バッハ:フーガ イ長調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ長調 | Fuge A-Dur BWV 949 | 作曲年: about 1707-13年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
「メラー手稿譜」に伝えられる。「メラー手稿譜」の通称は、表紙に所有者メラーの名が記されていることに由来するが、幼少のバッハを引き取ったオールドルーフのオルガニスト、ヨハン・クリストフがその大部分を作成した。北ドイツのみならず、イタリア、フランスの作品が断片を含めて54曲収められている。その中にヨハン・ゼバスティアン・バッハの作品が12曲、バッハ自身が書きつけた部分も含まれ、バッハの筆跡を知る上でも貴重な資料である。(なお、これと同時期ほとんど同様の成り立ちをしたものに、「アンドレーアス・バッハ本」がある。この2冊は直系の弟子から弟子へと引き継がれていった。)
〈フーガ〉イ短調BWV949は、一部の文献で今も疑作とされているが、メラー手稿譜にははっきりとヨハン・ゼバスティアン・バッハの名が冠されている。典型的な初期のスタイルで、すなわち主題提示を行わない自由な展開部分(エピソード)がほとんどなく、曲の終わりは主題とあまり関連のない走句によって締めくくられる。しかし、対位法技法に関しては意欲的で、主題の素材から作られた対位主題が2つ用意されている。対位主題の使用は、バッハの創作史においてこの曲がほぼ初の試みである。主題はひじょうによく際立つ同音連打で始まり、刺繍音(例えば第2小節の最初の16分音符の h 音や第2拍の cis 音のように、凹型ないし凸型に音を飾る非和声音)を伴う動機で緩やかに5度上行する。この刺繍音の動機はいたるところに散りばめられ、全曲を通じてつねにどこかでこの音型が聴こえている、といっても過言ではない。その所為でいささか単調になっているのは否定できない。が、主題の導入は音域やテクスチュアを工夫していつも周到に準備される。とりわけ、コーダの直前のバスにおける提示(第74小節)は劇的ですらある。コーダ部分には「ペダル」と記された低音があり、第80小節の dis 音に関しては移高ないしソステヌート・ペダルが必要だが、最終4小節は両手のみで演奏可能である。全体が明澄で、演奏効果の高い作品といえる。
バッハ:フーガ イ長調(アルビノーニの主題による)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:フーガ イ長調(アルビノーニの主題による) | Fuge über Thema von Tomaso Albinoni BWV 950 | 作曲年: about 1725年 出版年: 1866-67年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
主題の出典は、アルビノーニの『トリオ・ソナタ集』Op.1(ヴェネツィア、1694)の第3番第2楽章で、元はヴァイオリン2本と通奏低音による曲である。バッハは主題以外にもいくつかの素材を借用した。たとえば冒頭第3小節、主題に続く16分音符は、原曲では対位主題として用いられた旋律である。が、バッハはこの作品で明確な対位主題を設定していない。むしろ、つぎつぎ現れる主題をくっきりと聴かせつつ曲を劇的に進めるため、広い音域にわたる簡明なテクスチュアを選択している。お陰で、いわゆる「主題の入り」は、奏者が特別に力を込めなくとも、声部の増減や瞬間的な音域の変化によって明確になる。全体は主題の提示を中心に組み立てられ、主題素材の念入りな展開や複雑な対位法技法などは見られない。主題がトリルを伴って終止すると、続く部分は早くも次の主題を準備するために走り出すのである。
息をつかせないような奔流は、第75-79小節のストレッタでクライマックスを迎え、第85-88小節の分散和音を経てたどり着いた属和音で、緊張感を保ったまませきとめられる。休符のあとは、もはやおし留めることの叶わない勢いで鍵盤を端から端まで駆け巡り、低音のペダルポイントの上ではさらに激しさを増す。この目くるめく加速感は、ドイツの鍵盤音楽の伝統に典型の終結の手法である。ただし残念なことに、現代のピアノでこのペダルポイントと分散和音のフィギュレーションを完全に演奏することはきわめて困難で、ソステヌート・ペダルを活用するか、音域を変更する必要がある。
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