住血吸虫症とは?

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住血吸虫症


住血吸虫症は、成虫静脈内寄生することで生じる疾患である。尿路住血吸虫症に属すビルハルツ住血吸虫症(病原体Schistosoma haematobium )、腸管住血吸虫症に属すマンソン住血吸虫症(S. mansoni )、日本住血吸虫症(S. japonicum )、メコン住血吸虫症(S. mekongi )、およびインターカラーツム住血吸虫症(S. intercalatum )の5種類分けられ、ヒトが河、湖、沼な どの淡水に入って感染する。本疾患流行地では、社会経済的公衆衛生的にマラリア次いで2番目に重要な寄生虫症とされている。わが国では以前日本住血吸虫症特定地域多発していたが、今では撲滅されて新たな患者発生見られない。しかし最近日本人流行地に旅行滞在したり、さらに外国人日本訪問増えるにつれて輸入感染症としての重要性が高まりつつあり、国内医療機関適切な医療対応を行なう必要が増大している。

疫 学

世界保健機関推定では、世界中で2億人が本疾患罹患しており、それによる重篤合併症での死亡毎年2万人あるとされている。ビルハルツ住血吸虫症は中東マダガスカルを含むアフリカ広範地域モーリシャスに、マンソン住血吸虫症はアラビア半島アフリカ赤道より北の殆どの国(エジプトリビアスーダンソマリアマリセネガル)、モーリシャスブラジルカ リブ海諸国いくつかスリナムベネズエラなどに分布する。日本住血吸虫症中国揚子江流域フィリピンインドネシアスラウェシ島などに、メコン住血吸虫症はカンボジアラオスメコン川流域分布し、インターカラーツム住血吸虫症は西~中央アフリカ限局して分布する。

旅行者については、高度流行地であるアフリカへの旅行者が多いヨーロッパにおいても、本疾患届出疾患ではないので、その全体像明らかにされていない。しかし、ヨーロッパにおける旅行者疾患のサーベイランスネットワークであるTropNetEuropは、旅行者のみならず流行地 からの移民対象に、マラリアデング熱とともに住血吸虫症の症例集計解析を行なっている。そこでは19992001年の期間に、参加医療機関22カ所より333例が報告されている。そのうち種別記載されていた226例のうち、92例がビルハルツ130例がマンソン、4例がインターカラーツム住血吸虫症であり、日本およびメコン住血吸虫症はみられなかった。感染地域としてはアフリカが殆どを占めなかでも西アフリカ多く、国別ではマラウイガーナマリブルキナファソエジプトの順であった。

アフリカでは住血吸虫症のリスクが高いことは一般にも知られていたが、英国の有名なガイドブックに、マラウイ湖では住血吸虫症にはかからないと間違って記載されていた。そのため多く旅行者無防備マラウイ湖淡水入り英国人旅行者中心として多くの人が罹患し、わが国でも感染例が報告されている。

かつてわが国にも、甲府盆地をはじめ、九州筑後川流域広島県片山地方静岡県富士川流域などに、日本住血吸虫症幾つかの流行地があった。しかし、中間宿主となる宮入貝対策中心に撲滅計画進み感染者数が大幅減少した結果1976年最後に国内日本住血吸虫新しく感染した例は報告されていない。ただし、河川整備宅地開発影響宮入貝生息地減少し、現在その生息確認できない旧流行地も多いが、甲府盆地小櫃川流域千葉県)には未だ宮入貝多数生息している。これら日本産の宮入貝は、フィリピン中国日本住血吸虫にも感受性があり、ヒト動物移動伴ってそれらの国から日本住血吸虫侵入した場合国内再興感染症となる可能性否定することはできない。この点は、国内中間宿主存在しないマンソンおよびビルハルツ住血吸虫症と大きく異なる。

