スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲 | Deux poemes Op.32 | 作曲年: 1903年 出版年: 1904年 初版出版地/出版社: Belaïev |
作品解説
スクリャービンが初めて《詩曲》と名づけた作品。1903年、31歳の時にモスクワで書かれた。これは、ちょうど初期から中期への移行を遂げる節目の時期にあたり、前年(1902年)には、モスクワ音楽院でのピアノの教授を辞職し、作曲への専念を決意している。実際に、この作品の他にもこの年には多くの詩曲が作曲されている。
第1曲目は「アンダンテ・カンタービレ」と指示された8分の9拍子の曲。ソプラノとテノールにあたる声部が二重唱を繰り広げる部分と、両手でポリ・リズムによる分散和音を弾く部分とが交互に示される。形式としては、「ABA’B’」の2部構成となっている。全体を属9の和音の響きが支配しているが、スクリャービン後期の最たる特徴ともいえる「神秘和音」が早くもその姿を見せている。なお、前半の「B」にあたる部分は4分の3拍子に変化するが、後半の「B’」は8分の9拍子のまま書かれている。
第2曲目は「アレグロ・コン・エレガンツァ コン・フィドゥーチャ(自信を持って)」と指示された4分の4拍子の曲。属7の和音や属9の和音が多様に変化された形で響く。3部形式で書かれたこの曲は、第1曲目とは打って変わり、和音の連打による力強さを持つ。
スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲 | Deux poemes Op.44 | 作曲年: 1904年 出版年: 1905年 初版出版地/出版社: Belaïev |
作品解説
独立した作品番号を持つものとしては、1905年に作曲された唯一の詩曲。これは、ヴェーラとの結婚生活が破綻をきたし、恋人タチヤーナ・シュレーツェルとの新生活を送り始めた年にあたる。また、スクリャービンの祖国ロシアで、第1次ロシア革命の起こった年でもある。
第1曲目はレントの4分の2拍子の曲である。僅か29小節のこの曲は、「AA’」の2部構成をとっている。分散和音の下降型に乗り、メロディーが浮き上がっていく。属7の和音や属9の和音が支配的で、その第5音を半音変化させることにより、響きの移ろいを生み出している。この曲が書かれた年にパリへ旅立っていることを反映してか、フランス語による指示がみられる。また、これ以後多く採用されることになるハ長調で書かれていることも特徴的である。
第2曲目はモデラートの8分の3拍子である。第1曲目と同様に、この時期以降スクリャービンが好んだハ長調で書かれている。50小節足らずのこの曲のつくりは3部形式となっており、ぶつかり合う和音の響きが、ある種の緊張感を生み出している。低音のリズムは1拍目に16分音符2つをもち、残りの拍は休符となっていることが多いが、このリズムで増4度音程を提示する進行をスクリャービンは晩年まで愛用した。
スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲 | Deux poèmes Op.63 | 作曲年: 1911-12年 出版年: 1913年 初版出版地/出版社: Édition russe de musique |
作品解説
1912年に作曲された。30小節余りの比較的小規模な2つの曲から構成され、各々の曲に標題が付けられている。
第1曲目の<仮面>は、アレグレットの8分の6拍子で、「ABA」の3部形式で書かれている。神秘和音を基調としており、全音音階のような響きや4度音程の積み重ねにより、変化をもたせている。この曲では、「秘められた優しさと共に」→「謎めいて」→「風変わりな」といった意味のフランス語による表記から、スクリャービンの作品における「神秘」を垣間見ることができる。
第2曲目の<奇妙なもの>も同じく8分の6拍子で書かれ、「ABA’B’」の2部構成となっている。変化する属9の和音を基調としている。しかし、その和音の形が、後にメシアンが提唱する「移調の限られた旋法」の第2番目に通じる音の構成を示していることは特筆すべきことであろう。この曲では、「優雅に、繊細に」→「奇妙に、突如鋭く」→「偽りの優しさと共に」といった意味のフランス語による表記から、スクリャービンの作品における「神秘」を垣間見ることができる。
スクリャービンは、後期の作品を神に代表される「神聖なもの」と悪魔に代表される「邪悪なもの」とに分類しているが、この作品はいずれも後者に属すると考えられる。とは言え、引用したフランス語の表記の翻訳からもわかる通り、「聖」と「悪」は決して二項対立として明確に分類できるものではない。
スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲 | Deux poemes Op.69 | 作曲年: 1912-13年 出版年: 1913年 初版出版地/出版社: Jurgenson |
楽章・曲名 | 演奏時間 | 譜例 | |
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1 | アレグレット Allegretto | No Data | No Image |
2 | アレグレット Allegretto | No Data | No Image |
作品解説
1913年に作曲された。50小節に満たない小規模な2つの詩曲によって構成されている。この時期までは属9の和音を基調とした作品を数多く作曲してきたスクリャービンであるが、この年から、属9の和音に加えて短7の和音や長7の和音も用いるようになる。
第1曲目はアレグレットの4分の3拍子で書かれ、小さなコーダを伴う「ABA’B’」の2部構成となっている。主として、「A」は神秘和音、「B」は全音音階の響きによる。この曲では、「優しく、繊細に」→「優雅に、もろく」→「軽やかに、輝かしく」といった意味のフランス語による表記から、スクリャービンの作品における「神秘」を垣間見ることができる。
第2曲目はアレグレットの8分の6拍子で書かれ、小さなコーダを伴う「AA’」の2部構成となっている。この曲では、急激に上昇していくアルペジオにトリルやダンスを思わせるリズムが織り込まれ、このような構成が「邪悪なもの」を表す悪魔的諧謔さを生み出している。響きとしては属9の和音を基調としている。そして、神秘和音、作品63-2でも用いられたメシアンの「移調の限られた旋法」の第2番目に通じる音の構成、全音音階と気まぐれな性格の変化を示す。この曲では、「鋭く、気まぐれに」、「突如穏やかに」といった意味のフランス語による表記が付けられている。
スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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スクリャービン(スクリアビン):2つの詩曲 | Deux poemes Op.71 | 作曲年: 1914年 出版年: 1914年 初版出版地/出版社: Jurgenson |
作品解説
作品69の《2つの詩曲》と同じく、1913年に作曲された。50小節前後の小規模な2つの詩曲によって構成されている。
第1曲目は冒頭に「ファンタスティック」と指示された8分の6拍子の作品。小さなコーダを伴う「AA’」の2部構成をとっている。最初の3分の1ほどの部分は、半音が激しくぶつかり合う和声が響き渡る。これは、続く《焔に向かって――詩曲 作品72》以降の作品で、さらに複雑な和音を用い始めることの前触れと言えよう。
第2曲目は、曲の冒頭からフランス語で「夢の中で、深い静けさと共に」という意味の細やかな表記がみられる。そして、4分の3拍子で書かれ、小さなコーダを伴う「ABA’B’」の2部構成をとっている。第1曲と比べ、属9の和音の響きを明確に打ち出している。この曲で多用されるトリルは、スクリャービンが「大気の振動」であり、「そこから光が発せられる」ものとして好んだと伝えられている。第12小節目には、「熱狂して」という意味のフランス語の指示が付けられている。
2つの詩曲 (スクリャービン)
(2つの詩曲 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/10/14 06:36 UTC 版)
2つの詩曲 作品32は、アレクサンドル・スクリャービンが作曲したピアノ曲。第1曲が多く演奏される。
- 1 2つの詩曲 (スクリャービン)とは
- 2 2つの詩曲 (スクリャービン)の概要
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