リー部分群とは? わかりやすく解説

リー群

(リー部分群 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/20 09:48 UTC 版)

複素数平面において中心 0、半径 1 の円周は複素数の積に関してリー群である。

リー群(リーぐん、英語: Lie group)は、群構造を持つ可微分多様体で、その群構造と可微分構造とが両立するもののことである。ソフス・リーの無限小変換と連続群の研究に端を発するためこの名がある。

定義

G台集合とする実リー群とは、G には実数体上有限次元かつ可微分[注釈 1]な実多様体の構造が定められていて、G はまた群の構造を持ち、さらにその群の演算である乗法および逆元を取る操作が多様体としての G 上の写像として可微分であるもののことである[注釈 2]。このような構造が入っているという前提の下で、通常は「G はリー群である」というように台を表す記号を使ってリー群を表す。また、実数(実多様体)を複素数(複素多様体)にとりかえて複素リー群の概念が定まる。

圏論の言葉を使うとリー群の定義が簡潔になる:リー群とは可微分多様体のの群対象のことである。この圏論に基づく定義は重要である。なぜなら、この定義表現を介して、リー群の概念をSupergroup_(physics)へと一般化することが可能になるからである。圏論の視点を用いることで、リー群に対して別のタイプの一般化を考えることができる。リー亜群(Lie groupoids)のことである。これは、条件を付加した可微分多様体の圏の亜群対象のことである。

複素数C 上の二次特殊線型群 SL(2, C) などは複素リー群の例である。また、直交群や斜交群は、成分の属する体の直積位相からの相対位相に関して多様体とみるとリー群である。このような行列からなるリー群は総じて(代数的)行列群あるいは線型代数群と呼ばれる一類に属する[注釈 3]

一般化として、台となる多様体が無限次元であることを許すことにより無限次元リー群が同様の方法で定義される。また、類似物として係数の属する体を p-進数体にとりかえて p-進リー群が定義される。あるいは係数体を有限体に取り替えれば、リー群の有限な類似物としてリー型の群が豊富に得られるが、これらは有限単純群の多くの部分を占めるものである。また、可微分多様体を用いる代わりに解析多様体や位相多様体を台にすることもできるが、それによって新たなものが得られるというわけではない。事実、アンドリュー・グリーソン、ディーン・モントゴメリ、レオ・ジッピンらは1950年代に次のことを証明している。すなわち、G が位相多様体であって、連続な群演算をもつ群でもあるならば、G 上の解析的構造が唯一つ存在して、G をリー群にすることができる(ヒルベルトの第5問題あるいはヒルベルト-スミス予想)。

いくつかの例と、それらに関連する数学や物理学の分野について触れる。

  • ユークリッド空間 Rn は、ベクトルの加法を群演算と見て可換リー群である。
  • 可逆n正方行列全体 GLn(R) は行列の積によって群をなす(一般線型群と呼ばれる)が、これを n2 次元のユークリッド空間の部分多様体とみるとリー群である。この一般線型群は、行列式の値が 1 となる行列全体のなす群(特殊線型群と呼ばれる)を部分群として含むが、これもやはりリー群の例となる。
  • n 次元ベクトル空間における回転と鏡映が生成する変換群 On(R) は直交群と呼ばれるリー群である。(回転だけから生成される直交群の部分群SOn(R)は特殊直交群と呼ばれるリー群である。)
  • スピノル群特殊直交群の二重被覆であり、場の量子論におけるフェルミ粒子の研究に用いられる。
  • 斜交群 Sp2n(R) は、シンプレクティック形式を保つ行列全体のなすリー群である。
  • 0 次元球面 S0, 1 次元球面 S1 および 3 次元球面 S3 は、これらをそれぞれ絶対値が 1 の実数全体、複素数全体、四元数全体と同一視することでリー群にすることができる。他の次元の球面ではこのようなことはできないし、リー群にはならない。リー群としての S1 はしばしば円周群と呼ばれる。いくつかの円周群同士の直積リー群はトーラス群と呼ばれる。
  • n 次の上三角行列の全体からなる群 Bn(n + 1)/2 次元の可解リー群である。しばしば標準ボレル部分群と呼ばれる。
  • ローレンツ群およびポワンカレ群特殊相対性理論において時空の等長性を記述するリー群で、それぞれ 6 および 10 次元である。
  • ハイゼンベルク群は 3 次元リー群で量子力学に登場する。
  • nユニタリ群 U(n) はユニタリ行列全体のなす n2 次元のコンパクトリー群である。行列式の値が 1 のユニタリ行列全体のなすリー群 SU(n) を部分群として含む。
  • 直積リー群 U(1) × SU(2) × SU(3) は 1 + 3 + 8 = 12 次元のリー群である。これは標準模型ゲージ群で、それぞれの次元は 1 が光子、3 がベクトルボソン、8 がグルーオンに対応している。
  • メタプレクティック群 Mp は 3 次元のリー群である。SL2(R) の二重被覆群で、モジュラー形式の理論に用いられる。これを有限行列表現することはできない。
  • G2, F4, E6, E7, E8 型の例外型リー群はそれぞれ 14, 52, 78, 133, 248 次元である。 次元 190 のリー群 E7½ もある。

