設定・主題
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設定や人物造型、主題については、以下のように三島は説明している。 若きジャヤ・ヴァルマン七世王は、「絶対」にしか惹かれぬ不幸な心性を持つてゐた、といふのが、私の設定である。すなはちこの芝居は、癩病の芝居ではなくて「絶対病」の芝居なのである。絶対の愛としての蛇神の娘、絶対の信仰としてのバイヨン、この二つのものだけが、王にとっては地上で必要だった。(中略)絶対の愛は地上の女(第一夫人)の嫉視を呼び、さらに第二夫人の貞淑によつて柔らかに模倣され、硬軟両様の方法で邪魔されるが、つひに第一夫人の死によつて、地上の愛に犯されてしまふ。一方、絶対の信仰としてのバイヨン建立は、地上の政治により経済により邪魔されるが、それがあらゆる障害を払つて完成されたとき、王はもはや自分の目でそれを見ることはできないのである。 — 三島由紀夫「あとがき」(『癩王のテラス』) また三島は、王の悲劇は〈癩者の悲劇〉でなく、〈むしろ癩が、王の悲劇、あるひは王の病の本質をあばいた〉とし、以下のように説明している。 「絶対の病気」としての癩が、「絶対病」に犯された王の精神を、完全に体現したのである。従つてその発病は、決して偶然の罹患ではなくて、王の運命であつた。これを癒やす薬は地上に存在しない。これを最終的に癒やすものは、永遠不朽の美としての肉体の復元のほかにありえないからである。王即身崇拝の具現たるバイヨンの意味はここにあり、さればこそ、王の美しい肉体は、最後に、バイヨンは私だ、と宣言することになるのである。 — 三島由紀夫「あとがき」(『癩王のテラス』)
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設定・主題
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舞台は、1934年(昭和9年)6月30日夜半の「レーム事件」前後のベルリン首相官邸の大広間。登場人物は、アドルフ・ヒトラー、エルンスト・レーム、シュトラッサー、グスタフ・クルップの実在人物の男性4人のみ。第1幕と第2幕は事件数日前。終幕の第3幕は6月30日夜半。 突撃隊幕僚長・レームはあくまでヒトラーを友と信じる右翼軍人。社会主義者・シュトラッサーはナチス左派。エッセン重工業地帯の独占資本を象徴する鉄鋼会社社長・クルップはヒトラーにうまく取り入る死の商人として描かれる。 三島は、〈レームに私はもつとも感情移入して、日本的心情主義で彼の性格を塗り込めた〉と述べ、『わが友ヒットラー』の主題について、ヒットラーへの興味というよりも「レーム事件」が書きたかったとしている。 政治的法則として、全体主義体制確立のためには、ある時点で、国民の目をいつたん「中道政治」の幻で瞞着せねばならない。それがヒットラーにとつての一九三四年の夏だつたのであるが、このためには、極右と極左を切り捨てなければならない。さうしなければ中道政治の幻は説得力を持たないのである。この法則は洋の東西を問はぬはずであるが、日本では、左翼の弾圧をはじめてから二・二六事件の処断までほぼ十年かかつた。いかにも計画性のないお国柄を反映してゐる。それをヒットラーは一晩でやつてのけたのである。ここにヒットラーの仮借ない理知の怖ろしさがあり、政治的天才がある。(中略)そしてレーム大尉は、歴史上の彼自身よりも、さらに愚直、さらに純粋な、永久革命論者に仕立ててある。この悲劇に、西郷隆盛と大久保利通の関係を類推して読んでもらつてもよい。 — 三島由紀夫「作品の背景――『わが友ヒットラー』」 また、先行で発表された『サド侯爵夫人』(女性のみ6人の登場人物)を書いている時から、それと〈対をなす作品〉として男性のみの登場人物の作品を創作しようと考えていたとし、〈女らしさの極致〉の『サド侯爵夫人』の奥に、〈劇的論理の男性的厳格さ〉が隠され、〈男らしさの極致〉の『わが友ヒットラー』の背後に、〈甘いやさしい情念〉が秘められているとしている。 『サド侯爵夫人』における女の優雅、倦怠、性の現実性、貞節は『わが友ヒットラー』における男の逞しさ、情熱、性の観念性、友情と照応する。そしていづれもがジョルジュ・バタイユのいはゆる「エロスの不可能性」へ向つて、無意識に衝き動かされ、あがき、その前に挫折し、敗北してゆくのである。もう少しで、さしのべた指のもうほんのちよつとのところで、人間の最奥の秘密、至上の神殿の扉に触れることができずに、サド侯爵夫人は自ら悲劇を拒み、レームは悲劇の死の裡に埋没する。それが人間の宿命なのだ。 — 三島由紀夫「一対の作品―『サド侯爵夫人』と『わが友ヒットラー』」
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