航空機のリアエンジン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/12 23:06 UTC 版)
「リアエンジン」の記事における「航空機のリアエンジン」の解説
レシプロエンジン動力によるプロペラ機の時代には、胴体後部にエンジンを後ろ向きに搭載して後方向きプロペラを回転させる例が少なからず存在した。この種の「推進式」と呼ばれるレイアウトは単発機に見られたが、プロペラの回転スペースを確保するため後尾を双胴式にする必要があるなど、一般的な前方配置エンジンの「牽引式」に比べるとデメリットが多く、一般的ではなかった。第二次世界大戦後にはセスナ社の双発プロペラ機に後尾を双胴とした「直列型双発」の事例があるが、例外的なものである。 戦後のジェットエンジン時代になると、エンジン搭載の制約はプロペラの大直径から、エンジン本体の直径にまで縮まり、搭載位置の自由度が高まった。その気になれば胴体外面に直接ジェットエンジンを取り付けてしまうこともできるようになったのである。 世界初のジェット旅客機でイギリスで開発されたデハビランド・コメット(1949年初飛行)は、ジェットエンジンのコンパクトさを活かし、主翼の中にエンジンを搭載した、非常にスマートな外観を特徴としていた。もっともコメットのレイアウト自体は、主翼にエンジンを装備するレシプロ旅客機の着想から大きく飛躍するものではなかった。 同時期、フランス政府は自国での中型ジェット旅客機の開発を急いでいた。その結果、デハビランドとの契約により、コメットの設計の一部(機首構造など)を流用することで、シュド・カラベルを短期間で開発した(1955年初飛行)。カラベルはジェットエンジンのコンパクトさを最大限に活かし、客室後の胴体両側面にエンジンポッドを装備した。その結果、世界初のリアエンジン式ジェット旅客機となったのである。 同時期、アメリカを初めとする各国の大型ジェット輸送機・爆撃機などではエンジンを翼下にパイロンで吊り下げる手法が採用され始めていたが、リアエンジンではこれに比べ、重いエンジンを翼で支えずともすむことから主翼設計の自由度が向上した。また主脚を短くしつつエンジン搭載位置を高めに確保できるなど、特に中・小型機で多くのメリットがあった。胴体に寄り添う形でエンジンが搭載され、エンジン自体の前面投影面積が見かけ上狭いことから、翼下エンジン機に比べバードストライクが比較的少ないことも長所であった。 カラベルが技術的にも商業的にも成功すると追随者が現れた。その後1970年代にかけ、欧米やソ連の旅客機メーカー・製造者は、双発・3発のリアエンジン大型ジェット旅客機を多数開発した。1960年代にはイギリスのビッカース VC-10や、ソ連のイリューシン Il-62のような、当時としては大型の4発リアエンジンの機体まで出現している。 その後、ジェット旅客機の大型化が進み、エンジンも大型化・大出力化すると、必ずしもリアエンジン方式が有利とは言えなくなってきた。前後の重量バランスを取るための制約が増え、また胴体に近すぎるエンジンが騒音の原因になるという問題もあった。静的な重心位置が後寄りとなるため、ボーイング727の貨物型やダグラスDC-9では、駐機中に尻餅を着くことがあり、駐機中の支柱を装備している機体もあった。1960年代中期に開発されたボーイング737は、開発がリアエンジン式ジェット輸送機の盛んな時期であったにも関わらず、エンジン搭載位置が高いことによる整備のしにくさを嫌って、敢えて翼下直付け方式としていた。 1980年代以降、ジェットエンジンの大型化が進み、かつての3発機はおろか4発機をも代替できるほどの大型・大出力双発機が実用化されたが、それらのターボファンエンジンはもはやかつての中型旅客機の胴体ほどにも太くなり、翼下吊り下げ方式でなければ搭載が困難なほどに巨大化した。このため、近年大型旅客機ではリアエンジン方式は過去のものとなりつつある。 一方、コミューター路線向けのリージョナルジェットや企業・富豪向けの自家用機ビジネスジェットとよばれる小型ジェット機が1960年代以降に出現したが、それらは翼下地上高の低さによるエンジンレイアウトの制約から、必然的にリアエンジン方式を使わざるを得ないことが多く、一般的なレイアウトとして定着している。 リアエンジン方式のビジネスジェットの先駆でもあり最も有名なメーカー『リアジェット』から、このタイプのジェット機をすべて『リアジェット』とよぶ誤用があるが、旅客機をすべて『ジャンボジェット』とよぶような誤用である。なお日本ではLとRの混同からこの誤用が著しい 。なお、一部技術者は明確に使い分けるため船舶に倣って後部エンジン配置機を「アフトエンジン機/アフトジェット機」と呼ぶこともある。 後部にジェットエンジンを置くと、水平尾翼を通常の位置とした場合に排気流と干渉するため、亜音速機ではT字尾翼、超音速機では後部胴体下部とするなどして水平尾翼を排気から避けた位置に置くことがもっぱらである。
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