超酸
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| 酸と塩基 |
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超酸(ちょうさん、superacid)は100%硫酸(ハメットの酸度関数H0 = -11.93)よりも酸性が強い(プロトンの化学ポテンシャルが高い)酸の総称[1]。超強酸(ちょうきょうさん、superstrong acid)とも呼ばれる。
概要
市販品として流通しているトリフルオロメタンスルホン酸 (CF3SO3H、triflic acid とも) やフルオロスルホン酸 (FSO3H) はいずれも硫酸の1000倍以上の酸性度を持つ。多くの超酸は2種類以上の化合物の組み合わせ、特に強いルイス酸と強いブレンステッド酸の組み合わせにより高い酸性を実現している。ルイス酸は、ブレンステッド酸の電離により生成される陰イオンに結合して安定化させることで、溶液中のプロトン受容体を減らし、溶液のプロトン供給能を高める働きを持つ。
「超酸」という用語はジェームス・B・コナントが過塩素酸系の酸性を研究する中で1927年に初めて用いた。元々は従来の鉱酸よりも強い酸を指す用語であった。硫酸よりも強い酸としての定義は、1971年のR. K. Gillespie による。
ジョージ・オラーは、超酸を用いて、それまで不安定な化学種とされてきた様々なカルボカチオン種を直接観測する手法を確立させ、それらの性質を明らかにした。その業績などから、オラーは1994年のノーベル化学賞を受賞した[2]。
オラーが開発したマジック酸 (magic acid) は、ルイス酸のひとつである五フッ化アンチモン (SbF5) と、フルオロ硫酸との混合物である。その名称は、クリスマスパーティーで使ったろうそくの蝋を魔法のように溶かしたことに由来する。蝋の溶解は、マジック酸が通常の酸ではプロトン化できないアルカンをプロトン化できることを示した。140 ℃(284 °F)では、マジック酸はメタンをプロトン化し、順にメタニウム、メテニウム、tert-ブチルカルボカチオンを生成する[3]。
-
CH4 + H+ → CH+
5 -
CH+
5 → CH+
3 + H2 -
CH+
3 + 3 CH4 → (CH3)3C+ + 3H2
このように、超酸はカルボカチオンの生成や分析に用いられるほか、プラスチックの生成や高オクタン価ガソリンの製造など様々な反応における中間体として利用される。
現在までに知られる最も強い超酸は無水フッ化水素 (HF) と五フッ化アンチモンとの混合物であるフルオロアンチモン(V) 酸である。フルオロアンチモン酸ではまずフッ化水素がプロトン (H+) とフッ化物イオン (F−) に分かれ、そのフッ化物イオンが五フッ化アンチモンと強く結合して八面体型アニオン (SbF6-) を作る。このアニオン(溶液中のプロトン受容体)は塩基性、求核性が非常に弱いため、溶液はプロトン供給能が極めて高く、遊離したプロトンは非常に反応性の高い "free proton" の状態に近づいており、際だって高い酸性を示す。その酸性は、100% 硫酸と比較して約 1016倍の強さに達し(H0 ≒ −28、硫酸の H0 ≒ −11.96)、C-H結合などの通常はプロトン化できない対象にも容易にプロトンを与える。三酸化硫黄 (SO3) を加えると、アンチモン上の配位子の組成を変えることができる。
しかし、超酸溶液においても凝縮相におけるプロトンは完全に自由ではなく、フルオロアンチモン酸では少なくとも1分子以上のフッ化水素に結合している。フッ化水素は通常弱いプロトン受容体(SbF6-よりは強い)とされるが、フルオロニウムイオンH2F+がHFとH+に電離する反応は吸熱反応(ΔG° = +113 kcal/mol))である。したがって、凝縮相におけるプロトンを完全な "free proton" とみなすことは不正確である[4]。