病原体

図1. 主要な住血吸虫3種における虫卵 a:ビルハルツ住血吸虫 b:マンソン住血吸虫 c:日本住血吸虫


感染動物ビルハルツ住血吸虫ではヒトマンソン住血吸虫では齧歯類ヒヒ日本住血吸虫ではウマイヌなどを含む多く動物である。ヒトを含む感染動物が尿や便中に虫卵排泄するが、虫卵サイズビルハルツマンソン住血吸虫では110170×4070 μmであり、前者場合先端部に(図1a)、後者場合一側に有する(図1b)。日本住血吸虫卵は80100×4060 μm長径がやや短く、楕円形側面に小有する(図1c)。メコン住血吸虫卵は日本住血吸虫卵に、インターカラーツム住血吸虫卵はビルハルツ住血吸虫卵に類似する。虫卵中にはミラシジウム形成されるが、これが水中中間宿主としての淡水産貝に侵入する。それぞれの住血吸虫異な淡水産貝に寄生するが、ビルハルツおよびインターカラーツム住血吸虫ではBulinus 属、マンソン住血吸虫ではBiomphalaria 属、日本住血吸虫ではOncomelania 属(宮入貝)、メコン住血吸虫ではTricula aperta である。淡水産貝の中ではスポロシスト経てセルカリア成長する。セルカリアは約0.3 mm長さ二分した尾部を持つが、これが淡水中を遊泳し、ヒトの皮膚貫通して血中侵入する。その後ヒト体内で肺を通過してから静脈定着するが、シストソミュールのステージ経て成虫となる。

成虫雌雄異体で、雌が雄抱えた形で静脈内寄生する。体長ビルハルツ住血吸虫の雄1015 mm、雌1620 mmマンソン住血吸虫の雄が6~10 mm、雌が7~16 mm日本住血吸虫の雄1220 mm、雌25 mm程度である。これらの成虫定着する静脈には特徴があり、それにより特徴的病変生ずるが、すなわち、尿路住血吸虫は主に骨盤静脈で特に膀胱周囲腸管住血吸虫門脈腸管静脈)内に寄生する。虫卵は主に前者場合膀胱壁や尿管壁、後者では腸管壁肝臓沈着する。成虫寿命通常3~5年であるが、まれには30年長きにわたることもある。

臨床症状
皮膚からセルカリア侵入した後、掻痒を伴う皮膚炎セルカリア皮膚炎swimmers itch)を起こすことがあるが、ビルハルツ住血吸虫症ではみられないことが多い。ビルハルツ住血吸虫症の急性期には頻尿血尿見られる慢性期に入って膀胱壁の線維化進行すると、膀胱への尿管開口部狭窄来たし尿管閉塞から水腎症腎盂腎炎腎不全にも進展する。また膀胱壁の虫卵石灰化し、X線検査で明らかとなる。本疾患により、膀胱癌発生30倍に高まると言われている。他に男性では精巣病変を生じ、精液血液混じることもある。女性では外陰部、膣、子宮頚部卵管などに病変生ずことがある

図2. 日本住血吸虫症における肝組織像。肝臓内の門脈に詰まった虫卵周囲特異的炎症反応がおき、肉芽腫形成される。さらに、肝臓の線維化肝硬変へと発展し、肝臓脾臓腫大する。
図3. 日本住血吸虫症罹患した小児における顕著な肝脾腫腹水貯留

マンソンおよび日本住血吸虫症では、4週間あるいはそれ以上経ってから急性期症状片山熱)が出現し、発熱蕁麻疹好酸球増多、下痢、肝脾腫咳嗽/喘鳴などを生じる。慢性期では、腸管肝臓沈着した虫卵中心に結節が生じる(図2)。そして、腸管では線維化ポリープ形成により腹痛下痢粘血便がみられ、ときには腸閉塞生ずることもある。肝では肝線維症へと進行し、特徴的画像所見示し長期経過すると肝脾腫門脈圧亢進腹水(図3)、食道静脈瘤形成、そこからの出血をきたす。これらの変化日本住血吸虫症の方が顕著みられる肝臓の病変一見して肝硬変類似するが、肝機能長期間正常に保たれることが多い。日本住血吸虫症では大腸癌肝細胞癌発生が高まると言われたが、最近疫学調査では否定的見解も多い。

さらに、日本住血吸虫症では脳内血管虫卵塞栓により、脳腫瘍類似の症状など多彩な神経症状を示すことがある近年駆虫剤プラジカンテルによる集団治療が進んだ結果流行地によっては典型的な肝脾腫を示す例が相対的に減少し、神経症状が目立つようになったとの報告もある。ビルハルツおよびマンソン住血吸虫症では神経症状を示す例はまれであるが、やはり脳の病変により脳腫瘍類似の症状脊髄病変により脊髄圧迫症状馬尾症候群を生じることもある。


