スプーンの歴史
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 17:10 UTC 版)
ヨーロッパでは、新石器時代に使われた陶器製や骨を削ったスプーンが発掘されている(木製のスプーンは土に埋まると腐敗してしまうので、石器時代の遺跡から遺物としては出土しづらい)。 古代エジプトでは、木製、石製、象牙製などのスプーンが使われた。紀元前1000年ころ には使われていたことが分かっている。ファラオや書記など身分が高い人々によって使われた。スプーンには宗教的な図柄が彫りこまれた。古代エジプトでは化粧品の調合用にもスプーンが使われていた。 古代エジプトのスプーン。木製。 取っ手が凝った彫刻になっているスプーン(古代エジプト) 化粧品のとりわけに使ったスプーン(古代エジプト、紀元前1887年-紀元前1750年ころ。柄がアンクの形状になっている。) ちなみに、古代エジプトで木製スプーンが一般的だったわけだが、後の時代にエジプトや各地で金属加工の技術が発達していっても、それらの時代・地域でも木製スプーンは、最も一般的であった(ただ古代などのものは、木製のものは概して腐敗し、失われてしまい、遺物として残りづらい。)中世ころのヨーロッパでも木製スプーンは一般的であった。 古代ギリシアでは、食事は主に「手づかみ」で行われていた。だがスプーンが使われることもあった。古代ギリシアのスプーンの出土品は青銅製のものや銀製のものが出土している。 ローマ帝国時代では、食事にしばしばスプーンを使った(だが同じくらい「手づかみ」でも食べた)。ローマ帝国では主食に「麦の粥」を食べたり、パンを食べたりしたので、粥を食べる時にはスプーンを使った。パンを食べる時はもちろん「手づかみ」で済み、スプーンを使う必要はなかった。古代ローマのスプーンはローマ帝国の遺跡からは、いくつもen:Cochleariumというスプーンが出土している。これはボウル状の部分と取っ手の間が複雑に曲がったスプーンである。 古代ローマの食器の博物館展示 11世紀になってイタリアにスプーンが入った。 中世のヨーロッパでは、牛の角(つの)やピューター(錫)で(も)スプーンがつくられるようになった。(一般庶民は木製スプーンを使っていた。) ヨーロッパでスプーンが一般には普及したのは、17世紀-18世紀になってからである。ナイフ・フォーク・スプーンのセットで食事する形式が確立されたのは、19世紀ごろといわれている。 イギリスでは、洗礼式にスプーンを贈られる習慣があり、身分や貧富の差によって材質が異なっていた。このことから、裕福な家で生まれたことを表す「born with a silver spoon in one's mouth(銀の匙をくわえて生まれてきた)」という言い回しができた。 ほかにも「to have a spoon in every man's dish(他人の皿にスプーンを突っ込む)」というスプーンをつかう諺がある。 中国では紀元前2千年紀の殷王朝の時代より匙(スプーン)が用いられていた。中国や朝鮮半島などでは、ごはんと汁類には匙や散蓮華を使い、おかず類に箸を使う。ちなみに、日本のような「お椀を直接口に運んで汁を飲む」という習慣はない(東アジアでもヨーロッパでもそういう習慣はなく、世界的に珍しい)。 日本でも紀元前3世紀ごろの出土品にスプーン(匙)が含まれているが、これについては儀式用と考えられている。正倉院の収蔵品などにも見られ、遺跡からも箸とともに出土したり、絵画に描かれたりもしているが、時代を下るごとにスプーンは少なくなっていく。食事用として、そもそも一般人にはまったく普及していなかったであろうし、上流社会でも8世紀末から9世紀初ごろには箸食に遷移したものと考えられている。しかし完全に姿を消したわけではなく、上流社会の儀式や接待などでは引き続き使用されていた。たとえば禅寺では鎌倉時代から第二次世界大戦以前まで匙を使っていたし、1682年の徳川綱吉の襲職祝賀にも使用された記録がある。また、1719年の朝鮮通信使であった申維翰による『海遊録』にも小田原城で受けた接待で金銀の箸や匙が使用されたとの記述が見られる。医療用に使われるケースもあり、江戸時代に、将軍家や大名の侍医のことを匙を使って薬を量ることから「お匙」と呼んでいた。医者が患者を見放すことをさして「匙を投げる」という比喩表現もある。明治末期に、現在の形のスプーンが手作りではじめられた。機械による大量生産は、ヨーロッパでスプーン生産が滞った第一次世界大戦後からである。ただ、日本の家庭では匙は洋食や中華料理に用いる傾向が強く、味噌汁など日本で古くから食されていた汁物などは、現在でも利き手に箸を持ち、利き手ではない方の手で椀を持ち上げ、口を付けて食べるのが一般的である。和食を提供する飲食店でも、味噌汁や吸い物に匙が食器として出されることは少ない。
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