兎
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)226「亀と兎」 亀と兎が競走をする。兎は生まれつき足が速いので、真剣に走らず、道からそれて眠る。亀は足が遅いのを自覚していたので、たゆまず走り続け、兎を抜いて勝利する。
『亀とウサギ』(アフリカの昔話) 亀が兎に、長距離競走を挑む。亀は、親類の亀たちを呼び集め、走る道筋に一定の間隔で隠れているよう頼んでおく。競走が始まり、足に自信のある兎は、しばしば後ろを向いて「亀くん、ついて来ているかい?」と聞く。そのたびに別々の亀が、それぞれの隠れ場所から「すぐ後ろにいるよ」と答えるので、兎は驚く。「亀が猛スピードで追いかけてくるのだ」と思った兎は、必死でゴールめざして走り、倒れて死んでしまった(カメルーン、バフト人)。
*類話である→〔競走〕3の『鯨となまこ』(日本の昔話)では、多くのなまこが浦々に待機して鯨をだます。
『兎とはりねずみ』(グリム)KHM187 兎とはりねずみが、畑の上手(かみて)から下手(しもて)へ、駆けくらべをする。はりねずみは、自分とそっくりの妻に「下手に隠れていろ」と命ずる。「用意、スタート」で、兎は下手へ向けて走る。ゴール直前に、はりねずみの妻が姿を現して「もう来ているぞ」と言う。兎はびっくり仰天し、「もう1度」と言って、今度は下手から上手へ走る。すると上手にいるはりねずみの夫が、「もう来ているぞ」と言う。兎は行ったり来たり73度駆け通し、74度目に倒れる。
『今昔物語集』巻5-13 帝釈天が、兎・狐・猿の心を試すために老人に変身し、「我を養え」と請う。狐と猿は、それぞれ食料を捜して来て老人に食べさせるが、兎は無力で何も捜せない。兎は「私の身体を焼いてお食べ下さい」と言い、焚き火に飛びこむ〔*『ジャータカ』第316話に類話。手塚治虫の長編『ブッダ』は、冒頭と結尾の2ヵ所にこの物語を引く〕→〔月の模様〕1。
*月世界から来たと称する兎→〔月〕7aの『パンチャタントラ』第3巻第1話。
★3.傷ついたものをさらに傷つける兎と、傷を負った上にさらに傷つけられる兎。
『かちかち山』(昔話) 狸が、兎のために火傷を負わされ、穴の中でうなって寝ていた。そこへ兎がやって来て、「火傷に良く効く薬だ」といつわり、辛子を塗りこむ。狸はいよいよ苦しんで転げまわる。
『古事記』上巻 稲葉の素兎(しろうさぎ)が、鰐に皮を剥がれて泣いていた。通りかかりの八十神(やそかみ)が、「海水を浴びて、風にあたれ」と教える。そのとおりにすると、海水が乾くにつれて、風に吹かれた身の皮がひびわれ、兎は痛さに苦しむ〔*そこへオホナムヂ=大国主命がやって来て、「真水で体を洗い、蒲の花粉をつければ治る」と教える〕。
★4.走る兎。
『不思議の国のアリス』(キャロル) 夏の昼下がり、アリスが土手の上で姉とともにすわっていると、1匹の兎が「遅くなっちゃうぞ」とひとり言を言い、チョッキのポケットから時計を取り出して時間を確かめ、急いで走って行く。アリスは兎の後を追って穴に飛び込み、不思議の国に到る。
『ほらふき男爵の冒険』(ビュルガー)「ミュンヒハウゼン男爵自身の話」 「ワガハイ(ミュンヒハウゼン男爵)」は丸2日間、1羽の兎を追いかけてようやく撃ちとめ、兎はひっくり返った。見ると、兎は脚を腹に4本、背中に4本、合計8本持っていた。腹側の脚が疲れてくると、クルリと仰向けになり、新しい脚で一段スピードをあげ、走り続けるのだ。この種の兎は、その後2度と見たことがない。
★6.黒い兎。
『丹鶴(たんかく)姫さんと黒い兎』(松谷みよ子『日本の伝説』) 昔、新宮の城山の丘に、丹鶴姫が黒い兎と住んでいた。姫は男の子が好きで、子供が1人で遊んでいると、丘の上から手招きした。子供はふらふらと姫の方へ歩いて行き、それっきり帰って来ない。黒い兎が、原っぱを歩く子供の前へ飛び出し、風のように横切って行くこともあった。子供は、その日の晩に高熱を発して死んだ。姫は、とうの昔に亡くなったが、今でも夕日が赤く沈む頃、黒い兎を連れて丘に現れ、子供を招くそうだ(和歌山県)。
★7.兎の起源。
月からころげ落ちたうさぎ 大昔、月の世界で、王子さまたちが雪合戦をした時、雪の玉が1つ、それて地球へ落ちてしまった。このままでは雪の玉は、日光に溶けてなくなってしまう。神さまはそれを惜しみ、雪の玉に、目・鼻・口・長い耳・4本の足・尻尾をつけてやった。おかげで雪の玉は、地球に住むことができるようになった。これが、うさぎがこの世に生まれた始まりだ(アイヌの伝説)。
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