カリフォルニア大学のクリストファー・リードは、2004年に「単一分子として最強の酸」であるカルボラン酸を報告した[5]。炭素1個とホウ素11個が正二十面体型のクラスターを成した構造を持つ。カルボラン酸の酸性の強さは、三次元芳香性とそれに付随する電子求引性基によって安定化されたカルボラン酸イオンに由来する。マジック酸などと異なり、フッ化物イオンを出さないために腐食性がなく、様々な用途が期待されている。
無水酸によって処理されたゼオライト(微細多孔性アルミノケイ酸鉱物)は、その細孔内に超酸性を示す部分を持つ[6]。
超酸中のプロトンは、水やアンモニアなどの水素結合ネットワークと同様に、グロッタス機構を介してプロトン受容体間を高速に移動する[7]。
超酸の一覧
以下は超酸の例であり、ハメットの酸度関数[8]の値を付してある。すなわち、H0の値が小さいほど酸性が強いことを示す。
- 水素化ヘリウムイオン (ヒドリドヘリウムイオン,HeH+,H0 = −63) [9]
- フルオロアンチモン酸 (ヘキサフルオロアンチモン酸,HF:SbF5,H0 = −28)[10]
- マジック酸 (HSO3F:SbF5,H0 = −23)[10]
- ヘキサフルオロヒ酸(HF:AsF5,H0 = -18~-21)[11]
- カルボラン酸 (H(HCB11X11,H0 ≤ −18)[10](間接的に決定されたもので、置換基によって変動する。)
- フルオロホウ酸 (テトラフルオロホウ酸,HF:BF3,H0 = −16.6)[10]
- ビストリフルイミド酸 (triflimidic acid,NH(CF3SO2)2,H0 = −15.8)[12](トリフルオロメタンスルホン酸と比較して1,2-ジクロロエタン中のpKaの値から計算した推測値)
- フッ化水素酸(HF,H0 = -15.1)[13]
- フルオロ硫酸 (フルオロスルホン酸,FSO3H,H0 = −15.07)[14]
- トリフルオロメタンスルホン酸(triflic acid,HOSO2CF3,H0 = −14.6)[15]
- 発煙硫酸 (SO3:H2SO4,H0 = −14.44)[16][14]
- 塩化スルホン酸(HSO3Cl,H0 = -13.79)[14]
- 過塩素酸 (HClO4,H0 = −13)[17]
- 硫酸 (H2SO4,H0 = −11.93)[14]
- メタニウム(CH5+)
- ペンタシアノシクロペンタジエン(C5H(CN)5)
- トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン(triflidic acid,C4HF9O6S3)
応用
石油化学において、燃料製造のための炭化水素の改質に用いられ[18]、チタンとジルコニウムの硫酸塩酸化物、特殊処理を施したアルミナやゼオライトはアルキル化反応の触媒として利用されるほか、固体酸はベンゼンとエチレンやプロペンとのアルキル化反応や、クロロベンゼンなどのアシル化反応にも用いられる[19]。有機化学においては、アルカンを超酸によってプロトン化することで得られるカルボカチオンが数多くの有機合成において非常に有用である。
脚注
- ^ "Superacid". IUPAC. Compendium of Chemical Terminology, 2nd ed. (the "Gold Book"). Compiled by A. D. McNaught and A. Wilkinson. Blackwell Scientific Publications, Oxford (1997). XML on-line corrected version: http://goldbook.iupac.org (2006-) created by M. Nic, J. Jirat, B. Kosata; updates compiled by A. Jenkins. ISBN 0-9678550-9-8. doi:10.1351/goldbook.S06135.
- ^ Olah, G. A. (2005). “Crossing Conventional Boundaries in Half a Century of Research”. J. Org. Chem. 70: 2413. doi:10.1021/jo040285o.
