ほくろ
『天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな)』(河竹黙阿弥)「河内山」 御数寄屋坊主河内山宗俊は、上野東叡山寛永寺法親王の御使僧、北谷の道海に化けて松江家へ乗りこむ。しかし松江家の重役北村大膳が、江戸城内で河内山を見知っており、頬のほくろを証拠として、道海が実は河内山であることを見破る。
『武家義理物語』巻1-2「ほくろは昔の面影」 明智光秀の婚約者が疱瘡にかかり醜い顔になったため、両親は相談して、容貌の似た妹娘を代わりに嫁がせる。しかし姉にあったほくろが妹にはないので、別人であると光秀は知る。光秀は妹を親里に帰し、あらためて姉を娶り睦まじく暮らす。
『日本霊異記』下-39 善珠禅師は、あごの右に大きなほくろがあった。延暦17年(798)、善珠は、「私は桓武天皇の夫人丹治比嬢女(たぢひのをみな)の胎に再誕する。ほくろがその証拠になる」と遺言して死んだ。翌延暦18年(799)、丹治比の夫人が産んだ大徳親王は、善珠と同様に、あごの右に大きなほくろがあった→〔憑依〕2。
『豊饒の海』(三島由紀夫) 大正の初め、松枝清顕は友人本多繁邦に「また会う」と言い残して、20歳で病死する(『春の雪』)。昭和初期、本多は、清顕と同じく左脇腹に3つのほくろを持つ飯沼勲に出会うが、勲は20歳で自刃する(『奔馬』)。昭和20年代、タイの王女ジン・ジャンの左脇腹に3つのほくろがあるのを本多は確かめ、ジン・ジャンは20歳でコブラに咬まれて死ぬ(『暁の寺』)。昭和40年代、左脇腹に3つのほくろを持つ少年安永透を、本多は養子にするが、透は20歳をすぎても死なず、「清顕の生まれ変わりではないのだ」と本多は思う(『天人五衰』)。
『現代民話考』(松谷みよ子)5「死の知らせほか」第3章の1 「私」の夫の弟は、9歳で水死した。祖父が「生まれ変わって来いよ」と言って、弟の左の足の裏に墨をつけた。それから何年かして「私」は夫と結婚し、昭和50年(1975)に男の子が生まれた。その子の足の裏に小さなほくろがあり、しだいに大きくなって、今では7~8ミリになっている。祖父が墨をつけたのと同じ部位なので、夫の姉たちは「この子は弟の生まれ変わりだ」と言っている(千葉県松戸市)。
*転生した子の掌に文字→〔掌〕2bの『力(りき)ばか』(小泉八雲『怪談』)。
『恋がたき』(星新一『妖精配給会社』) 鬼は死者を棒の前後にぶらさげ、肩にかついで冥府に運ぶ。そのため誰かが死ぬと、同じ部位にほくろのあるもう1人が頓死する定めだった。張は、恋がたきの李を直接殺せば、すぐに怪しまれるので、李と同じ部位にほくろのある人物を探して殺そうと考える。しかし、李と同じほくろを持つのは張自身だった。
『シンベリン』(シェイクスピア)第1幕~第2幕 ポステュマスが愛妻イモジェンの貞節を誇るので、ヤーキモーが「奥様を口説きおとしてみせよう」と挑戦する。ヤーキモーはイモジェンの寝室へ忍び入り、眠るイモジェンの腕から腕輪を抜き取り、胸もとのほくろを見る。ポステュマスは、ヤーキモーから腕輪を見せられ、ほくろのことを聞かされて、イモジェンが不義をしたと思いこむ。
★3b.后のほくろ。
『カター・サリット・サーガラ』「『ブリハット・カター』因縁譚」 贋ナンダ王(*→〔火葬〕3)の皇后の肖像画を、宰相ヴァラルチが見て、「帯の部分にほくろがもう1つあれば、完全な瑞相になる」と考えて描き加える。皇后には実際そこにほくろがあったので、贋ナンダ王は、「衣服におおわれた個所のほくろを宰相が知っているのは、皇后を犯したゆえであろう」と思う。宰相は、王の疑いが晴れるまで身を隠す。
『平家物語』(延慶本)巻2-6「一行阿闍梨流罪事」 一行阿闍梨が楊貴妃の肖像画を描いた時、筆を落として楊貴妃の臍のあたりに墨をつけた。楊貴妃の膚のちょうどそのあたりにはほくろがあったため、肖像画を見た玄宗皇帝は、阿闍梨と楊貴妃の仲を疑った。
★3c.ほくろでなく、灸点という形もある。
『新可笑記』(井原西鶴)巻2-2「官女に人のしらぬ灸所」 武烈天皇は、寵愛の后が胸の病で死んだのを悲しみ、仏師に命じて后の木像を作らせた。ところが彩色をする時、仏師は筆を落として、木像の胸のあたりに墨がついてしまった。ちょうどそこは、后の胸痛を鎮めるための灸点の部位だったので、天皇は后と仏師の密通を疑った。
*僧の顔の痣(あざ)、という物語もある→〔痣(あざ)〕4の『古今著聞集』巻11「画図」第16・通巻386話。
★4.魅力的なほくろ。
『ケルトの神話』(井村君江)「ディルムッドとグラーニャの恋」 美貌の騎士ディルムッドの頬には、妖精が青春の愛と美の印としてつけたほくろがあった。そのほくろを見た乙女は皆、心をときめかせた。ディルムッドは帽子でほくろを隠していたが、ある時、球技をしていて帽子がずれた。王の娘グラーニャがほくろを見て、彼に心を奪われた→〔猪〕3。
★5.ほくろを消す。
『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』4幕目「八幡の里引窓の場」 相撲取りの濡髪長五郎は、人を殺して指名手配中の身の上である。彼の義理の兄弟である南(なん)与兵衛は、郷代官に取り立てられ、濡髪捕縛を命じられる。しかし与兵衛は濡髪を逃がそうと思い、逃走用の路銀を投げつける。金包みは濡髪の顔に当たったため、彼の人相の特徴である頬のほくろが取れる。濡髪は与兵衛の温情に感謝しつつ、落ちのびて行く。
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