訴訟の主な争点に対する原告側の見解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 17:16 UTC 版)
「千日デパートビル火災民事訴訟」の記事における「訴訟の主な争点に対する原告側の見解」の解説
本件火災によって甚大な人的被害を出した責任と問題点がどこにあるのか、原告団(遺族会)は法律上の観点から見解を示した。複合用途に供される商業ビルにおいて共同防火管理が欠如していた点、防火管理責任の所在の曖昧さ、ビル滞在者に対する安全確保と避難誘導の意識欠如、デパートビルの設備について保守点検を怠っていたことなどを指摘し、被告各社の責任を追及した。原告の見解の要約を以下に引用する。 .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}複合用途ビルにおける共同防火管理体制の欠如本件ビルは、複合用途の建物であり、複数の管理権原者が売場を管理している。日本ドリーム観光は地下1階から6階までを、ニチイは3階および4階を、千土地観光は7階をそれぞれ別個に防火管理者を選任して防火管理にあたっていた。したがって、消防法令で規定されている共同防火管理体制を取ることが義務付けられている。ところが本件ビルは、その体制が取られていなかったために火災発生や火災状況などが7階プレイタウンに伝達されず、適切かつ迅速な避難誘導がなされなかったことで多数の犠牲者を出すに至っている。その意味で共同防火管理体制が欠如していたことは、防災義務を怠った法令違反として被告人らの懈怠(過失)を為すものといえる。 —遺族会原告団代理人、ジュリスト1976(609) 管理責任の所在本件ビルは、建物全体を一つのテナントが賃借して使用する場合とは異なり、売り場を細分化して多くのテナントに賃借して営業しており、日本ドリーム観光は、ビルの所有者として同ビルを防災上の観点から全体を統一的に管理する義務がある。しかしながら、各テナントにおいても防災義務があることは否定されず、売り場の使用形態からして独自の防災義務が発生するとみるべきである。ニチイの場合、3階および4階のフロア2つ分をほぼ独占的に賃借して営業していたのであり、同ビルの外に看板を設置していることからも営業形態は同ビルの中では独立的かつ中心的である。また同社は営業時間中に独自の保安員を置き、閉店後においては23時まではデパート管理部に届け出なしで残業をおこなうことが認められていた。同社が賃借する各フロアに面した階段やエスカレーターの防火シャッターなどを閉店時に閉鎖することも同管理部から任されていたのであり、ニチイにも保安管理義務があったと解釈できる。このことによりニチイにおいても、自社の売場に対して独自の防災義務が発生するといわなければならず、したがって第三者に対する関係においては、被告両社の防災義務は競合する。 —遺族会原告団代理人、ジュリスト1976(609) 保安管理義務の有無については、日本ドリーム観光とニチイの間で主張が対立した。 自衛論および不可抗力について日本ドリーム観光と千土地観光が主張するところによると「両社には火災発生そのものについては責任がなく、7階プレイタウン滞在者らに対する避難誘導の義務は元々なく、もし仮にその義務があったとしても、客に対する義務があるのみで、従業員は避難誘導の補助履行者であるからその対象ではない」という。しかしながら、プレイタウンは高層ビルの7階最上階で風俗店を経営しているのであり、同店に在店する者全員について安全確保義務があるのは当然である。また火災発生と被害発生とを同一視している点で主張が誤っているといえる。すなわち人的被害の拡大は、新たな要因が加わって起こっているのであり、火災発生の責任とは別の次元で考えるべきである。したがって火災発生の責任が無いからといって人的被害拡大の要因を作り出した者らの責任が阻却されることはない。従業員に対しては避難誘導義務はないと主張する点についても、日常的な防火管理体制における労働者の安全確保義務という観点を欠落させていることから、そのような主張は非難を免れない。 右被告両社は「本件においては煙の回りが非常に早く、有効な避難誘導をおこなう時間的な余裕がなかった」として「不可抗力論」を主張した。元々、火災発生によって避難する場合は、迅速に行動することが要求されるのであって、そのために日常的に十分な防火管理体制が要求される。本件のような煙によって被害が拡大した火災の場合、日頃から建物の構造を把握し、管理上の問題点を洗い出して、万が一の火災に備えた措置を講じておくべきであった。ところが本件においては、日常的な防災および避難誘導体制が全く欠落していたために甚大な被害が発生したものであるから、十分な体制が取られていれば、避難誘導に対する時間的余裕は当然あったと考えられる。またプレイタウン支配人やリーダー格の従業員などの店内構造を熟知していた者は、その多くが避難に成功して助かっているが、その反面、客やホステスあるいはアルバイト従業員などの店内に詳しくない者は、死亡率が高いことを考えると、不可抗力論は成り立たない。 —遺族会原告団代理人、ジュリスト1976(609) 失火責任法および民法第717条の適用について日本ドリーム観光および千土地観光は「失火責任法の適用がある」と主張した。しかしながら同法は、火災を発生させた者の責任を規定した法律であり、右両被告は防火管理業務を怠ったことによって火災を発生させ、被害を拡大させたことによる責任を追及されているのであるから、同法の適用はあり得ない。 —遺族会原告団代理人、ジュリスト1976(609) 原告側は、本件火災によって発生した多量の煙が7階プレイタウンに流入し被害を拡大させた主要因について、エレベーターシャフトに欠損部分があったこと、空調ダクト内の防火ダンパーが作動しなかったことなどが挙げられることから、民法第717条による被告の責任を追及した。
※この「訴訟の主な争点に対する原告側の見解」の解説は、「千日デパートビル火災民事訴訟」の解説の一部です。
「訴訟の主な争点に対する原告側の見解」を含む「千日デパートビル火災民事訴訟」の記事については、「千日デパートビル火災民事訴訟」の概要を参照ください。
- 訴訟の主な争点に対する原告側の見解のページへのリンク