交換
『王子と乞食』(トウェイン) 乞食の少年トムは、「本物の王子を見たい」との願いを持っていた。ある日、トムはウエストミンスター宮殿の門前まで来て、門内にエドワード王子の姿を見る。番兵がトムを捕らえるが、エドワード王子は番兵を叱りつけて、トムを宮殿内に入れる。トムは王子にあこがれ、王子はトムの自由な生活に興味をおぼえて、2人はお互いの衣服を取り替える。
『古事記』上巻 兄ホデリ(=海幸彦)は魚を、弟ホヲリ(=山幸彦)は獣を取って暮らしていた。ある時、弟ホヲリが「お互いの漁具と猟具を取り替えよう」と提案したが、兄ホデリはそれを許さなかった。しかしホヲリから3度請われて、ようやくホデリは交換に応じた〔*『日本書紀』巻2神代下・第10段本文および一書第1では、兄弟が相談して道具を交換する。一書第3では、兄が交換を提案する〕。
『毛蟹の由来』(中国の昔話) 蟹が握り飯を食べているところへ猿が来て、「お前の握り飯を、おれの桃の種と取り替えっこしないか?」と声をかける。猿は言う。「握り飯は食ってしまえばそれっきりだ。桃の種を川岸に埋めて育てれば、3年たつとたくさんの実がなる」。蟹は「それもそうだ」と納得して、握り飯と桃の種を交換する(浙江省)→〔猿〕6。
『猿蟹合戦』(昔話) 猿と蟹が遊びに出て、猿は柿の種を拾い、蟹は握り飯を拾う。猿は、蟹から握り飯をまきあげようと思い、蟹にむかって言う。「君の握り飯は食べてしまえばそれっきりだが、僕の柿の種は地に蒔けば、やがて柿の木が生え、実がいっぱいなる」。蟹は猿の口車に乗せられて、握り飯と柿の種を交換する→〔猿〕6。
★2.影あるいは魂と交換に、富を得る。
『影をなくした男』(シャミッソー) 青年シュレミールは、灰色の燕尾服の男に請われて、自分の影を、いくらでも金貨が出てくる幸運の金袋と交換する。シュレミールは大金持ちになるが、影がないと人間扱いされないことを知り、「影を返せ」と灰色服の男に言う。ところが男の正体は悪魔で、「影を返してやるから、死後、魂を渡せ」と要求する〔*シュレミールは魂を与えず、その後も影のないまま生きる〕。
無間の鐘の伝説 遠江国の光明山の寺の鐘をつく人は、現世で必ず富貴になるが、それと交換に、来世は無間地獄に落ちる。その鐘は今は土中に埋めてあるので、つくことができない。貪欲の人は、せめてものことに、鐘を埋めた上に立って足で踏み鳴らすという(静岡県掛川市粟が岳)。
*お金を打ち出す鞭と、魂を交換する→〔悪魔〕1aの『悪魔と悪魔のおばあさん』(グリム)KHM125。
★3a.耳と交換に、金を得ようとする。
『耳の値段』(安部公房) 事故などで眼球や指を失うと、保険金が得られる。耳たぶを失っても保険金が出るので、大学生2人が「耳たぶなんか、なくても困らない」と言って、耳を失う事故にあうよう様々な試みをする。しかしなかなかうまくいかず、結局挙動不審で警官に逮捕されてしまう。
★3b.舌と交換に、人魚が脚を得る。
『人魚姫』(アンデルセン) 人魚姫は地上にあがって王子に逢うため、海の魔女に頼んで尻尾を2本の脚に変えてもらう。それと交換に、魔女は人魚姫の舌を切り取って、姫の美しい声を自分のものにする。声を失った人魚姫は、王子に逢っても無言のままでいなければならない。
★3c.目と交換に、食べ物を得る。
『旅あるきの二人の職人』(グリムKHM107) 仕立て屋と靴屋が、旅をする。仕立て屋は食べ物がなくなって、動けなくなる。靴屋はパンを1切れ、仕立て屋に与える。「ただし無償(ただ)ではない」と言って、靴屋は仕立て屋の右目を小刀でえぐり出す。2人は旅を続け、靴屋はパンをもう1切れ仕立て屋に与えて、彼の左目をえぐる。靴屋は、盲目になった仕立て屋を、野原の絞首台のそばに置き去りにする→〔首くくり〕5。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第15章 大樹ユグドラシルの根の下にミーミルの泉があって、知恵と知識が隠されている。オーディンが来て、泉の持ち主ミーミルに「一口飲ませて欲しい」と頼み、片目を与えた。
*5年あるいは30年の命と交換に、名歌を詠む→〔歌〕1bの『今鏡』・『西行上人談抄』。
