酸と塩基
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酸と塩基 |
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化学において、酸と塩基(さんとえんき、英語: acid and base)とは、酸および塩基の総称である。化学物質の分類法の1つ。
酸と塩基は、互いに正反対の性質を持っており、対義語の関係にある。
概要
酸を水に溶かすと、酸性の水溶液ができる。また、塩基を水に溶かすと、塩基性(あるいはアルカリ性)の水溶液ができる。
酸にも塩基にも分類されない化学物質には、特別な名称は与えられていない。しかしその中でも特に、中和反応(あるいは酸塩基反応)と呼ばれる化学反応に由来する化学物質(すなわち、中和することでその化学物質を生成するような酸と塩基の組が、少なくとも1組存在するもの)については、『塩』という名称が与えられている。
酸性でも塩基性でもない、両者の中間に相当する水溶液のことを、中性の水溶液という。ただし、『酸にも塩基にも分類されない化学物質』を水に溶かしても、その水溶液が中性になるとは限らない。その代表例が、塩の加水分解である。すなわち、『酸性の水溶液や塩基性の水溶液を作ることができる溶質は、酸や塩基だけではない』という点には注意が必要である。
以上の説明は、水との反応を重視しないブレンステッド・ローリーの定義やルイスの定義を用いたものである。しかし、水との反応を重視するアレニウスの定義を用いた場合は、この限りではない。
すなわち、アレニウスの定義を用いた場合は、『酸性の水溶液や塩基性の水溶液を作ることができる溶質は、酸や塩基だけ』である。
定義
現代の化学では、主にアレニウスの定義、ブレンステッド・ローリーの定義、ルイスの定義、ウサノビッチの定義という4つの定義方法が存在する。アレニウスの定義が最も厳しく、この順に、酸あるいは塩基に分類される化学物質の種類が増加していき、酸にも塩基にも分類されない化学物質の種類が減少していく。
そのときそのときの目的に応じて、最も適切な定義を採用することが大切である。
アレニウスの定義
スウェーデンの科学者スヴァンテ・アレニウスは、酸と塩基を以下のように定義したMF1(p144):
- 酸:水
リトマス試験紙 - 塩基性の水溶液が皮膚に付着すると、ヌルヌルとした感触が感じられる。
強度
この節は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。(2017年8月)ある溶液の酸性(塩基性)の強弱は、それに溶けている酸(塩基)固有の「強度」と、溶液中のその物質の「濃度」に依存する。例えば、硫酸は物質としては強い酸であるが、もし濃度が低ければ、溶液全体の酸性は弱い。
それぞれの物質固有の(濃度に依存しない)強度の指標としては、酸解離定数 (pKa) がある。また、濃度を加味した溶液としての性質の指標として水素イオン指数(pH) 、酸度関数 (H0) および規定度がある。これらは場合によって使い分けがされる。酸性度をあらわすために希薄水溶液中では pH を用いるのが一般的であるが、濃厚溶液および非水溶媒中においては酸度関数を用いる。
また有機溶媒中での反応を議論することの多い有機化学では、反応物の水素イオンの解離の程度を pKa によって議論することが多い。
物質固有の強度
水中で電離する化合物の酸性(塩基性)の強弱は、その物質の電離度によっておおまかに分類される。電離度は電解質が溶液中で解離(電離)しているモル比をあらわす値で、電離度がほぼ 1 である酸(塩基)を強酸(強塩基)、電離度が小さいものを弱酸(弱塩基)と呼ぶ。また、純硫酸よりも強い酸性媒体を超酸ということがある。
より定量的に酸(塩基)の強さを示す場合は、解離平衡を考え、その平衡定数 Ka の対数に負号をつけた酸解離定数 pKa で表すことが多い。塩基に対しては、共役酸の pKa か、特に水中の場合では塩基解離定数 pKb = 14 − pKa が用いられる。
例えば、酢酸の pKa は 4.76 、ギ酸の pKa は 3.77 である[1]。pKa は定義から数値が小さいほど水素イオンを解離しやすい、すなわち強い酸であることを示す。したがって、同じ弱酸でもギ酸のほうが酢酸より 10 倍強いことが分かる。
また、この表記法を用いると、有機物など通常電離するとは考えない化合物に対しても酸・塩基の強度すなわちプロトン解離の指標として用いることができる。例えば、水中でのメタンの pKa は 48、ベンゼンは 43 であり、ベンゼンの水素の方がはるかに酸性が強い(すなわち、プロトンとして引き抜かれやすい)ことが分かる。[2]
