訴訟の争点および過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 02:57 UTC 版)
「三菱樹脂事件」の記事における「訴訟の争点および過程」の解説
一審の東京地方裁判所(1967年〈昭和42年〉7月17日判決)は高野の訴えを認めた。二審の東京高等裁判所(1968年〈昭和43年〉6月12日判決)では「通常の商事会社においては、新聞社、学校等特殊の政治思想的環境にあるものと異なり、特定の政治的思想・信条を有する者を雇用することが、その思想、信条ゆえに直ちに、事業の遂行の支障をきたすとは考えられず、応募者にその政治的思想・信条に関係のある事項を申告させる事は許されない」として高野の訴えを認めた。そのため、三菱樹脂は最高裁判所に上告を行った(昭和43年(オ)第932号労働契約関係存在確認請求事件)。 高野の主張する、雇用契約における「思想・信条の自由」(憲法第19条・第14条。なお、労働基準法第3条も参照)と、三菱樹脂の主張する「企業の経済活動ないし営業の自由」(憲法第22条・第29条)という2つの人権が真っ向から対立する形であり、しかも、原則的には「国家」対「私人」における関係について適用されることが予定されているのが憲法の人権規定であるため、このような人権規定が私人相互間における法的紛争においてどのように適用されるか、ということを最高裁判所が判示するリーディング・ケースとして注目された。 1973年(昭和48年)12月12日、最高裁判所は、大法廷において、「憲法の規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。」とし、いわゆる「間接適用説」を採用することを明確に示した。そして同説に基づき「私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によってこれを律することができないことは、論をまたないところである。」として、民法をはじめとする私法規定の解釈によるべきであると示した。 そのうえで、本判決では「労働基準法3条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができない」と示して、高裁判決を覆して本件思想、信条の調査結果ゆえに雇入れを拒否しても「違法とすることができない」とした。また、これまで明らかでなかった試用期間の法的性質について「解約権留保付の雇用契約」とし、「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。」とした(なお、通常の解雇については、「特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。」)。 最終的には、「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。」として、高裁判決ではこの点について審理が十分に尽くされていない(具体的には、「団体加入や学生運動参加の事実の秘匿等」について「客観的に合理的な理由となるかどうか」という点等)として、高裁の判決を破棄し、審理を東京高等裁判所に差し戻す判決を下した。
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