- ^ George A. Olah, Schlosberg RH (1968). “Chemistry in Super Acids. I. Hydrogen Exchange and Polycondensation of Methane and Alkanes in FSO3H–SbF5 ("Magic Acid") Solution. Protonation of Alkanes and the Intermediacy of CH5+ and Related Hydrocarbon Ions. The High Chemical Reactivity of "Paraffins" in Ionic Solution Reactions”. Journal of the American Chemical Society 90 (10): 2726–7. doi:10.1021/ja01012a066.
- ^ Ruff, F. (Ferenc) (1994). Organic reactions : equilibria, kinetics, and mechanism. Csizmadia, I. G.. Amsterdam: Elsevier. ISBN 0444881743. OCLC 29913262
- ^ Juhasz, M.; Hoffmann, S.; Stoyanov, E.; Kim, K.-C.; Reed, C. A. (2004). “The Strongest Isolable Acid”. Angew. Chem., Int. Ed. 43: 5352-5355. doi:10.1002/anie.200460005.
- ^ Mirodatos, Claude; Barthomeuf, Denise (1981). “Superacid sites in zeolites”. Journal of the Chemical Society, Chemical Communications (2): 39. doi:10.1039/C39810000039.
- ^ Schneider, Michael (2000年). “Getting the Jump on Superacids”. Pittsburgh Supercomputing Center. 2018年8月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年11月20日閲覧。
- ^ Gillespie, R. J.; Peel, T. E. (1973-08-01). “Hammett acidity function for some superacid systems. II. Systems sulfuric acid-[fsa], potassium fluorosulfate-[fsa], [fsa]-sulfur trioxide, [fsa]-arsenic pentafluoride, [sfa]-antimony pentafluoride and [fsa]-antimony pentafluoride-sulfur trioxide”. Journal of the American Chemical Society 95 (16): 5173–5178. Bibcode: 1973JAChS..95.5173G. doi:10.1021/ja00797a013. ISSN 0002-7863.
- ^ Lias, S. G.; Liebman, J. F.; Levin, R. D. (1984). “Evaluated Gas Phase Basicities and Proton Affinities of Molecules; Heats of Formation of Protonated Molecules”. Journal of Physical and Chemical Reference Data 13 (3): 695. Bibcode: 1984JPCRD..13..695L. doi:10.1063/1.555719.
- ^ a b c d Malhotra, Ripudaman; Mathew, Thomas; Surya Prakash, G K (December 2017). “George Andrew Olah: Across conventional lines”. Resonance 22 (12): 1111–1153. doi:10.1007/s12045-017-0578-7.
- ^ “Buy hexafluoroarsenic(1-);hydron | 17068-85-8”. Smolecule Inc (2023年8月15日). 2025年11月13日閲覧。
- ^ Fuller, Maurice (2022). Coordination Chemistry and its Application. Bibliotex. pp. 45, 46
- ^ Liang, Joan-Nan Jack (September 1976). The Hammett Acidity Function for Hydrofluoric Acid and some related Superacid Systems (Thesis). hdl:11375/8664.
- ^ a b c d Peel, Terence Edward (September 1971). The Hammett Acidity Function for Some Superacid Media (Thesis). hdl:11375/19972.
- ^ 荒牧稔「トリフルオロメタンスルホン酸」『有機合成化学協会誌』第46巻第8号、有機合成化学協会、1988年、821-823頁、doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.46.821、 ISSN 0037-9980、 NAID 130000931283。
- ^ Olah, George (2009). Superacid Chemistry. John Wiley & Sons, Inc.. pp. 47
- ^ Olah, George (2009). Superacid Chemistry. John Wiley & Sons, Inc.. pp. 36
- ^ Guisnet, Michel, and Jean-Pierre Gilson, ed (2002). Zeolites for cleaner technologies. 3. London: Imperial College Press
- ^ Michael Röper, Eugen Gehrer, Thomas Narbeshuber, Wolfgang Siegel "Acylation and Alkylation" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, 2000. doi:10.1002/14356007.a01_185
関連項目
超酸
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100%硫酸よりも強い酸性媒体のことを超酸と呼ぶ。 詳細は「超酸」を参照
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