塩基の強さは共役酸の pKa から判断することができる。例えば、プロトン化されたアンモニア(アンモニウム)のpKa は 9.2、トリエチルアミンは 10.75 である。すなわち、トリエチルアミンに配位したプロトンはアンモニアの場合に比べて 1 桁ほど解離しにくい。このことは、トリエチルアミンがアンモニアに比べて 10 倍強い塩基であることを示している。
酸解離定数を指標として用いることで、クライゼン縮合など、水素引き抜きが関与する反応に必要な塩基を推量することができる。
また酸と塩基には、「硬い」「軟らかい」という表現をされる定性的な性質がある。詳しくはHSAB則を参照。
濃度を含めた強度
ある物質の溶液の酸・塩基を議論する際には、その物質の濃度も重要な要素となる。濃度を含めた酸・塩基の指標としては、規定度や水素イオン指数がある。
規定度は酸・塩基の価数とモル濃度の積で表される値で、単位 N で示される。ただし、IUPAC [3]ならびに日本の計量法[注釈 3]等では使用が推奨されていない。
水素イオン指数(pH)は、通常は水溶液中において、水素イオンの濃度を対数で示したものである。水素イオン指数は現実的な酸・塩基の強度にあった指標であるが、単純に酸・塩基の濃度に比例するものではないため、値を知りたい場合には酸塩基指示薬などによって調べる必要がある。また、水溶液以外に適用する場合には、自己解離や水平化効果を考える必要がある。
室温では、pHが7のとき中性、7より小さいとき酸性、7よりも大きいとき塩基性である。
代表的な酸・塩基
脚注
注釈
酸-塩基反応
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/29 05:56 UTC 版)
詳細は「酸解離定数」を参照 酸の脱プロトン化に対するKは、酸解離定数Kaとして知られている。より強い酸、例えば硫酸あるいはリン酸がより大きな解離定数を持ち、酢酸のようなより弱い酸はより小さな解離定数を持つ。 酸解離定数は、 p K a = − log 10 K a {\displaystyle \mathrm {p} K_{a}=-\log _{10}{K_{a}}} で定義されるp K a {\displaystyle K_{a}} によって表わされることがある。 この p K {\displaystyle \mathrm {p} K} 表記は同様にその他の文脈でも見られる。共有結合の解離(すなわち化学結合の形成あるいは切断反応)では解離定数が非常に大きく変化するため、対数表記が主に用いられる。 分子は複数の酸解離定数を持ちうる。この点については、与えることができるプロトンの数に依存しており、一塩基酸、二塩基酸、三塩基酸を定義できる。一塩基酸(例えば酢酸やアンモニウム塩)は1つの解離性基のみを持ち、二塩基酸(炭酸、重炭酸塩、グリシン)は2つの解離性基、三塩基酸(例えばリン酸)は3つの解離性基を持つ。複数のpK値を持つ場合、それらはpK1やpK2、pK3といった指標によって指定される。アミノ酸では、pK1定数はカルボキシル基 (-COOH) を指し、pK2はアミノ基 (-NH3) を指し、pK3は側鎖のpK値である。 H 3 B ⇌ H + + H 2 B − K 1 = [ H + ] ⋅ [ H 2 B − ] [ H 3 B ] p K 1 = − log K 1 {\displaystyle H_{3}B\rightleftharpoons \ H^{+}+H_{2}B^{-}\qquad K_{1}={[H^{+}]\cdot [H_{2}B^{-}] \over [H_{3}B]}\qquad pK_{1}=-\log K_{1}} H 2 B − ⇌ H + + H B − 2 K 2 = [ H + ] ⋅ [ H B − 2 ] [ H 2 B − ] p K 2 = − log K 2 {\displaystyle H_{2}B^{-}\rightleftharpoons \ H^{+}+HB^{-2}\qquad K_{2}={[H^{+}]\cdot [HB^{-2}] \over [H_{2}B^{-}]}\qquad pK_{2}=-\log K_{2}} H B − 2 ⇌ H + + B − 3 K 3 = [ H + ] ⋅ [ B − 3 ] [ H B − 2 ] p K 3 = − log K 3 {\displaystyle HB^{-2}\rightleftharpoons \ H^{+}+B^{-3}\qquad K_{3}={[H^{+}]\cdot [B^{-3}] \over [HB^{-2}]}\qquad pK_{3}=-\log K_{3}}
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