元慰安婦の証言の検証と真正性
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「日本の慰安婦問題」の記事における「元慰安婦の証言の検証と真正性」の解説
証言している慰安婦には、金学順・李容洙・姜徳景・金君子・金順徳・李玉善・鄭書云・文玉珠・黄錦周・宋神道・ジャン・ラフ・オハーン・ビクトリア・ロペス・プリシラ・バルトニコ・レメディオス・バレンシアなどおよそ80人がいる[要出典]。 韓国で初めて慰安婦であったことを名乗り出た金学順を初め、元慰安婦の証言の中に矛盾があるとして、その証言の信憑性を疑問視する指摘がこれまである。慰安婦問題について日本政府を糾弾し続けてきた千田夏光も金学順証言について、親族が業者に売却したということからすると、日本軍による強制連行であったかどうかは不明確と述べている。 秦郁彦は慰安婦たちの身の上話(証言)について「検証ぬきで採用するわけにいかない」としている。秦はさらに「だまして連行した朝鮮人周旋人や数年間起居を共にした慰安所の経営者についてもフルネームを陳述したケースがまったくないのは不自然きわまる」と指摘している。 元駐日韓国大使の呉在煕は1993年1月7日に「政府の調査は徹底した証拠主義だから『一方的な証言』は認定できない」として、日本政府調査で証拠が出てこなかったことに関しても「当事者の言葉だけを信じてどうして認定するのですか。それは公的な調査をする我が政府でも同じです。日本政府が故意的に強制動員についての資料を隠しているとは思いません」と記者会見で述べた。また、呉は「真相にはきりがなく、一定の線を引かなければならない」とも述べた。しかし、この発言が報じられると関係団体から抗議をうけたため金泳三時期大統領から謝罪を命じられ、大使職も交代となった。なお呉在煕は1992年1月の宮澤訪韓の際の韓国政府内会議でも「トップ会談では慰安婦問題を出すべきではない」と進言したが、大統領府は慰安婦問題を積極的に持ち出すことで対日貿易赤字について日本側の譲歩を引き出せると反論した。 ほかにフェミニズム研究者の上野千鶴子は「<善意>のインタビュアーたちは、自分が聞きたい物語を聞き出すように、語りの図式を変形するという権力を、その聞き取りの現場において行使している」として聞き取り調査のあり方を批判している。 小室直樹は、慰安婦問題の核心は挙証責任(証明責任)にあると指摘している。刑事裁判および民事裁判において証明責任は原告(検察)側にあり、検事は合法的に被告が有罪であることを完全に証明しなくてはならない。証明責任のない被告はアリバイを証明する必要もないと指摘したうえで、慰安婦問題について被告は日本政府であり、原告を日本や韓国の運動団体とすれば、証明責任は運動側にあると主張した。また無罪推定の原則によって、合理的な疑いを入れないまでに立証されない場合は被告人は無罪となる。さらに小室は国際法上、国家が「謝罪」するということは国家責任を負うことを意味し、賠償に応ずることを意味すると指摘し、首相や外相が「可哀想なひとたちだから」という理由だけでひとたび謝罪すれば挙証責任を日本が負わされることになるとして「謝罪外交」を強く批判している。 中国海南島戦時性暴力被害裁判の支援団体ハイナンNETによる台湾元慰安婦の調査報告や石田米子・内田知行らによれば、最近(2004年時点)の調査では1人の元慰安婦に数時間のインタビューを数回行い、日時・場所などについては他の資料とつき合わせて確認しており、研究者は証言の信頼性を確認しながら調査を行っているという。ただし、石田・内田らは1990年代の元慰安婦証言の批判的検証を行なっているわけではない。 他方、「被害者の証言を疑い、歴史学者や政府がその真偽を検討して判定しようとすること自体が被害者に対する抑圧であり、認められない」という主張がある。東京大学教授で国際法学者の大久保昭はそのような主張を「被害者の聖化にほかならず、実際的意義を欠く」として、「『自分は慰安婦だった』と主張する人のなかに偽ってそう称する人が含まれることは、人間性の現実を受け入れるかぎり否定できない」と指摘している。また、「真偽の判定にあたって被害者(と主張する人)に最大の配慮をすべきことは当然だが、個人への償いは、被害者を認定するという作業を経なければならない。その際、『自分は慰安婦だった』と主張する人のなかに虚偽の主張者が含まれる可能性がある以上、すべての人を元慰安婦と認定することはできない。主張の真実性を認定する基準と手続きをつくらなければならない」と提言した。
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