『大般涅槃経』(40巻本)「聖行品」 帝釈天が羅刹に変身し、ヒマラヤ山へ下って、「諸行無常。是生滅法(諸行は無常である。これが生成と消滅の道理である)」の偈を唱えた。苦行者(=雪山童子。仏陀の前世)が、「この教えのためなら命も惜しくない」と思い、自分の身体を羅刹に食わせる約束で、偈の後半「生滅々已。寂滅為楽(生成と消滅の繰り返しがなくなった時、まったくの静寂の安楽が得られる)」を聞かせてもらった。羅刹は帝釈天の姿に戻り、苦行者を讃嘆した〔*『三宝絵詞』上-10に類話〕。
『すぺるむ・さぴえんすの冒険』(小松左京) 遠未来。1人の男の脳に、「あるもの」が語りかける。「お前を人類の中からただ1人選んで、宇宙の一切の秘密と真理を教えよう。その代償に、われわれは220億の全人類の命を奪う。その時、空間に孔(あな)が開いて、お前の変貌した意識は、われわれが今いる所に送り込まれる。お前は、この申し出を受けるか?」。男は拒否する〔*しかし拒否しようがしまいが、まもなく全人類はブラック・ホールに呑み込まれて、死滅する運命だった〕。
『どろろ』(手塚治虫) 戦国時代。醍醐景光は「天下を取りたい」と願い、地獄堂の48体の魔人像に祈る。魔人像は、引き換えに醍醐の子供の身体を要求し、醍醐は「あさって生まれるわしの子供をやろう」と約束する。やがて生まれた醍醐の子供は、目も耳も口もなく、手足もない男児(=百鬼丸)だった。醍醐は、男児をたらいに入れて、川へ流し捨てた。
*逆に、全財産を失うことと引き換えに、子供を授かる→〔長者〕2bの『神道集』巻6-33「三島大明神の事」。
『カター・サリット・サーガラ』「『ブリハット・カター』因縁譚」・挿話2 貧しい男が大商人ヴィシャーキラから、1匹の死んだ鼠を資本として借りる。男はそれを猫の食糧に売り、両手一杯の豆をもらう。その豆を粉にし、冷水と粉とを、休息中の木材運搬業者たちに与えると、業者たちは喜び、1人2本ずつの木材を謝礼にくれる。男は多くの木材を蓄え、多雨で木材が高騰した時に売って財産を築く。男は黄金の鼠を造ってヴィシャーキラに贈り、世人は男を「鼠」と呼ぶ。
『今昔物語集』巻16-28 長谷の観音の夢告を得た男が、帰途わらすじを拾い、それに虻をくくりつけたものを、大柑子3つと取り替える。ついで、布3反・馬・田と、交換を繰り返すにつれて、だんだん価値高い物が手に入る〔*『宇治拾遺物語』巻7-5などに類話。*→〔長者〕1aの『藁しべ長者』(昔話)の古形〕。
『サザエさん』(長谷川町子)朝日文庫版・第39巻113ページ 年末の1日。カツオが波平から年賀ハガキを1枚もらって出かける。カツオはそれを柿の1枝と交換し、柿を菊の鉢植えと交換して、ついには大きなクリスマス・ツリーをかついで帰ってくる。波平は「ワシより世渡りはうまいぞ」と感心する。
『大黒舞』(御伽草子) 大悦の助は、清水観音の化身である老僧の教えにしたがい、藁しべ1筋を拾う。彼は、鼻血の止まらぬ男の小指を藁しべ1すじで結んで血を止めてやり、礼に梨3つを得る。その梨3つを衣2疋(ひき)、それを馬1頭と取り替え、馬は黄金3枚で売れる。
★5a.交換を繰り返して、だんだん価値の低い物と取り替えていく。
『果報にくるまったハンス』(グリム)KHM83 7年の奉公の給金として大きな金塊をもらったハンスは、家へ戻る途中でそれを馬と交換し、その後、牝牛・豚・鵞鳥・砥石と、しだいに価値低い物と取り替えていく。最後に、重いので持て余していた砥石をうっかり泉の中へ落とし、「これで厄介払いができた」とハンスは喜ぶ。
『父さんのすることはいつもよし』(アンデルセン) 百姓が、馬を何か良いものと交換しようと考え、市へ出かける。見るものがすべて良く見え、彼は馬を、雌牛・羊・ガチョウ・めんどり・腐ったりんごの袋と、順次取り替えて行く。りんごの袋を持って帰宅した百姓を、女房は怒るどころか「父さんのすることはいつも良い」と、誉める。そのありさまを見たイギリス紳士が感心して、百姓に100ポンドを与える。
★5b.価値の低い物と交換したと思ったら、そうではなかった。
