狼男 狼男の解釈

狼男

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/27 15:49 UTC 版)

狼男の解釈

その後より合理的な解釈を求めて、生理現象や精神的な問題と結び付けられることも行われるようになった。17世紀末のジャン・ニノは狼への変身を「狼狂(folie louvière)」として捉え、知能障害や頭脳損傷などに由来する精神的な理由で月に向かって絶叫したり、4つ足で歩くなどの精神錯乱を起こしたと考えた。

18世紀の画

実際の伝承では、映画などで知られた狼と人間の中間的な形態をもつ人型の狼男というものは少なく、人語を話すオオカミ、もしくは人間と同じ大きさの狼という形で語られているのが普通である。また、月や丸いものを見ると変身するという伝承も一般的なものではなく、その部分は映画や小説における創作に属する。 しかし、グアラニー族に伝わる神話に登場するルイソンに同様の伝承があるため、言い切れるものではない。

また、民間伝承では満月とは限らず、新月とかクリスマスから蝋燭の祝日にかけての期間とか満月以外の日に変身するとされるものもある。13世紀のイングランドの神学者ティルベリのゲルウァシウス(en)の著書『皇帝の閑暇』第120章には月の満ち欠けに応じて狼に変身する人間の存在を記し、代表例として南フランスのリュック城近くに新月のたびごとに狼に変身する男性の話を述べている[8]

ドイツでの「狼人間」の絞首刑(1685年)

先天的に狼への変身能力を持つ人間(もしくは、人間への変身能力を持つ狼)の種族としての狼男の場合もあるが、大抵は呪い魔術などによって後天的に狼男となる場合が多いとされる。その場合、狼憑き(おおかみつき)とも呼ばれる。

農作物や食料の保存方法が悪かった時代、ライ麦パンに繁殖した麦角菌アルカロイドを含有し、四肢の麻痺、思考力の低下、幻覚・興奮等の作用がある)を摂取してしまい、その結果人格が豹変したり、凶暴な行動をとってしまった人や、同じような症状が発症後に起こる狂犬病に罹患した人が狼男扱いされてしまったという説もある。

現在は、動物に変身するという妄想、または自分が動物であるという妄想の起こる精神医学上の症候群を、「狼化妄想症」(人狼症、Clinical lycanthropy, または特に狼と特定しない Therianthropy という呼び方もある)という。

文学、映画上の狼男

ジョルジュ・サンドによるリトグラフ(1858年、フランス)

文学的には中世ヨーロッパの宮廷文学において題材にしばしば取り上げられた。フランス最古の女流作家と言われているマリー・ド・フランスの作品にLai du Bisclavret(ビスクラレッド/狼男)と呼ばれる作品があり、呪いを受けて半分を森の中で狼の姿で生きなければならない騎士が、夫を狼の姿のままにして不義を行おうとする妻の姦計を逃れて人間の姿を取り戻すという話である。

19世紀イギリスフレデリック・マリアットが書いた作品集『ファントム・シップ』(The Phantom Ship)にも『ハルツ山の白狼』/『人狼』(The White Wolf of the Hartz Mountains)という物語が採録されており、これが近代狼男文学の祖とされている。


無声映画時代にも狼男を扱った映画は存在していたが、人間が消えると代わって本物の狼が画面に出現するなど、質の高いものとは言えなかった。1935年に、世界初の狼男を主題とした本格的な映画『倫敦の人狼』(Werewolf of London)が公開されて特殊メイクによる半人半狼の狼男が登場し、続いて1941年に公開された『狼男の殺人』/『狼男』(The Wolf Man )は更に精巧な特殊メイクによる狼男の登場に加えて、『倫敦の人狼』で導入された「狼男に噛まれた者は狼男になる」「銀で出来たもので殺せる」などの設定が加えられた。

半人半狼の狼男や満月の夜に変身という物語は以前にも存在したが、『倫敦の人狼』・『狼男の殺人』以前においては数多くある狼男の話では少数に属し、銀で殺せるというのは『狼男の殺人』のオリジナルとされている。この作品により、現代における「狼男」伝説の基本要素を完成させ、「狼男映画の決定版」とまで評価された。このため、この両作品の設定が狼男の一般的な特徴であるという誤った認識のもとで、多くの作品が創作されることになった。

このため、この両作品の公開を狼男の歴史に関するひとつの画期として捉え、この作品以後に登場する狼男を『狼男の殺人』の原題より「ウルフマン」と称し、それ以前の伝説や民間伝承における「ワーウルフ」と区別する考えも存在する。


  1. ^ 溝井 2015, pp. 107-109.
  2. ^ Claude-Catherine&Gilles Ragache著 高橋正男訳 『狼と西洋文明(原題"Les loups en France")』p.106
  3. ^ ジャン・ドミニク・ラジュー「ヒグマの民俗」(天野哲也増田隆一間野勉 編著『ヒグマ学入門―自然史・文化・現代社会』(北海道大学出版会、2006年)ISBN 978-4-832-97391-6)。
  4. ^ a b 溝井 2015, pp. 110-113.
  5. ^ 『狼と西洋文明』p.109-p.115
  6. ^ フランス革命以降・新フラン以前の貨幣単位。5サンチームに相当(100サンチーム=1フラン)
  7. ^ 『狼と西洋文明』p.109-p.115
  8. ^ ティルベリのゲルウァシウス 著/池上俊一 訳『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』(講談社学術文庫、2008年) ISBN 978-4-061-59884-3


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