夢告
★1.夢の中に神仏などが現れ、直接言葉で意志を伝え、指示を与える。したがって夢解きをする必要がない。
『古事記』中巻 ある夜、熊野の人・高倉下(たかくらじ)が夢を見る。高天原の神々が、地上で苦戦するカムヤマトイハレビコ(=後の神武天皇)を助けるため、太刀を降ろす相談をする、との内容であった。「高倉下の倉の棟に穴を開け、太刀を落とし入れるから、天つ神の御子(=カムヤマトイハレビコ)に奉れ」という夢告があり、翌朝、高倉下が倉の中を見ると、太刀があった〔*『日本書紀』巻3神武天皇即位前紀戊午年6月に類話〕。
『古事記』中巻 疫病で多くの人民が死に、崇神天皇が憂えて神床に寝た夜、大物主大神が夢に現れ「意富多多泥古(おほたたねこ)に我を祭らせれば、国は安らかになろう」と告げた。早速、駅使(はゆまづかい)を四方に走らせて意富多多泥古という人を捜し求め、河内国美努村に彼を見出した〔*『日本書紀』巻5崇神天皇7年2月・8月に類話〕。
『古事談』巻3-107 解脱房の母が、貞慶と名乗る聖人が来て「腹中に宿らん」と請う、との夢を見る。母は懐妊し、解脱房を産む。解脱房は幼時より奈良で修行し、出家後、貞慶と称したので、母は懐妊時のことを思い出して驚く。
『荘子』「外物篇」第26 宋の元君の夢に、髪を乱した人が現れて「河伯の所へ使いに行く途中で漁師の余且に捕まった」と告げる。目覚めた元君は余且を捜し、翌日余且は出頭して「幅5尺の白亀が網にかかった」と報告する→〔亀〕3。
『日本書紀』巻11仁徳天皇11年10月 茨田堤(まむたのつつみ)に、築いてもすぐ壊れる所が2ヵ所あった。天皇の夢に神が現れ、「武蔵の人強頸(こはくび)と河内の人茨田連衫子(まむたのむらじころものこ)を河佰(かはのかみ)に奉れば、壊れる箇所を塞ぐことができる」と告げた。そこで2人を捜し求めて、人身御供とした。強頸は泣き悲しんで水に沈んだ。しかし衫子は抵抗した→〔瓢箪〕4。
『日本書紀』巻19欽明天皇即位前紀 欽明天皇が若い頃、夢に人が現れ「秦大津父という者を寵愛されれば、壮年になって必ず天下をお治めになるでしょう」と告げた。天皇は使者を遣わして捜し求め、山背国紀郡深草里にその人を見出した。
『宇治拾遺物語』巻8-4 紀友則の夢に、死んだ藤原敏行が現れて冥界での苦を訴え、4巻経の書写供養を三井寺の僧某に依頼してくれ、と請う。友則が三井寺の僧某を訪れると、その僧も友則と同じ夢を見ていた〔*『今昔物語集』巻14-29の類話では、橘敏行とする〕。
『黄金伝説』3「聖ニコラウス」 ローマの3人の将軍が、讒訴により死刑を宣告される。3人は聖ニコラウス(=サンタ・クロース)に加護を願う。その夜、皇帝と執政官の夢枕に聖ニコラウスが立ち、「将軍たちを釈放せよ」と告げる。皇帝と執政官は互いの夢を話し合い、将軍たちを釈放する。
『ダフニスとクロエー』(ロンゴス)巻1 ダフニスが15歳、クロエーが13歳の時、捨て子だった彼らをそれぞれ拾い育てたラモーンとドリュアースが、ある夜同じ夢を見た。肩に翼があり弓と矢を持つ少年が、「ダフニスを山羊飼いに、クロエーを羊飼いにせよ」と告げる夢で、ラモーンとドリュアースは互いの夢を語り合い、それに従った。
『日本書紀』巻5崇神天皇7年8月 8月7日、倭迹速神浅茅原目妙姫・大水口宿禰・伊勢麻績君の3人が共に同じ夢を見て、「昨夜、1人の貴人から、『大田田根子命を大物主大神を祀る祭主とし、市磯長尾市を倭大国魂神を祀る祭主とすれば天下は平らぐ』との夢告を得た」と奏上した。
『盛久』(能) 鎌倉由比ガ浜での処刑前夜、捕われの盛久の夢に老僧(=清水観音の化身)が現れ「我、汝が命に代はるべし」と告げる。刑場で刀の折れる奇瑞があり、盛久は頼朝のもとへ召される。頼朝も盛久と同じ夢を見ており、盛久は赦免される。
★3.いつわりの夢告。
『ささやき竹』(御伽草子) 鞍馬の西光坊が、左衛門尉の14歳の姫に愛欲の心を起こす。彼は呉竹の節を抜き、隣室に眠る左衛門尉夫婦の枕に押し当てて、「我は鞍馬の多聞天なり。汝の娘を長櫃に入れて鞍馬山へ登せよ」とささやく。夫婦は、2人ともに同じ夢告を得たことを不思議に思い、姫を櫃に入れて鞍馬山へ送る→〔僧〕1。
★4.「7年後の死」の夢告。
『苔の衣』 大納言と西院の上との間には男児2人があったが、女児がないのを残念に思い、夫妻は石山寺に参籠する。西院の上の夢に気高い女房が現れ、「子は授かるが、その成長を見届けることはできぬ」との意味の歌を詠んで、花の枝を与える。翌年姫君が生まれ、姫君7歳の時に、西院の上は病死する。
夢告(むこく)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 23:48 UTC 版)
短刀〈銘 村正/金短冊銘 夢告〉、八寸一分五厘、個人蔵。重要刀剣。村正には珍しく皆焼(ひたつら)の刃文。夢告(むこく)とは仏教用語で、夢の中に神仏が現れて直接的な指示を授かること。押形『三重県刀工・金工銘鑑』、モノクロ写真『伊勢の刀工』所載。
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