検察側立証
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第2回公判は1982年(昭和57年)6月7日に行われた。前述の近藤裁判長から輿掛への質問に続いて検察側の立証に入り、翌1983年(昭和58年)1月13日の第10回公判までをかけて、みどり荘の住民や捜査にあたった警察官、鑑定にあたった科警研や大分県警科学捜査研究所の技官などの証人尋問が行われた。 102号室の住民は、第3回公判で、事件直後に202号室の風呂で水を流す音を聞いたと証言した。その証言は細部に及び、「2階からドタンバタンという音を聞いた。それは、男が女を追い掛け回すような音だった。そのあと静かになったので、2階に神経を集中していたが、ドアや窓、人が歩くような音は聞こえなかった」「15分から20分くらいして、201号室か202号室の風呂で水を流す音を3回くらい聞いた。それは、人が中腰になって水をかぶっているような音だった」「水音は201号室か202号室か分からなかったが、その後、実験してもらった結果、202号室からだったことが分かった」というものであった。 一方、201号室の住民は、事件直後に廊下で顔を合わせた際に輿掛から「こんばんは」と声を掛けられて殺人事件が起こったことを知らされているが、第3回公判で、その時の輿掛の様子について、起きたばかりのようだったものの特に変わった様子はなかったと話した。また、輿掛から「何しよるか!」と声を掛けられて事情を聞いた巡査も、第4回公判で、輿掛は落ち着いた普通の態度だったと証言した。 第4回・第5回公判では取り調べにあたったT警部補が証言に立ち、事件直後の最初の事情聴取で確認した輿掛の首と手の傷について、「その夜についた新しい傷だと判断した」「傷について輿掛は嘘をついていると感じ、犯人ではないかと思った」と証言したものの、「それでは何故その場で写真を撮らず、捜査報告書に記載しなかったのか」という弁護側の反対尋問に対して説得力のある答えを返すことができなかった。なお、輿掛は、最初の事情聴取で傷を確認された際、T警部補はそれぞれについて「古い傷だな」と言い、それは同席していた捜査員も聞いているはずであると主張している。 続く第6回公判には、同棲していた当時の恋人が証人として呼ばれた。彼女は、輿掛の逮捕当日に検事の前で「事件直後に電話を受けた母は、輿掛は焦った様子だったと言っていた。新聞で事件の内容を読み、輿掛が犯人ではないかと疑いを持った。心配になっておにぎりを持ってみどり荘に行くと、輿掛の首や手に見たことのない傷があり、ひっかき傷のような首の傷には血がにじんでいた。輿掛の言うことは信用できないと思った」という供述をしたとされていた。しかし、公判では、弁護側の「犯人ではないかと疑っている相手におにぎりなんか作らないでしょう?」という質問に恋人は「そうです」と答え、供述調書の内容についても「本当は違います」とはっきりと否定した。なお、輿掛と恋人は事件後も輿掛の逮捕まで交際を続けており、事件のあった1981年(昭和56年)の大晦日には恋人の母に「泊まっていきなさい」と言われて恋人の実家に泊まり、また、逮捕の前日も二人で友人宅に泊まっている。 さらに、第8回公判では、毛髪鑑定を行った科警研の技官に対する証人尋問が行われ、弁護側によって毛髪鑑定は個人識別の手段としては決定的ではないこと、基準もあいまいで判断は鑑定者に委ねられていることなどが指摘された。 検察側の立証は第10回公判での被害者の姉とともに遺体を発見した友人への証人尋問で終了したが、輿掛による犯行であると十分に立証されたとは言えない状況であった。逆に、弁護側はここまでの審理に手ごたえを感じていた。第10回公判で引き続き行われた弁護側の冒頭陳述では、これまでの審理で明らかになった犯人像と輿掛は結びつかないこと、事件直後の輿掛の態度や行動も犯人のものとは思えないこと、また「対照しうる指紋、掌紋、足跡もない」と指摘して、はっきりと無罪を主張した。そして、翌第11回公判では、それまで同意・不同意の意見を留保していた輿掛の供述調書の証拠採用についてすべて不同意とし、供述調書は「身体的・精神的疲労と体毛遺留等の誤導によるもの」であり「犯行当時の記憶がない中で記憶に基づかずに、自己が犯行を犯したと推定あるいは想像したものにすぎない」として「自白」の任意性を争う姿勢を示した。これによって、次回第12回公判では輿掛に対する被告人尋問が行われることになった。古田弁護士によると、このころの輿掛は、何か一人で悶々と思い悩んでいる様子であったという。
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