文部科学省による帝京大学板橋本部「立ち入り調査」への疑義
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「帝京大学医学部裏口入学事件」の記事における「文部科学省による帝京大学板橋本部「立ち入り調査」への疑義」の解説
2002年7月30日までに計3日間かけて文科省高等教育局による帝京大板橋本部への現地調査が行われた。帝京大学内の「特別調査委員会」立ち上げより約8か月が経過していた。この現地調査では、「寄付金」は一時愛媛県の帝京育英財団事務局長名義の口座に入って簿外で個人管理され、5月頃に他の財団法人や帝京大学グループの各学校法人などに分配してきたことは明らかにされた。この名義人の事務局長とは愛媛県現地の人物ではなく帝京大学本部の事務局長経験者だった。 そして帝京育英財団事務局長名義の口座に、1998年から2002年の5年間に191件の「寄付金」88億2500万円が簿外で振り込まれていたことも明らかになった。 しかし帝京大は、この現地調査などで、こうした「寄付金」の授受、預入、分配は2002年3月に亡くなった前事務局長が総長に告げず独断で行ってきたと主張し続けた。ところがその一方で、寄付金が納入された帝京育英財団のトップである同財団理事長は冲永総長夫人であった。 それでも文科省高等教育局長工藤智規氏は、1998年から2002年の5年間に帝京育英財団に88億円2500万円が簿外で振り込まれた事実を文科省は確認しているのに、それを事務局長の独断で行ったという帝京大の主張を、2002年8月7日の第154回国会衆議院文部科学委員会でも、文科省による「立ち入り調査」の結果としてそのまま報告した。この調査に対しては「子供の使い」という、国会側からの声が上がった。 それでも工藤高等教育局長は寄附金の授受や処理について、「いずれも歴代の事務局長が個人でやったということでございました。」と述べた。こうした文科省からの報告に対して、文科省官僚の天下り先として帝京大学が機能しているからではないか、という指摘もあった。 さらにこの8月7日の衆議院文部科学委員会では、自らの後援者親族の帝京大学医学部入学への口利きをしたことを宮路和明厚生労働副大臣自身が認めているのに、帝京大学は宮路副大臣とのやりとりは全くなかったと言っていることが「全く理解できない」という声も、別の委員から上がった。実際、宮路副大臣は冲永総長と東大の同窓ということもあり、総長が長年懇意にしてきた人物でもあった。 また、これまでの文部科学省による調査の仕方自体が、帝京大学側の言い分を一方的に聞くだけのものになっており、そのこと自体が問題とも指摘された。帝京大学側にお伺いを立てて、先方が出してきた回答をそのまま文科省による調査報告としても意味がないという指摘であった。 さらに正規の寄付金と簿外処理の寄付金との金額の格差についても指摘があり、ましてや一度財団に納入されて簿外処理された寄付金が帝京大学に戻されるとき、その大学への納入金を総長が知らないで事務局長だけの判断で行ったというのはあり得ないとも指摘された。 この指摘に対して工藤高等教育局長も、事務局長の独断という帝京大学からの答えを「不自然」と認め、「おっしゃいますように、私どもも、一事務局長がこのように多額の寄附金を管理し、あるいは、いわゆる帝京グループに個人の判断で配分をするということは大変不自然なことでございますし、仮にそれが事実だとしましても、そういう処理をしていたことについて、当時の経営陣の管理責任というのは大変重いものと感じているところでございます。」と返答した。 続けて文部科学省による調査の限界を工藤高等教育局長は、「私どもの立場というのは、警察等と違いまして、捜査機関でもございませんので、おのずからの限界があるところでございます。」と述べた。 この8月7日の委員会ではその後も、事務局長の独断という帝京大の主張に対して、帝京大は冲永総長のワンマン大学で、大学内部の経理に関しては非常に細かい所にまで総長の決裁が必要なのに、巨額の寄付金について総長が知らなかったのはおかしいという趣旨の疑義が繰り返し出された。実際、帝京大関係者の証言として、「大きな出費はもちろん、事務員のボールペンの使い方にまで総長は口を出す」と7月12日発行の週刊誌にも書かれていた。 さらに帝京大学の行為について、国民が求めている答えと文科省による調査結果とが乖離していることの指摘が繰り返しあり、そして文科省による調査が限界ならばどのような措置の可能性があるかについての質問があった。 それに対して当時の岸田文雄文部科学副大臣は、大学への閉鎖命令は不可能であること、大学の特定組織に対する認可取り消しなどの段階的な措置を検討することを答えた。しかし抜本的な調査や法的制裁については不可能ということであった。 また寄付金納付者が、帝京大の言う事務局長の所に寄付金を持っていくように誰が指示したのか、それは総長を置いて他には考えられないという疑義も8月7日の同文部科学委員会では出された。 これに対して工藤高等教育局長も、寄付金の事務局長一人による処理は「疑問」であることを認めた。 「事務局長が一人で処理した、しかも寄附者との関係が、本当にどうして事務局長にストレートに接触できるようになっているのか、先生と同様の疑問を私どもも抱いて、いろいろ追及したのでございます。」 ということであった。 このように帝京大学からの報告をほぼそのまま繰り返した文科省の調査の不十分が露呈した2002年8月7日の文部科学委員会であったが、それでは捜査に強制力のある検察による刑事事件としての立件は可能だったのか否かが疑問になる。この法的制裁の可能性については、国税庁幹部から検察に対して「補助金適正化法違反や詐欺などで立件できるのではないか」と相談があったという。結局立件は見送られたが、ある検察OBは「詐欺罪は難しいが、補助金適正化法違反であれば立件できるのではないか」との見解を示したという。
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