検察側の無罪論告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 05:18 UTC 版)
この2つの鑑定結果を受けて、小笛の死因についての見解は他殺説(小南・中田・高山)と自殺説(三田・浅田・石川)が3対3で拮抗することとなった(非公式の草刈・矢野鑑定も含めると5対3で自殺説が優勢となる)。全国6大学の権威が集結した裁判に、世間や学会の耳目が集まるなか、検察側の論告求刑は11月30日に行われた。ところが、立会検事の角谷栄次郎が行ったのは、次のような論告であった。 三田博士の鑑定はあまりに現狀とかけ離れてゐるが故に措信すべからざるものと信じ、當審において當職は進んで鑑定を申請したところ裁判所は容れられ、石川、淺田兩氏の鑑定となつたのである、その後も當職の考へは以前と少しも變らなかつたが兩氏の鑑定書を見るに及んでその考へが變つてきた。かういふ鑑定書が出た以上、果して兩博士の鑑定と小南博士の鑑定のどちらを信ずべきや、いづれが眞實に近いか、疑ひなきを得ないとともに小笛の死が自殺か他殺か、その謎も依然解けない、從つて被告に對する自殺幇助罪の嫌疑は濃厚なるものがあるが積極的證據は薄弱である、故に「疑はしきは輕きによるべし」との刑法の原則によつて無罪の判決あるべきものと思料す — 検察側論告より 検事控訴の事件で検事が無罪論告をなすという、日本の司法史上かつてない事態であった。これについて、弁護側は論告を辞退するとともに角谷の態度を称賛し、同日中に広川は大阪刑務所の未決監から解放された。記者の取材に対し広川は、「國家の裁判は正しい、最初からかうした日の必ず來ることを確信してゐました」と語り、「寃囚の 壁にしみこむ 祈りかな」と一句詠んだ。そして、5日後の12月5日、渡辺為三裁判長以下の大阪控訴院第三刑事部は、証拠不十分につき広川に無罪判決を言い渡した。
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