リー群から新たなリー群を作り出す標準的な方法がいくつか挙げられる。たとえば、

  • 二つのリー群から直積群をつくると、これは直積位相に関してリー群になる(直積リー群)。
  • リー群の閉部分群をとると、これは相対位相でリー群をなす(リー部分群)。
  • リー群をその正規閉部分群で割った商はリー群である(商リー群)。
  • 連結リー群の普遍被覆もまたリー群である(普遍被覆リー群)。例として、円周群 S1 の普遍被覆は加法に関するリー群 R である。

リー群でないものの例を挙げる:

  • 無限次元実ベクトル空間を加法群と見たもののような無限次元群。これは有限次元の多様体ではないのでリー群ではない(無限次元リー群ではある)。
  • ある種の完全不連結群、たとえば体の無限次拡大ガロア群や、p-進数全体のなす加法群などがそうである。これらがリー群でないのは実多様体を台としないからである(後者は p-進リー群に属する)。
  • 連結リー群のリー群準同型像は必ずしもリー群にはならない。典型的な例として、可換リー群 R を直積リー群 S1 × S1 へ、写像 x ↦ (x, 2 x) によって写すことを考える。この像は S1 × S1 の稠密な部分群で、したがってこれは多様体にならないし、特にリー群にはならない。これはまた、リー環の部分リー環がリー群の部分リー群に対応しないことの例ともなっている。
  • 有理数体の加法群に実数体における位相の相対位相を入れたものも、多様体にならないのでやはりリー群ではない。

リー群の型

リー群の分類法の一つは、その代数的な性質によるものである。例えば、単純リー群、半単純リー群、可解リー群、冪零リー群、可換リー群は、その群としての単純性、半単純性、可解性冪零性可換性に従った分類である。また、リー群の多様体としての性質による分類もある。連結性コンパクト性に着目して、連結リー群、単連結リー群、あるいはコンパクトリー群などを考えることができる。

  • リー群の単位元を含む連結成分(単位成分)は正規閉部分群で、それによる商は離散群である。
  • リー群の普遍被覆群は単連結リー群である。逆に、連結リー群はかならず、単連結リー群の(その中心に含まれる正規離散部分群による)商として得られる。
  • コンパクトリー群の分類は終わっており、それは単純コンパクトリー群とトーラス群の直積リー群の有限中心拡大であるか、さもなくば連結なディンキン図形に対応する単純コンパクトリー群であることが知られている。
  • 単連結可解リー群は、ある階数の可逆上三角行列全体のなす群の閉部分群に同型であり、そのような群の有限次元既約表現は 1 次元表現(既約指標)である。可解リー群の分類は、ごくちいさい次元での場合を除けば、非常に厄介なものである。
  • 単連結冪零リー群は、ある階数の対角成分がすべて 1 の可逆上三角行列のなす群の閉部分群に同型である。よってその有限次元既約表現は全て 1 次元である。冪零リー群の分類もやはりごく小さい次元での場合を除いて非常に困難である。
  • 単純リー群という概念は、単に抽象群として単純であることを以ってその定義とする場合もあれば、単純リー環に対応する連結リー群として定義する場合もある。SL2(R) は第二の定義であれば単純であるが、第一の定義では単純でない。いずれの定義に従った場合も、単純リー群すべての分類は完全に解決済みである。
  • 半単純リー群は、その付随するリー環が半単純(単純リー環の直積)となる連結群のことである。これは単純リー群の直積の中心拡大として得られる。
  • 連結可換リー群はすべて、ユークリッド空間を加法に関する群と見たものとトーラス群との直積に同型である。

構造

リー群は標準的に、離散リー群、単純リー群、可換リー群に以下のように分解される: ここでリー群 G に対して

G0G の単位元を含む連結成分、
GsolG の最大の連結可解正規部分群、
GnilG の最大の連結正規冪零部分群、

とすると、次の正規列がえられる:

1 ⊂ GnilGsolG0G

そしてこのとき、

G/G0 は離散的、
G0/Gsol は連結単純リー群の積の中心拡大、
Gsol/Gnil 可換リー群(これはユークリッド空間とトーラスの積として書ける)、
Gnil/1 は冪零、したがって特にその昇中心列の組成因子は可換群。

これにより、リー群に対する問題の一部(たとえばリー群のユニタリ表現を求める問題など)は連結単純リー群の同種の問題に帰着して考えることができる。

付随するリー環

リー群に対して、その単位元における接空間(を台となるベクトル空間としてそれに積を定義したもの)としてリー環を対応付けることができる。このリー環は、もとのリー群の局所的な構造を完全に反映しており、リー群に付随するリー環と呼ばれる。このリー環の元は、略式的には(ユークリッド空間内にある曲面の古典的な接平面に対するイメージをそのまま反映して)リー群の単位元に無限に近いところにある元であると見ることができるし、リー環の括弧積はそのような無限小の交換子が定めるものと考えることができる。厳密な定義に先立って例を挙げる:

可換リー群 Rn のリー環はちょうど Rn に括弧積を、任意の A, B に対して

[A, B] = 0.

