ボースアインシュタイン‐ぎょうしゅく【ボースアインシュタイン凝縮】
ボース=アインシュタイン凝縮
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/31 23:34 UTC 版)

左:ボースアインシュタイン凝縮が現れる直前。中央:凝縮が現れた直後。右:さらに蒸発させても、ほぼ純粋な凝縮が残る。
ボース=アインシュタイン凝縮(ボース=アインシュタインぎょうしゅく、英: Bose–Einstein condensation[注 1])、または略してBECとは、ある転移温度以下で巨視的な数のボース粒子がある1つの1粒子状態に落ち込む相転移現象[1][2][3][4]。量子力学的なボース粒子の満たす統計性であるボース=アインシュタイン統計の性質から導かれる。BECの存在はアルベルト・アインシュタインの1925年の論文の中で予言された[5][6]。粒子間の相互作用による他の相転移現象とは異なり、純粋に量子統計性から引き起こされる相転移であり、アインシュタインは「引力なしの凝縮」と呼んだ[5]。粒子間相互作用が無視できる理想ボース気体に近い中性原子気体のBECは、アインシュタインの予言から70年経った1995年に実現された。1995年にコロラド大学JILAの研究グループはルビジウム87(87Rb)、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループはナトリウム23(23Na)の希薄な中性アルカリ原子気体でのBECを実現させた[7][8]。中性アルカリ原子気体でBECが起こる数マイクロKから数百ナノKという極低温状態の実現には、レーザー冷却などの冷却技術や磁気光学トラップなどの捕獲技術の確立が不可欠であった[9][10]。2001年のノーベル物理学賞は、これらのBEC実現の実験的成果に対し、授与された。
概要
量子力学上の粒子はスピンが整数値をとるボース粒子と半整数値をとるフェルミ粒子に分けられる。このうちのボース粒子はボース統計にしたがい、同種粒子は位置以外の区別がなく、複数の粒子が同じエネルギー状態をとりうる。ボース気体でボース=アインシュタイン凝縮(BEC)が生じる機構は次のように説明される[1][2][4]。室温ではマクスウェル=ボルツマン分布に従う古典粒子として振る舞う気体原子も極低温状態では量子性が顕著となる。極低温状態にて、原子間距離が、原子の空間上の広がりの度合いを表す熱的ド・ブロイ波長に近づくとき、原子各個の波動関数が互いに重なり始める。その結果、ボゾン同種粒子が区別できなくなる「量子統計性」が顕れる。このとき、系のボース粒子群は相互交換に対する波動関数の対称性から相空間の一点に集まる様にふるまうものと予想される。結果として、巨視的といえる個数のボース粒子が最低エネルギーの量子状態を取り、BECが発現する。凝縮体は多数の原子が一つの波動関数で表される巨視的な量子状態であり、コヒーレントに振る舞う。これは固体、液体、気体、プラズマなどと同様に物質の相の一つと捉えられる。
1925年、インドの物理学者サティエンドラ・ボースからの手紙をきっかけとして、アルベルト・アインシュタインがBECの存在を予言した[5]。
BECを実現しうる系としては、従来、液体ヘリウムや酸化銅半導体(Cu2O)の励起子が知られていたが、これらの系は粒子間相互作用が強く、理想ボース気体のふるまいからかけ離れていた[2]。より理想ボース気体に近い、中性アルカリ原子気体によるBECが1995年に実現した[8][7]。
理想ボース気体
粒子間の相互作用がない自由ボース粒子から構成されるボース粒子の集団を、理想ボース気体と呼ぶ。熱平衡状態の理想ボース気体において、あるエネルギー状態を占有する粒子数はボース分布で与えられる。ボース分布の性質から、ある転移温度以下では巨視的な数の粒子の最低エネルギー状態への占有、すなわち、BECが生じる。この相転移は純粋に量子統計的性質のみに起因し、液化や固化のようなほかの相転移と異なり、相互作用を必要としない点に特徴がある。箱の中の一様な理想ボース気体の系や理想ボース気体が調和振動子ポテンシャルにトラップされた系では、以下のように転移温度や凝縮相の粒子数が求まる。
一様な系
箱の中にある理想ボース気体の系を考える。箱の中にはポテンシャルが作用しない一様な系とし、系の体積を V、粒子数を N とする。運動量 p の自由ボース粒子の1粒子エネルギーは、粒子の質量を m とすると
- フェルミ縮退
- クォーク物質
- クォークグルーオンプラズマ
- 超臨界流体
ボース=アインシュタイン凝縮
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「物質の状態」の記事における「ボース=アインシュタイン凝縮」の解説
詳細は「ボース=アインシュタイン凝縮」を参照 1924年、アルベルト・アインシュタインとサティエンドラ・ボースは、しばしば「第五の状態」とも言われる、ボース=アインシュタイン凝縮の存在を予言した。前述のように、超流動状態のヘリウム4が例として挙げられる。 気体原子でのボース=アインシュタイン凝縮は、長い間証明されなかったが、1995年についにヴォルフガング・ケターレらが実験的に作り出すことに成功した。ボース=アインシュタイン凝縮は、原子が絶対零度に近く、ほぼ同じ量子準位をとる時に生じる。 フェルミ凝縮はボース=アインシュタイン凝縮に類似した状態であるが、ボース粒子ではなくフェルミ粒子においておこる。パウリの排他律によりフェルミ粒子では同じ量子状態になることは妨げられるが、2つのフェルミ粒子が対になることによりボース粒子のように振る舞い、対になったフェルミ粒子は制約を受けることなく同じ量子状態を取り得る。
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