近視
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 23:40 UTC 版)
予防
近視の発生や進行を予防するために、いくつかの方法が試みられてきた。なお、家電メーカーがテレビを観るのに画面の高さの何倍の距離が必要だなどと呼びかけるのは、それくらい離れて観ないと画面の粗が見えてしまって綺麗に見えないという意味であり、近視予防の観点から呼びかけているわけではない。テレビの高画質化に伴い、メーカーが推奨する距離は以前より短くなっている[12]。
アトロピン点眼
アトロピンを点眼して目の調節筋を麻痺させることで近視を予防する方法。若年者であっても老眼と同じようにピント調節の能力が失われるので老眼鏡が必要になる他、瞳孔も開いてしまうため眩しさを感じる。長期連用する実験では、初年には顕著な進行抑制作用が認められたが、2年目以降には認められなかった。長期的安全性に不安があるため長期連用には慎重な専門家が多いが、実験では短期使用では目立った進行抑制効果が認められなかった[13]。
オルソケラトロジー
オルソケラトロジーに近視の矯正の他、近視の進行予防効果をも期待する方法。いくつもの実験で有効性が裏付けられた[14]。
遠近両用コンタクトレンズ
老眼のない若年者にも遠近両用コンタクトレンズを装用させることで近視を予防する効果を期待する方法。
遠近両用眼鏡
老眼のない若年者にも遠近両用眼鏡を装用させることで近視の予防効果を期待する方法。効果を検証する実験が複数行われたが、結果は有効だったり無効だったりと分かれている[15]。
完全矯正眼鏡
眼鏡を作成する際に一番よく見える度数にすることを完全矯正といい、あえて弱めの度数にすることを低矯正という。従来、低矯正の眼鏡を装用することで近業時の目の負担を減らし、近視の進行を予防できるとする考えがあった。しかしながら、効果を検証する実験では、効果が認められなかったばかりか、むしろ低矯正にしていると完全矯正にしているより近視の進行が速いという結果であった[16] [17] [18][19]。 また、この方法ではよく見える度数にしていないのだから「眼鏡をかけてもあまりよく見えない」という不利益があることが自明である[20][21]。こちらの論文[22]では、
- 近視低矯正に進行予防効果があることを裏付ける証拠は、古い時代の少数の被験者による実験や動物実験と薄弱である
- 近年の、人間を対象とした、より多数の被験者を用いた複数の実験は、低矯正は完全矯正よりむしろ近視を余計に進行させてしまうことを示している
- 低矯正には、よく見えないという明白な不利益がある
ことから、近視は完全矯正すべきだと結論付けている。
日本眼科医会の2010年度調査報告では、複数の実験結果のメタ解析から、低矯正眼鏡あるいは軽度近視を矯正しないことに近視進行の抑制効果は期待できないとした上で、しかしながら従来は低矯正のほうが進行を抑制するという考えがあったことから、近視低矯正で処方するか完全矯正で処方するかについて臨床現場では判断が分かれていると報告している[23]。
眼鏡をかけない
近視になっても眼鏡をかけないようにすることで近視の進行を防ぐことができる、あるいは眼鏡をかけることこそが近視の原因であるとの主張が民間療法家によってよくなされる。近視になる以前には眼鏡をかけていなかったのに眼鏡をかけたせいで近視になったとは矛盾しているし、世界には眼鏡を持っていない近視の人も大勢いるので、この主張は誤りだと考えられる。先天性白内障の乳児が急速に眼軸を伸展させることなどから、清明な視界が得られないと人間を含む動物の眼は近視化すると考えられている。これを防ぐためには近視になったら矯正することが必要である。
もっとも、このことは実験によって検証されているわけではない。もし眼鏡を全くかけないことが近視の進行を遅らせるか否かを実験によって検証するのならば、被験児の一部を、ぼやけた視界の、学業に明らかに不利な状況に長期にわたって置かなければならないが、そんな実験は倫理的に許されないからである。眼鏡を全くかけない場合ほど極端には被験児の視界をぼやけさせない、低矯正眼鏡に近視進行の抑制作用があるか否かを検証する実験さえ、低矯正群のほうがかえって進行が速いと分かった時点で期間を短縮して終了された例があるほどである[24]。
注釈
- ^ 逆に言えば、小学生の3/4近く、中学生の1/2近くは遠視であるということである。正視は近視と遠視の狭間の狭い範囲でしかないので少数しか居らず、近視でない者は殆どが遠視と考えられる。ただし、軽度の遠視は若いうちは矯正の必要がなく、本人も自分が遠視であることすら知らないことが多い。
出典
- ^ 宇山安夫 (1968). 眼鏡士読本. 医学書房. p. 140
- ^ Dirani, Mohamed, et al. "Heritability of refractive error and ocular biometrics: the Genes in Myopia (GEM) twin study." Investigative ophthalmology & visual science 47.11 (2006): 4756-4761.
- ^ Lopes, Margarida C., et al. "Estimating heritability and shared environmental effects for refractive error in twin and family studies." Investigative ophthalmology & visual science 50.1 (2009): 126-131.
- ^ Peet, Jon A., et al. "Heritability and familial aggregation of refractive error in the Old Order Amish." Investigative ophthalmology & visual science 48.9 (2007): 4002-4006.
- ^ Saw SM, Katz J, Schein OD, Chew SJ, Chan TK. "Epidemiology of myopia." Epidemiol Rev. 1996;18(2):175-87. PMID 9021311.
- ^ 近視の発生と治療の可能性所 敬 東京医科歯科大学名誉教授
- ^ C. L. Ho et al. (2019). “Dose-Response Relationship of Outdoor Exposure and Myopia Indicators: A Systematic Review and Meta-Analysis of Various Research Methods”. Int J Environ Res Public Health 16 (14). doi:10.3390/ijerph16142595.
- ^ Lanca C et al. (2020). “The association between digital screen time and myopia: A systematic review”. Ophthalmic Physiol Opt 40 (2): 216-29. doi:10.1111/opo.12657.
- ^ Wen L et al. (2020). “Objectively measured near work, outdoor exposure and myopia in children”. Br J Ophthalmol 104 (11): 1542-7. doi:10.1136/bjophthalmol-2019-315258. PMID 32075819.
- ^ “現代社会に欠如しているバイオレット光が近視進行を抑制することを発見-近視進行抑制に紫の光-”. 2018年3月28日閲覧。
- ^ 石垣尚男, 高梨泰彦、「中学生長身バレーボール選手の視力と視力矯正率」 『愛知工業大学研究報告』 2013年 第48号, 愛知工業大学
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- ^ “学校近視の現況に関する 2010 年度アンケート調査報告”. 2015年6月14日閲覧。
- ^ “Treatments: Don't Wear Glasses”. 2015年6月14日閲覧。
- ^ “近視矯正メガネ「クボタグラス」、日本で販売開始 価格は77万円、全額返金保証も”. ITmedia ビジネスオンライン. 2022年8月1日閲覧。
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