職人から批評家へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/17 07:54 UTC 版)
「料理・グルメ漫画」の記事における「職人から批評家へ」の解説
料理漫画の最初期の作品である『包丁人味平』は、「職人」を描いた漫画でもあったが、『美味しんぼ』は漫画的誇張をされながらも修行と経験を積んで高度な技術をふるい、店を開き繁盛させるビジネスマンとしての側面をもつプロフェッショナルを主人公として、(少年の)読者に向けて「大人の世界」を描くという「職人もの」の流れを汲み、アイディア料理が中心になっていく『ミスター味っ子』にも受け継がれている。しかし、『美味しんぼ』の主人公である山岡士郎やライバルであるその父親の海原雄山は、その流れを断ち切るキャラクターでもあり、山岡は普通以上の料理の腕前をもつが、それらは知識やセンスなどによるもので、求道的職人のような日々鍛錬を怠らないといった描写はない」。「グルメ漫画」の主人公は基本的に料理をつくらず、料理についての知識や情報を語り、食の本質を論じてみせる批評家になることで主人公性を獲得した。料理の味を表現する手段も絵からセリフのレベルに移され、リアクションの過剰さは「美味しんぼ」においては例えば「まったりとして…」といった台詞に代表されるような形容表現の過剰さとして現れた。絵は「情報性」をそこなわないために抑制して描かれ、絵と文の関係が逆転した。 『ミスター味っ子』は料理対決をしながらも、それ以前の同系統の作品と違い、登場する料理が実際に作れるもので演出は少年漫画的必殺技もなく入手が難しい食材が使われるわけでもない実在する料理なのが画期的だとされた。1980年代には漫画形式で解説する料理本や、グルメ漫画でも荒唐無稽ではなく取材に基づいたきちんとした描写の作品が増え、実在の商品やそれをモデルにしたものも描かれるようになり、『道連れ弁当』(ありま猛、きり・きりこ。リイドコミック)、『夏子の酒』(尾瀬あきら。モーニング)など、本格的な知識を得られる作品が増えた。 1990年代になると1993年から放送されたテレビ番組『料理の鉄人』の影響があり、『美味しんぼ』では番組出演した道場六三郎、岸朝子本人が登場、1995年開始の『鉄鍋のジャン』は、それまでのグルメ漫画の傾向と大きく異なり主人公の秋山醤があらゆる手段で料理勝負に勝とうとするなど、それまでの「料理は心」という主人公的考えを持つ五番町霧子を鼻で笑い、「料理は勝負」としたのは『料理の鉄人』にも通じ、番組と同じく料理は芸術でその腕を見てもらえればいいという思いを受け継いだのが『鉄鍋のジャン』」と杉村はみている。同作で登場した飲めるラー油は後に中華料理店にも広まり、文庫版に掲載されたレシピを元に作られたものがインターネット上で話題になるなど現実の料理にも影響を与えた。1992年に開始した寺沢大介の『将太の寿司』(週刊少年マガジン)は1990年代を代表する寿司漫画となり、審査役の柏手の安こと溝口安二郎は彼のパロディが他作品で多く描かれたり、作中における食べる人の心を考えるのが大事という信念によるものか韓国で経営必読書として注目されたり、ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』の原作者は『将太の寿司』を読んで料理対決のアイディアにするなど、日本だけの影響に止まらなかった。 グルメブームにより食通でなくとも食を語ったり楽しんだりことにおおらかな時代になり、漫画にもそういう主人公の『大市民』(柳沢きみお)、『酒のほそ道』(ラズウェル細木。週刊漫画ゴラク)、『孤独のグルメ』(久住昌之、谷口ジロー)が登場した。1990年代はグルメ漫画の細分化の傾向がみられ、映像化や荒唐無稽な内容でも現実に影響を与える作品が増えた。
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