病原診断
尿路住血吸虫症では主に尿沈渣中に虫卵検出するが、これには昼間の尿が適している。 定量的にはヌクレポア膜濾過が行われる。ときには膀胱壁の生検材料検出されることもあ る。腸管住血吸虫症では通常便を用い、直接塗抹あるいはASM III法などの遠心沈殿集卵法 にて虫卵検出する。ときには直腸粘膜生検材料検出されることもある。住血吸虫症の 型と虫卵検出検体との関係は絶対的なものでなく、尿路住血吸虫症で便中に腸管住血吸虫 症で尿中に虫卵検出されることもあり得る。

血清反応としては虫卵周囲沈降反応COPT)、EIA法などがある。しかし、過去感染現 在の感染区別できないこと、住血吸虫種の間での交差反応ありうること、感染後3カ月程度 経過しないと陽性を示さないことが多いなどの限界もある。また、可能な限り対象とする住血 吸虫由来抗原を用いた血清反応行なうべきである。さらに、間接的であるが、CT検査超音波検査での特徴的な肝線維化所見腸管住血吸虫症の診断に役立つことがある

治療予防
いずれの住血吸虫症でもプラジカンテル40 mg/kgの単回投与基本であり、殆どは治癒に至るとされている。しかし、特にマンソンあるいは日本住血吸虫症では30 mg/kgの2~3回投与40 mg/kg/日・分2の2日投与が行われることもある。プラジカンテル副作用軽微であり、出現しても一過性である。治療3カ月後に虫卵検査行い治癒判定をする。

急性期片山熱は基本的に自然治癒するもので、プラジカンテル投与が必要であるかどうか不明であるが、重症例ではステロイド薬も使われる。片山熱でプラジカンテル投与しても、幼虫対す効果顕著でないことから、3カ月後に再投与することが勧められる。中枢神経系 病変ではプラジカンテル単独では症状悪化することも懸念され、ステロイド薬併用される。生検材料石灰化虫卵検出されるのみで、虫卵排泄がみられない場合には、通常治療の要はない。

予防としては危険地域淡水に入らないことである。海あるいは通常の塩素処理されたプールでは感染することはない。淡水に入るのが避けられない場合には、ゴム長靴ゴム手袋などを着用する。淡水曝露されてからタオルなどで丹念に拭いても、予防効果不明である。ま た、プラジカンテル予防効果はない。

近年抗マラリア薬であるアーテミシニンのひとつアーテメーターが、抗住血吸虫としても注目されている。アーテメーターは住血吸虫幼虫ステージにも効果を示すので、感染早期治療薬としてのみならず予防にも使用できるとの報告もあるが、まだ一般的になっていない


住血吸虫症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/02/09 13:16 UTC 版)

住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう、Schistosomiasis)とは、住血吸虫科に属する寄生虫に感染することにより引き起こされる病気の総称である。致死率こそ高くないものの、長期にわたり内臓を痛める慢性疾患であり、社会的経済的影響が大きい。淡水産の巻貝中間宿主となっており、皮膚を汚染された水に浸すことで感染する。 WHOによれば、世界77ヶ国で2億人以上が感染しているとされる。[1]


  1. ^ a b c Fact Sheet 115 Schistosomiasis”. World Health Organization (2012年1月). 2012年10月18日閲覧。
  2. ^ Carl AJ, et al. Katayama fever. N Engl J Med 2016; 374:469. DOI: 10.1056/NEJMicm1504536
  3. ^ Oliveira, G.; Rodrigues N.B., Romanha, A.J., Bahia, D. (2004). “Genome and Genomics of Schistosomes”. Canadian Journal of Zoology 82 (2): 375–90. doi:10.1139/Z03-220. http://www.ingentaconnect.com/content/nrc/cjz/2004/00000082/00000002/art00012. 
  4. ^ Kheir MM, Eltoum IA, Saad AM, Ali MM, Baraka OZ, Homeida MM (February 1999). “Mortality due to schistosomiasis mansoni: a field study in Sudan”. Am. J. Trop. Med. Hyg. 60 (2): 307–10. PMID 10072156. 


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