大電力用途への実用化に向けた動き
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/23 23:53 UTC 版)
「ワイヤレス電力伝送」の記事における「大電力用途への実用化に向けた動き」の解説
小電力分野におけるワイヤレス電力伝送は1960年代初頭より共振を利用した誘導電力伝送がペースメーカーや人工心臓などのデバイスを含む埋め込み型医療デバイス で使用され始め、一つの成功を収めている。 初期のシステムでは受信コイル側のみに共振が採用されていたが、後のシステム では送信コイル側にも共振が採用された。 これらの医療機器は低電力の電子機器において、比較的高い効率が実現できるように設計されており、コイルの位置ずれやねじれを効果的に調整している。 埋め込み型アプリケーションにおけるコイル間の間隔はほとんどの場合において20 cm未満である。 現在共振を利用した電力伝送は、多くの市販の医療用埋め込み型デバイスで電力を供給するために数多く使用されている 。また、特に防水性が求められる為に端子の露出が好まれない電動歯ブラシや電動シェーバーといった分野も採用されて来たが、その他の分野でも非接触型ICカードや や、コードレス電話 などで、少なくとも2006年 - 2007年ごろには既に広く使われる様になっている。 2009年(平成21年)5月25日、日本の総務省はワイヤレス電源の実用化の検討として、ほかの家電製品や人体への影響などの調査を経た上で電波の周波数帯割り当て、電波の干渉などの実用化に向けた課題への検討に入ると共に、同年7月に発表された電波政策懇談会の報告書内容に盛り込み、2015年の実用化を目指した が、多くの課題の解決に至らず、実現しなかった。 AGV(無人搬送機)の分野では1993年に現在この分野でトップシェアであるDAIFUKU などを中心に実用化が始まった。これは電磁誘導の受電側に共振コンデンサを組み合わせて共振させたときに磁界の調相現象が起きて送電側の力率が改善され、効率の高い電力伝送ができることを利用したものである。動力への給電に摺動電極を用いないことが大きなメリットとされて自動倉庫他クリーンルームにおける半導体の搬送機として広く普及した。 現在ではオークランド大学のジョン・ボーイズらの提唱 に基づき、受電側のみにhighly resonant(共振のQ値を高くする)を適用することによって伝送距離を大きく伸ばす試みが行われている。これはMITのマリン・ソーリャチッチが提唱している理論とは異なり、電磁誘導の延長として解釈ができる。結合モード理論も非放射の電磁的共鳴エネルギートンネルも利用していないが、磁界共振の結合の本質であるとされるhighly resonantの概念を新たに取り入れたものと考えられる。 超電導リニアの車上電源においては当初ガスタービン発電機を搭載していたが、超電導リニア開発当初から研究を続けている独自の誘導集電方式で、これも磁界の調相現象を利用した広義の磁界共振といえる方式により、精密な周波数/位相制御を行うことによって長距離(10cm以上)かつ高効率の走行中給電を行う誘導集電 技術が確立され、2027年の営業運転までに実用化されることが決まっている。この方式もまた共振変圧器の原理に基づいており、結合モード理論に基づく説明はできない。またオムロン・アミューズメントはテクノフロンティア2017において、これも結合モード理論には基づかない磁界の調相現象を利用した2nd-resonance方式 を展示し、中距離伝送において効率とロバスト性の両立が可能なことを示した。 WiTricityは2016年12月、スイッチト・キャパシタ方式 によるTMN (Tunable Matching Network)を発表し、効率が改善され、異なるコイルシステム間においても電圧レギュレーションの互換性が保てることを示した。これにより、WiTricityの方式は当初のマリン・ソーリャチッチの結合モード理論を離れて磁界の調相現象を利用したジョン・ボーイズらが提唱する方式に大幅に近づくものとなった。そして2019年2月、WiTricityはクアルコムのEVワイヤレス充電部門のQualcomm Haloを買収し、WiTricityの技術はオークランド大学発の技術と統合されることになった。2020年12月にはワイアレス電力伝送の実用化をめぐり、7つの特許が侵害されたとして特許侵害訴訟が提起された。 東京大学生産技術研究所の巻俊宏准教授らは、2018年7月、海中ロボット(水中ロボット)向けのワイヤレス給電技術を開発し、長期間の自律稼働を可能にしたと発表した。送受電間の結合に赤外線同期による磁界共振方式を採用することにより温度や水圧の変化によって生じるパラメータの変化に対しても安定した送受電が行えるようになった。
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