訴訟の手続きから判決まで
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/20 03:17 UTC 版)
借家人が他の町に居住する借家人に訴訟を起こす場合を例にとると、まず訴訟人(原告)は家主と五人組に訴訟理由を述べて承諾を得てから、被告側の家主に訴訟理由を告げる。 被告側の家主は被告とその者の属する五人組とともにまず示談を推奨する。承知しなかった場合は、裁判中は旅行などはさせない旨を誓約した「預り証」を訴訟人に提出。訴訟人側の家主は預り証と目安(訴状)を名主に提出。 訴訟人側の名主は訴訟人と家主を呼び出し、示談を勧めるが、承諾しなければ被告側の名主に通知する。被告側の名主もまた、家主と被告を呼び出し示談を勧めるが、これにも承諾しなければ訴訟人側の名主にその旨を通知する。 この段階で訴訟人側の名主は目安に奥印して家主に渡し、家主は訴訟人とともに月番の奉行所に、訴訟内容である公事銘(くじめい)を記載した目安を提出。 受け付けた掛の役人は目安の形式・内容などに違法が無いか調べ、正式の目安(本目安)を提出する。 町奉行所は、この目安に被告側が何日に奉行所へ出頭するべきかなどを裏書し、加印して訴訟人に渡す。金公事の場合には本目安に債務弁済ないし和解(内済)を勧告する文言が裏書に加えられる。 裏書をされた目安は、訴訟人が被告に送り、被告は受領書を訴訟人に渡し、出頭するよう指定された日(差日)より前に目安と返答書を奉行所に提出しなければならない。ここで、目安の受領を拒否した被告は所払に処せられた。 差日には訴訟人・被告・双方の家主などが、「腰掛(こしかけ、待合所)」で待ち、呼び出しを受けてから白洲(法廷)に入る。初回の吟味は「初て対決・初対決・初而公事合(はじめてくじあい)・一通吟味」などと言い、大まかな取り調べだけで済まされる。2回目以降になり吟味方与力による本格的な吟味となる。 なお、出入筋であっても、関係者に犯罪の嫌疑がある場合や、証拠提出・債務弁済の強制執行などのために、入牢させることがあった。訴訟代理(「代人」)は本人の親族・奉公人などにしか許されなかったが、「公事宿」の主人・下代が「差添人(さしぞいにん)」として当事者とともに出廷し、訴訟の補佐をすることは認められていた。 吟味方与力の審理が終わると口書(くちがき、裁判調書)が作成され、例繰方は判決の類例を探して提出し、町奉行はこれらに基づいて双方に判決が言い渡される。 判決に対し、原告・被告双方は「裁許請証文」に連署し、奉行所に提出。訴訟人は目安と返答書を継ぎ合わせたものを受け取り、他に裏書に加判した役所があればそれらを巡歴して印形を消してもらい、初判の奉行所に納めて訴訟は終了となる。訴訟費用は両当事者がそれぞれ負担した。 なお、上訴の制度はなく、裁許に従わない者(「裁許破」)は中追放に処せられた。
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