を感じさせず柔らかく「来て」と伝えたいときに使用できます。「ご足労いただく」は「わざわざ相手に足を運んでもらったことをいたわる」という意味があり社外などの目上の人に使えますが、使うタイミングには注意が必要です。最も適しているのは「相手の来訪が決定した後」と「相手が来た後」です。この場合は「このたびはご足労いただきありがとうございます」のように用います。一方、相手に来てもらう承諾を得るために「ご足労いただければ幸いです」「ご足労いただきますようお願いします」のように用いると失礼な印象を与えてしまうため適切ではありません。また、相手のミスなどが原因で来てもらった場合は、嫌味のように聞こえてしまうこともあるため来訪後であっても使わないようにしましょう。なお、謝罪の場合は「ご足労をおかけし申し訳ございません」のように「いただき」ではなく「おかけ」を使う表現とします。
さらに、特に改まった依頼文や挨拶で使われる表現としては「尊来(そんらい)」「光臨(こうりん)」「光来(こうらい)」「来臨(らいりん)」「枉駕(おうが)「来車(らいしゃ)」「来駕(らいが)」などがあります。「枉駕」以外は、「御尊来」「御光臨」のように、多くの場合頭に「御」をつけます。また「来臨」は相手がどこかの場所に来たり、式・催しなどに出席したりすること、「枉駕」は車の方向を曲げてまでわざわざ訪れること、「来駕」「来車」は車に乗ってわざわざ訪れることを意味します。
なお、ここまでご紹介した「〜いただく」という表現は「私が相手に〜してもらう」という意味で「私」が主語です。これらはすべて相手が主語の「相手が私に〜してくれる」という意味になる「〜くださる」に言い換えることができます。同じ文章のまま置き換え可能であり意味もほぼ同じですが、選択する際は、文脈から自分と相手のどちらを主語にした方がより自然な表現となるかを見て判断しましょう。
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