『ジャックと豆の木(豆のつる)』(イギリスの昔話) 母1人子1人のジャックが、市場へ牝牛を売りに行く途中、老人に出会う。老人が「この豆をまくと、一晩で天まで伸びる」と言うので、ジャックは牝牛を老人に与え、豆をもらって帰って来る。母親はジャックを叱り、怒って豆を庭に捨てる。豆のつるは一夜のうちに成長して天まで伸び、ジャックはつるを攀じ登って、天上の人食い鬼の家を訪れる。
*ひさごのつるが、一夜のうちに天まで伸びる→〔瓢箪〕5の『天稚彦草子』(御伽草子)。
*トルコ豆のつるが、みるみる伸びて三日月に巻きつく→〔月〕1aの『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」。
『西郷札(さつ)』(松本清張) 明治10年(1877)の西南戦争の折、薩軍は独自に発行した紙幣・西郷札で、弾薬や食糧を買い取ろうとした。しかし商人や農民たちは、西郷札を受け取ることをいやがった。薩軍の兵士たちは、隊を組んで富裕な商家を訪れ、わずかな買い物に高額の西郷札を出して、太政官札のつり銭を受け取る、というようなことまでした。
厚狭の寝太郎の伝説 厚狭の庄屋の1人息子・太郎は、寝てばかりいたので「寝太郎」と呼ばれていた。ある時、寝太郎は3年3ヵ月寝て暮らした後にひょっこりと起き出し、船に多くのわらじを積んで佐渡へ渡る。そして新品のわらじを、金山の人足たちの履き古したわらじと無料で交換した。寝太郎は、古わらじを厚狭へ持ち帰って洗い、多量の砂金を手に入れた(山口県厚狭郡山陽町)。
*古いランプを新しいランプと交換する→〔妻〕2の『千一夜物語』「アラジンと魔法のランプの物語」マルドリュス版第765~766夜。
『とはずがたり』(後深草院二条)巻2 二条は、後深草院や「雪の曙(=西園寺実兼)」の愛人であったが、18歳の9月に、高僧「有明の月(=性助法親王?)」ともひそかに関係を結んだ。2人は形見として、互いの肌につけていた小袖を交換した。
*契りを交わした男女が扇を交換する→〔扇〕1の『源氏物語』「花宴」。
*恋敵である男2人が十字架を交換する→〔十字架〕5の『白痴』(ドストエフスキー)。
★8.馬を交換する。
『日本書紀』巻14〔第21代〕雄略天皇9年(A.D.465)7月1日 田辺史伯孫(はくそん)が月夜に帰宅する途中、誉田陵(=応神天皇陵)の下で赤馬に乗る人に出会った。赤馬は素晴らしい駿馬だったので伯孫はこれを欲し、自分が乗る葦毛の馬と交換してもらい、挨拶をして別れた〔*翌朝、赤馬は埴輪に変じた〕→〔馬〕11。
*→〔馬〕4に記事。
★9.名前を交換する。
『古事記』中巻 武内宿禰が、皇太子(=後の応神天皇)を角鹿(敦賀)の仮宮に住まわせた時、夢にイザサワケの神(気比の大神)があらわれ、「我が名を御子の名と換えたい」と告げる。皇太子は、神の言葉のままに、名を交換する〔*『日本書紀』巻10応神天皇即位前紀にも簡略な記事〕。
『日本書紀』巻11〔第16代〕仁徳天皇元年(A.D.313)正月 かつて仁徳天皇誕生の日、木菟(つく)が産屋に飛びこんで来た。同日、大臣武内宿禰の子が生まれるにあたり、鷦鷯(さざき)が産屋に飛びこんだ。瑞兆であるので、それぞれの鳥の名を取り、お互いにあい換えて、生まれた子の名とした。大鷦鷯皇子(おほさざきのみこ)と木菟宿禰(つくのすくね)である。
★10.交換殺人。
『見知らぬ乗客』(ヒッチコック) テニス選手ガイは列車内で、初対面の男ブルーノから交換殺人を持ちかけられる。ガイが離婚したいと思っている妻をブルーノが殺し、ブルーノが憎んでいる父をガイが殺す。犯人と被害者に接点はないから完全犯罪だ、とブルーノは言う。ガイは断るが、ブルーノは勝手に遊園地でガイの妻を殺し、ガイに「早く俺の父を殺せ」と迫る〔*ガイとブルーノはメリーゴーラウンド上で格闘し、ブルーノは死ぬ〕。
*沼の主も、犯人と被害者の接点を作らぬよう工夫した→〔犯人さがし〕4の『沼の主のつかい』(昔話)。
*首の交換→〔首〕8に記事。
*プレゼントの交換→〔二者同想〕1aの『賢者の贈り物』(O・ヘンリー)。
*『猿蟹合戦』などのような意図的な交換ではなく、偶然に互いの持ち物を取り違えるところから始まる物語もある→〔取り違え〕6の『恋におちて』(グロスバード)。
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