液果 種子散布

液果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/21 22:06 UTC 版)

種子散布

広義の液果に含まれる果実(漿果、ミカン状果、ウリ状果、ナシ状果、核果)の多くは鳥類哺乳類に食べられ、種子(核果の場合は硬化した内果皮に包まれた種子)が糞やペリットとして排出されることで種子散布される(下図7)。このような種子散布様式は、被食散布や周食散布とよばれる[30][31]。液果の果皮はふつうや水分、脂質などに富み、動物にとって魅力ある可食部になっている[30]。ナシ状果では、果皮ではなくそれを囲む花托部が主な可食部になっている。他にもイチゴクワシラタマノキグミバライチジクモクレンなどの果実は液果ではないが、花托や花被種皮などが可食部となることで被食散布される[30]

鳥によって散布される果実はふつう匂いを欠き(鳥の嗅覚はふつう弱い)、成熟しても自然落下しにくく高い位置についているものが多いが、哺乳類によって散布される果実は、ときに強い匂いをもち、低い位置についていたり自然落下しやすいものが多い[32]

7a. メジロに食べられるトキワサンザシバラ科)の果実(ナシ状果)
7b. ミカドバトに食べられるインドナツメ(クロウメモドキ科)の果実(核果)
7c. ヒグマに食べられるナシ状果
7d. ニルギリラングールに食べられる果実

動物被食散布される液果(特に鳥によって散布される液果)は、ふつう赤や黒など目立つ色になることで動物による視認性を高めている[30][32][33]。可視光のみではなく、紫外線を用いている例もあると考えられている[30]。果実の成熟度によって色が変わることもあり、複数の色でより目立たせる効果や、未熟な果実を避けてもらう効果があると考えられている[30][32][34]

トマトカキノキの果実では、種子が粘液質で包まれており、砂嚢や歯ですり潰されることを防いでいると考えられている[30]


注釈

  1. ^ そのためアケビの果実は、裂開する液果とも、液質の袋果ともされる[3][4]
  2. ^ 複数形は baccae である[6]
  3. ^ 可食部は果皮ではなく仮種皮である[8]
  4. ^ a b ただしこれらの科の中には、異なるタイプの果実を形成する種を含む科もある。
  5. ^ 複数形は bacceta である[12]
  6. ^ 複数形は bibaccae である[15]
  7. ^ 複数形は hesperidia である[17]

出典

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  29. ^ 核果”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年12月8日閲覧。
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  32. ^ a b c 岡本素治 (1992). “果実の形態にみる種子散布 (総説)”. 植物分類, 地理 43 (2): 155-166. doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078987. 
  33. ^ 斎藤新一郎 (2000). “被食型散布”. 木と動物の森づくり. 八坂書房. pp. 91–99. ISBN 978-4896944600 
  34. ^ 岡本素治, 小林正明, 脇山桃子 (2011). “果実の論理”. 種子のデザイン 旅するかたち. INAX出版. pp. 61–64. ISBN 978-4-86480-700-5 


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