液果 定義

液果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/01/21 22:06 UTC 版)

定義

液果は、広義と狭義で範囲が異なる。広義の液果は、成熟した状態で少なくとも果皮の一部が多肉質または多汁質な果実のことである[1][2][3][4]。この意味での液果は、多肉果: sap fruit, succulent fruit, freshy fruit)と同義である[1]。基本的に液果(多肉果)は裂開しないが、アケビアケビ科)のように裂開するものもある[注 1]

多肉果には、以下のように狭義の液果(漿果)ミカン状果ウリ状果ナシ状果核果が含まれる[2]

漿果

狭義の液果は、外果皮以外の果皮(中果皮と内果皮)が多肉質・多汁質である果実のことである[5][4]。この意味での液果は、漿果真正液果: berry, bacca[注 2])ともよばれる[1][3][7]。漿果のうち、1心皮からなるものは単漿果(simple berry)、複数の心皮からなるものは複漿果(compound berry)とよばれることがある[1]子房上位のものも子房下位のものもあり、後者の場合は子房に由来する果皮は花托に由来する構造で包まれていることになるが、下記のウリ状果ナシ状果を除いて特に分けずに漿果としていることが多い(バナナスノキ属など)[1][8]

植物学用語としての berry は漿果(狭義の液果)を意味するが、一般用語としての berry や日本語の「ベリー」は小型で多肉質の果実を意味し、イチゴ(ストロベリー)やキイチゴ(ラズベリー)、クワ(マルベリー)、スグリ(グーズベリー)、ブルーベリーなどが含まれる[9][10]。このうちスグリやブルーベリーは漿果であるが、イチゴはイチゴ状果、キイチゴは集合核果(キイチゴ状果)、クワはクワ状果である[1][9]

身近な漿果の例はアボカドクスノキ科)、バナナバショウ科)、ブドウブドウ科)、ザクロ[注 3]ミソハギ科)、グアバフトモモ科)、キウイマタタビ科)、カキノキ科)、ピーマンナストマトナス科)などに見られる[3][8]。日本で見られる野生植物としては、マツブサ科クスノキ科サトイモ科サルトリイバラ科アケビ科メギ科ブドウ科ヤマゴボウ科ナス科ウコギ科などに漿果を形成するものが多い[11][注 4]

2a. アボカドクスノキ科)の漿果とその縦断面
2b. セイヨウメギメギ科)の漿果(単漿果)
2c. ブドウブドウ科)の漿果(複漿果)とその縦断面
2d. カキノキカキノキ科)の漿果(複漿果)とその縦断面・横断面
2e. トマトナス科)の漿果(複漿果)とその縦断面

サネカズラマツブサ科)やバンレイシバンレイシ科)では1個の花に多数の雌しべがあり(離生心皮)、多数の雌しべがそれぞれ漿果となってひとまとまりの構造を形成する(下図2f, g)。このような集合果は、集合漿果(baccetum[注 5], etaerio of berries)とよばれる[1][13][14]。またサトイモ科サルトリイバラ科などでは多数の花が密集して付いているが、個々の花の雌しべが漿果となり、これが密集して複合果(多花果)を形成していることがあり、漿果型多花果(multiple fruit of berries)とよばれる[1](下図2h)。スイカズラ属スイカズラ科)の一部は、2個の花に由来する2個の漿果が合着した果実を形成し、このような複合果は特に bibacca[注 6] ともよばれる[13][16](上図2i)。

2f. サネカズラマツブサ科)の集合漿果
2g. バンレイシバンレイシ科)の集合漿果と縦断面
2h. サトイモ属サトイモ科)の漿果型多花果
2i. スイカズラ属スイカズラ科)ではしばしば2個の漿果が合着している