とおくことによって与えたものである。一般に、付随するリー環の括弧積が恒等的に 0 となることは対応するリー群が可換群であることに同値である。

一般線型群 GLn(R) のリー環は全行列環 Mn(R) に

[A, B] = ABBA

なる括弧積を入れたものである。

GGLn(R) の閉部分群なら、G のリー環は略式的に Mn(R) に属する行列 mであって 1 + εmG に属すようなもの全体からなるものと見ることができる。ここで ε は正の無限小で、ε2 = 0 となるもの(もちろん実数ではない)である。例えば直交群 On(R) (AAT = 1 となる行列 A の全体)に付随するリー環は

(1 + εm)(1 + εm)T = 1

あるいは ε2 = 0 と考えると同じことだが

m + mT = 0

となる行列 m の全体からなる。

上で与えた即物的な定義は安直で使い易いものであるが、いくつか問題がある。たとえば、この定義を考える前にリー群を行列群として表現できている必要があるが、任意のリー群を考えるときにはそんなことはできないし、また表現の仕方によらず対応するリー環が定まるかどうかということはまったく明らかなことではない。これらの問題はリー群に付随するリー環の一般的な定義を与えることで回避される。定義以下のような考察に従って与えられる:

  1. 可微分多様体 M 上のベクトル場は、M 上の滑らかな関数のなす環の微分 X と考えることができる。 また、二つの微分 X, Y に対して、そのリー括弧積 [X, Y] = XYYX は再び微分となるので、この括弧積のもとでベクトル場の全体をリー環にすることができる。
  2. G が可微分多様体 M に滑らかに作用するリー群とすると、G の作用を関数環へ移行し、さらに微分に移行することで G はベクトル場に対して作用させることができる。この G の作用によって不変なベクトル場全体のなすベクトル空間は、リー括弧積に関して閉じているのでリー環となる。
  3. この構成法をリー群 G に、その台の多様体構造に着目して適用する。つまり、GG = M に左からの積で作用していると見なすと、G 上の左不変ベクトル場の全体はベクトル場のリー括弧積のもとでリー環となる。
  4. リー群の単位元における接ベクトルはどれも(それを群の左移動作用で各点に移し変えることにより)左不変ベクトル場に拡張することができる。これにより、単位元 e における接空間 Te と左不変ベクトル場全体の作るベクトル空間とを同一視して、接空間をリー環にすることができる。これをリー群 G のリー環(G に付随するリー環、G に対応するリー環)と呼んで、リー群を表すのに使っている文字の対応する小文字(慣習的にドイツ文字を用いることが多い)を充てて表す。例えばリー群を G で表しているのなら、そのリー環は g
    出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明記してください。 記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。2017年11月

    洋書

    • Adams, J. Frank (December 1, 1996). Lectures on Exceptional Lie Groups. Chicago Lectures in Mathematics. University Of Chicago Press. ISBN 0-226-00527-5 
    • Fulton, William; Harris, Joe (July 30, 1999). Representation Theory : A First Course. Graduate Texts in Mathematics / Readings in Mathematics (1st ed.). Springer Verlag. ISBN 0-387-97495-4 
    • Knapp, Anthony W. (2002). Lie Groups Beyond an Introduction. Birkhäuser. ISBN 0-8176-4259-5 
    • Rossmann, Wulf (August 24, 2006). Lie Groups: An Introduction Through Linear Groups. Oxford Graduate Texts in Mathematics. Oxford University Press. ISBN 0-19-920251-6  - 注意:2003年刊の再版で初版の誤植が訂正されている。線型群(すなわち有限次元の行列で定義される連続群)のトリビアルでない実例を通じたリー群とリー代数の入門書。
    • Serre, Jean-Pierre (1992). Lie Algebras and Lie Groups: 1964 Lectures given at Harvard University. Lecture Notes in Mathematics (2nd sub ed.). Springer. ISBN 3-540-55008-9 
    • Johan G.F.Belinfante and Bernard Kolman: A Survey of Lie Groups and Lie Algebras with Applications and Computational Methods, SIAM, ISBN 0-89871-243-2 (1972).

    和書

    関連項目

    外部リンク


リー部分群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/10 14:06 UTC 版)

特殊線型群」の記事における「リー部分群」の解説

F が R (実数体)、または C (複素数体) であるときにはSL(n, F) は GL(n, F)の (n2 − 1) 次元のリー部分群である。SL(n, F) のリー代数 s l ( n , F ) {\displaystyle {\mathfrak {sl}}(n,F)} は、トレースが 0 であるF 上の n 次正方行列からなるリー括弧積は、交換子積によって与えられる

※この「リー部分群」の解説は、「特殊線型群」の解説の一部です。
「リー部分群」を含む「特殊線型群」の記事については、「特殊線型群」の概要を参照ください。

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