自己馴致類人猿理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/03 08:19 UTC 版)
コシジロキンパラとその家禽化された亜種であるジュウシマツとの歌の違いを調査する研究によれば、野生のキンパラは高度に類型化された順序で歌を歌うが、家禽化された方は順序にほとんど縛られずに歌を歌う。野生のキンパラの場合、歌の統語構造はメスの好みに従わなければならず―性選択―、比較的固定されている。しかし、ジュウシマツの場合は、自然選択はブリーディング、この場合は色鮮やかな羽、に取って代わられている。そのため、選択圧から解放されて、類型化された歌の統語構造が霧散してしまえるようになる。1000世代も経るうちに、よく変化して学習される順序に取って代わられてしまう。さらに、野生のキンパラでは、他のキンパラから歌の順序を学ぶことはできない。鳥類の泣鳴反応の分野では、先天的に知っている歌だけを歌える脳は非常に単純な神経経路しか持たない。強健な運動核(robust nucleus of arcopallium ;RA)と呼ばれる前脳の主な運動中枢は音声出力を中脳に連絡し、翻って脳幹へは運動核を突き出している。対照的に、歌を学習できる脳においては、RAは、学習や社会的経験に関係するものを含む、前脳の付加的な領域からの入力を受け取る。歌の生成の制御はより縛られなく、より分散的に、そしてより融通が利くようになる。 コミュニケーションの体系が高度に類型的な鳴き声・雄叫びのレパートリーに束縛されている他の霊長類と比較すると、ヒトは前もって指定された発声をほとんど有さない(その数少ない現存する例として笑うことや鳴くことがある)。しかも、こういった残存している先天的な発声は束縛された神経経路によって産生されているが、言語はヒトの脳の数多くの領域が関与する分散的なシステムによって産生される。 言語の顕著な特質として、言語を扱う能力は遺伝するが、言語自体は文化によって伝えられるということがある。言語に基づいた説明として構築されるのだが、物事を行う技術的な方法などの理解も文化を通じて伝えられる。そのため、言語を扱う能力と文化との強固な共進化的な軌道が見込める。最初おそらく初歩的な型の原言語を使っていた初期の人類は文化的な理解にアクセスしたほうがよかっただろう。そして子供の脳が最初に学ぶ原言語によって伝達される文化的な理解は既に得た利益を付与することで伝えられた可能性が高い。 そのため初期の人類は疑いなく理解に生き残るためのカギを与える文化的ニッチを作り出し、そういったニッチのもとで繁栄する能力を最大限に活用する進化的変化を経るニッチ構造に関わってきたし、関わり続けている。より重要なニッチにおいて本能が生存にとって重要であるように保つ作用を持つ選択圧はヒトが自ら作り出した文化的ニッチにより依存していくことを楽にすると期待されたが、文化的適応を楽にする革新―この場合は、言語を扱う能力における革新―が広がっていくことも期待された。 ヒトは自らを馴致した類人猿であるとみなすことは、ヒトの進化について考えるうえで有用な方策である。ちょうど飼いならされることでキンパラの類型化された歌の選択が寛容になされるように―メスによる選択がバード・ブリーダーや彼の客たちによる選択に取って代わられるように―、ヒトが文化的に馴致されることで、ヒトの数多くの霊長類的な特徴の上での選択が寛容になされ、古い経路が退化したり再構成されたりできるようになる。哺乳類の脳が発展する非常にあいまいな方法があると―それらは基本的に次の段階の神経相互作用の準備となる一揃いの神経相互作用とともに「ボトムアップ」に自己構成するのだが―退化した経路がシナプス形成の新しい機会を模索し、発見する傾向がある。この、脳内の神経経路の先天的な脱分化能力はヒトの言語が複雑な機能を持つうえで重要な役割を果たす。そして、キンパラの例のように、そういう脱分化は非常に短い期間で起こる。 隠された性皮理論 服部兼敏が提起した仮説。メスのサルは、交接可能時期を性皮の赤色膨満によってオスに対してディスプレイしていた。ところがホモ属に進化すると二足歩行によってメスの性皮は胴体の下部になり、オスは性皮の変化を観察できなくなった。これによって交接可能時期が曖昧になってしまった。メスは、この交接可能時期を言語によって知らせるようになった。もちろん、これには交接可能時期でないのに交接可能だという騙し、メスはオスを騙すことで食物を提供させるという行動の獲得もあった。
※この「自己馴致類人猿理論」の解説は、「言語の起源」の解説の一部です。
「自己馴致類人猿理論」を含む「言語の起源」の記事については、「言語の起源」の概要を参照ください。
- 自己馴致類人猿理論のページへのリンク