暴動のあらまし
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/18 03:56 UTC 版)
「モーリス・リシャール」の記事における「暴動のあらまし」の解説
1955年3月13日の対ボストン・ブルーインズ戦で、リシャールは Hal Laycoe の執拗なマークにいらだったため、同選手をホッケーのスティックで打撃し、さらに静止しようと3度に渡って執拗に彼のスティックを取り上げようしたラインズマンのクリフ・トンプソン (Cliff Thompson) をこぶしで殴打する事件を起こし、意図的に怪我をさせた咎で退場処分を受けた。 特にリシャールの審判への暴行は、このシーズンだけでも2度目であったことから事態を重く見たNHL会長のクラレンス・キャンベルは、審問を行ってリシャールのシーズン残り3試合への出場停止処分を行ったが、モントリオール住民の多くはこれを、不公平で厳しすぎる処分であると考えた。この裁定はリシャールがNHLの得点王争いのトップを走り、カナディアンズもデトロイト・レッドウィングスと首位争いを行っていたさなかに下されたものであったことから、リシャールファンの不満に拍車をかけた。 地元のラジオ番組には、キャンベルに対する抗議の電話が洪水のように殺到したため、放送局は電話をかけないようにリスナーに訴えかけた。会長のキャンベルにも脅迫があったとされる。しかしキャンベルは、立場上譲歩する姿勢を見せることなく、カナディアンズのホームゲーム、対デトロイト・レッドウィングス戦の観戦を予定どおりに行うと発表した。ホームアリーナのモントリオール・フォーラムでは通常の試合とは比べ物にならないほどの警備員を動員し、厳戒態勢が敷かれた。 試合会場には、「"A bas Campbell"(「くたばれキャンベル」位の意)」、「"Vive Richard"(リシャール万歳)」など会長への抗議とリシャール擁護のプラカードであふれ、名指しで会長を非難する罵声が飛び交い、観客だれもが試合内容やリシャールが観戦していることにすら関心を払わなかった。(カナディアンズのコーチ、ディック・アービン Dick Irvin は後に「あの夜は、たとえ100対1で負けたって、だれも気がつかなかったんじゃないかな」と述懐している。)第1ピリオド終了時点では、レッドウィングスは4対1でリードしていた。怒り狂ったカナディアンズファンは、キャンベル会長に、卵、野菜やごみくずを投げつけ、その量はレッドウィングスが得点するたびにますますエスカレートした。第1ピリオドが終わると、アリーナの外では、誰かが催涙ガスのキャニスターに点火した。会長と地元消防署との協議の結果、観客には避難勧告が出され、ゲームはレッドウィングスを勝ちとする没収試合とされた。 後にレッドウィングスのコーチ、ジャック・アダムスは「事件の背景には、リシャールを勝手にアイドルに祭り上げ、その出場停止処分を大々的に取り上げればホッケーファンが怒り狂うのが判り切っているのにこれを扇動したマスコミの責任も大きい。」とリシャールに同情的な発言をしている。 催涙ガスが使用されたことで事態は混迷の度が深まり、アリーナから避難した客は、リシャールについて何者かも知らず、何故この暴動が起こったかの理由も知らないアリーナ外の群衆を巻き込んで、破壊活動、暴力を始め、アリーナに50万ドルの損害を与えた。ホッケーのシーズンオフにリシャールをプロレスのレフェリーに起用しようとした興行主の事務所などアリーナのあちこちは破壊された。 暴動は深夜まで続き、モントリオール警察は逮捕者をトラックで移送した。7時間にわたって現場の模様を生放送した地元ラジオ局の放送は、強制的に放送中止となった。結局暴動は午前3時に沈静化したが、モントリオールの Ste-Catherine 通りの商店にも略奪などで深い爪あとが残されたとされる。『Montreal Gazette』紙のコラムニスト、ディック・キャロルは「自分の故郷の街のありさまには、恥じ入るばかりだ。」と述懐している。 報道陣は、リシャールからのコメントを取るため群れ集まった。しかし、リシャールは次なる暴動を招くことを恐れ、その口は重かった。そして、自らの許されべからざるプレーに対し釈明するとともに、モントリオールの市民に対し、安静とチームに対する更なる応援を呼びかけた。 この年のシリーズでは、カナディアンズはレッドウィングスに敗れはしたものの、市民や選手達の奮起を誘った側面もあり、1956年からリシャール引退の1960年までカナディアンズはスタンレー・カップ5連覇を達成している。 なお後年になるが、クラレンス・キャンベルは、リシャールの目的に対する一途さ、プロ選手として献身的な姿勢に賛辞を贈っている。
※この「暴動のあらまし」の解説は、「モーリス・リシャール」の解説の一部です。
「暴動のあらまし」を含む「モーリス・リシャール」の記事については、「モーリス・リシャール」の概要を参照ください。
- 暴動のあらましのページへのリンク