完全統制区域
完全統制区域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/29 14:24 UTC 版)
「朝鮮民主主義人民共和国の強制収容所」の記事における「完全統制区域」の解説
刑罰に例えるならば、ここは仮釈放の機会がある革命化区域とは違い、仮釈放の機会すらない終身刑に処せられた政治犯たちの収容所である。ここでも、幹部に見初められた役付収容者による暴力・搾取が行われる。支給品が滞る事が多く、その場合は服や靴すら自分たちで作り出さねばならない。収容者の栄養状態は悪く、雑草や鼠を食べる事が日常化している。疾病にかかった収容者は、収容所内にある病院で治療を受けることができるという建前があるが、その実態は国家保衛省に所属する医師団の判断で「治験」と称する各種の人体実験を受けるか、あるいは治療もされず病院と称される隔離バラックに押し込まれ死を待つばかりである。死んでも刑墓に埋葬されるわけではなく、田畑の奥深いところに肥料として埋められるか、近くに掘られた穴に適当に埋められたり、収容所の警備用に飼育されている軍用犬の餌にされる始末である。 疾病にかかった収容者に対して行われる「治験」は、外科手術の適応外である患者に対して困難な手術を強行したり、動物実験を済ませていない開発中の新薬を使用して治療を行うという事実上の人体実験であり、近年では、北朝鮮の主な輸出品である大麻、ハッシシ、阿片、ヘロイン、覚醒(かくせい)剤等の麻薬の乱用が、人の脳や臓器をいかにして破壊し、人を廃人にしていくかという薬物乱用の過程を調査したり、細菌やウイルスの研究と生体解剖、放射線および放射性物質が人体に与える悪影響を確認する実験が行われているとされる。患者である収容者が死亡した場合は、収容者の遺体の各部位から取り出した組織を標本にして様々な研究が継続される。脱北者団体によれば、医師団は酒や薬物を乱用しながら「治験」にあたっているといわれ、生体解剖による虐殺が繰り返されているという。 収容所を取り囲む鉄条網を超えて逃走を図った者は、発見次第射殺される。規則違反に対しては、公開銃殺のほか、監視員の徒手格闘術の訓練台にされる、木に一日中縛り付ける、棍棒で百数十回打たれるといった罰が用意されている。規則違反といってもほとんどが食べてはならぬ時に食べた、運動時間外に運動をした程度のものだが、収容者は銃殺とならずとも、結局は外傷性ショックによって死ぬことになる。これらのことから、実質的には終身刑どころか死刑も同然と言える。 現在の“完全統制区域”は、第14号、第16号、第18号、第22号、第25号の5箇所であるとされている。特に、第16号と第25号における処遇は劣悪とされる。やはり、人里離れた中山間地域に鉄条網で囲まれた粗末なバラックが並ぶ集落と田畑、工場があり、革命化区域と同様の形態をとるが、第25号管理所(咸鏡北道清津市)ならびに既に閉鎖された旧第26号管理所(平壌市勝湖区域貨泉洞)は、政治犯本人のみを収容する監獄形態をとり、監視員による拷問や、医師団による「治験」が他の管理所以上の頻度で行われている模様である。また、16号収容所では、金日成・正日父子の世襲制を批判した高官や知識人たちがその地位を追われて収容されるという。この収容所では、1987年頃から90年代にかけて約1万人の政治犯が、吉州郡の山奥にある万塔山での大建設工事に動員されたが、動員された者は全員が文字通り消えてしまった。万塔山の周辺には、豊渓里の地下核実験場など秘密の軍事施設が点在しており、政治犯たちは工事の進捗状況に応じて節目ごとに動員され、新旧交代の際には機密保持のための虐殺が繰り返されたとみられる。ちなみに、韓国に亡命した黄長燁元書記によれば、北朝鮮は1994年に核兵器を保有したとされる(いずれも未確認の情報である)。
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