ソビエトの核計画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/01 15:00 UTC 版)
ソビエト連邦(ソ連)は、アメリカ合衆国と他の連合国間による核開発計画の共有に参加できなかった。しかし、戦時中を通して、ソ連は多くの情報をマンハッタン計画内の自主的なスパイから受けとっていたとされている(ソビエトの暗号通信では、Enormozというコードネームで知られていた)。 また、ソ連の核物理学者イーゴリ・クルチャトフは、連合国の兵器開発を注意深く見守っていた。そのため、ポツダム会談の席でヨシフ・スターリンはトルーマンに、アメリカが"強力な新型兵器"を開発した、と聞かされても驚かなかった。スターリンが興味を示さないことに、トルーマンはショックを受けたという。 マンハッタン計画でのソ連のスパイは、全員自主的なスパイであり、ロシア人は居なかった 。スパイの中には、ドイツからの亡命者である理論物理学者のクラウス・フックスなどがおり、貴重な情報が彼によってソ連にもたらされたという。その他、ロスアラモスに居たスパイ (お互いに面識はなかったが) には、セオドア・ホール (en:Theodore Hall) やデビッド・グリーングラス (en:David Greenglass) などが居る。しかしロシアはまだ大祖国戦争(独ソ戦)で忙しかったため、これらの情報を生かすのには戦後を待たなければいけなかった。 第二次世界大戦直後の年、核兵器の国際的な統制の必要性が世界中で議論の的となった。原爆開発に関わったロスアラモスの科学者たちは、「原子力の国際統制」の必要性を説き、1945年11月には米英加3国によって原子力の国際管理を司る委員会の国連への設置が提案、12月27日の米英ソ外相級が臨席したモスクワ三国外相会議では国連での設置検討が声明として盛り込まれ、翌46年には原子力委員会を安全保障理事会のもとに設立することが決議された。それにもかかわらず、米国は国際管理体制が機能するようになるまでは原爆を保有し続ける姿勢を明確にしたため、早々とソ連の離反を招き、ソ連は独自の核兵器の開発を進めることとなった。国連原子力委員会は1948年5月に無期限休会した。 その後、マンハッタン計画から得た情報を元にしながら、ソ連はその工業力と人材を核開発へと注ぎ込んだ。ソ連の核開発計画でまず問題となったのは、兵器として使用可能なウランをどこから採掘するかという問題である。ソ連領土内からはウランを発見できず、またアメリカ合衆国は当時知られていた最大の (純度の高い) ベルギー領コンゴのウラン鉱山を独占していた。ソ連は囚人を使ってチェコスロヴァキア内の旧い鉱山を発掘させ、最終的にはウランを発見した。 ソ連は、NKVDの議長ラヴレンチー・ベリヤ (スターリンの腹心であり大粛清の実行者として知られる) の監督のもとで「原爆開発プロジェクト」を開始、それらのプロジェクトは"秘密都市"と呼ばれる地図にすら載らない都市の中だけで研究されていた。 ロスアラモスを模したソ連の都市、サロフでは物理学者のユーリ・ハリトンが原爆開発の科学的な指揮を取った。しかし、監督者たるベリヤは科学者たちのことも、集められたスパイの情報も信用していなかった。そのため、ベリヤは複数の科学者チームを (互いにそうとは知らせずに) 同じタスクに割り当てさせ、もしそれぞれが違う結果に至った場合のみ、彼らを互いに引き会わせ結果を議論させた。彼は研究の進行状況の二重確認のために科学者たちの間にスパイをもぐりこませたという。また、ベリヤは効率的な原爆の設計ではなく、アメリカによって成功が確かめられた、ファットマン型の原爆を開発することを決定した。 頑強で科学的な知識の欠けたベリヤの監督の下ではあったものの、ソ連の科学者たちは研究を続け、1949年8月29日には、アメリカ側では"Joe-1"(RDS-1)と呼ばれたソ連初の原爆実験がセミパラチンスク核実験場で行われた。アメリカの見込よりも数年早い完成だった。ソ連が最初の核兵器を開発したというニュースは、アメリカによって世界へもたらされた。というのは、アメリカがカザフスタン国境近くで放射性降下物を観測したためである。 アメリカは核兵器の「独占」を失い、この後両国は終わりのない核開発競争を続けていくことになる。ソ連の核開発はアメリカで恐怖をもって受けいれられ、ジョセフ・マッカーシー上院議員による赤狩り(マッカーシズム)のような事件を引き起こした。しかし、近年ソ連崩壊後に得られた情報によると、ソ連のスパイは全員この赤狩りを逃れていたとされている。
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