ミカン状果

ミカン状果または柑果かんか(hesperidium[注 7])とは、ミカン科のミカン連に見られる特徴的な多肉果である[1][5][18]。外果皮はフラベド(flavedo)とよばれ緻密でカロテンや油細胞を含み、中果皮はアルベド(albedo)とよばれ白く海綿質、内果皮は膜質であり("袋"、"房"、じょう嚢、瓤嚢)、内側に果汁に富んだ毛(砂じょう、砂瓤、果汁嚢)が生えている[1][5][18][19](下図3)。漿果の一型とされることもある[1][3]ミカンオレンジレモンライムグレープフルーツなどのミカン状果は、食用に広く利用されている[20]

3a. さまざまなミカン状果
3b. レモンのミカン状果と横断面
3c. オレンジのミカン状果の横断面と縦断面
3d. ライムのミカン状果の横断面(下から外果皮、中果皮、砂じょうを含む内果皮)

ウリ状果

ウリ状果(瓜状果)または瓠果こか瓢果ひょうか(pepo)はウリ科に見られる子房下位の雌しべ(図4a)に由来する果実であり、外果皮と花托筒が癒合してふつう厚く硬化し(rind)、中果皮・内果皮は多肉質である[1][8][21](図4)。漿果の一型とされることもある[1][3]キュウリツルレイシ(ニガウリ)カボチャスイカメロンヒョウタンヘチマなどのウリ状果は食用などに利用されている[22](図4)。

4a. 子房下位(雌しべの子房が花弁などの基部よりも下に位置する)であるキュウリの雌花の縦断面
4b. キュウリのウリ状果とその横断面
4c. メロンのウリ状果の横断面
4c. ツノニガウリのウリ状果

ナシ状果

ナシ状果(リンゴ状果[5][23]、梨果[24]、仁果[25]、pome)とは、バラ科ナシ連の多くの種に見られ[26]、花托に包まれた子房(つまり子房下位)に由来する果実であり、子房に由来する部分が液質または革質になり、これを包む花托の部分が発達して多肉質・多汁質になる(下図5)[1][23][13][16][5][3][27]。ナシ状果は、リンゴナシビワボケカリンサンザシシャリンバイナナカマドなどに見られる(下図5)。リンゴやナシの場合、食用とするのは花托に由来する部分であり、子房に由来する部分はおおよそ芯とよばれる部分にあたる(下図5b)。このように多くの部分が子房以外の構造に由来するため、ナシ状果は偽果でもある[1][3][27]

5a. ナシ属の発達中の果実: 果実の先端に萼や雄しべが残っている。
5b. リンゴのナシ状果: 1 - 果柄、2 - 種子、3 - 内果皮、4 - 中・外果皮、5 - 雄しべの跡、6, 7 - 花托が発達した部分
5c. ビワのナシ状果
5d. セイヨウナナカマドのナシ状果

核果

核果(石果、drupe)とは、内果皮が硬化して種子を包む核となっている果実であり、それを包む中果皮がふつう多肉質や多汁質となっている[1][5][3][23][4][28][29](下図6)。身近な例として、ナツメヤシヤシ科)、モモウメサクランボバラ科)、マンゴーウルシ科)、コーヒーアカネ科)、オリーブモクセイ科)などがある[8](下図6)。日本で見られる野生植物としては、センリョウ科ツヅラフジ科ユズリハ科クロウメモドキ科ヤマモモ科センダン科ウルシ科ジンチョウゲ科ミズキ科アオキ科モチノキ科、ガマズミ科などに核果を形成するものが多い[11][注 4]ココヤシの果実は内果皮が硬化して核を形成しているため核果の1型とされるが、中果皮は繊維質で乾いている[13][8](下図6e)。

6a. アンズバラ科)の核果の断面
6b. モモ(バラ科)の核(硬化した内果皮と種子)の断面
6c. コーヒーノキアカネ科)の核果と核
6e. ココヤシヤシ科)の核果

注釈

  1. ^ そのためアケビの果実は、裂開する液果とも、液質の袋果ともされる[3][4]
  2. ^ 複数形は baccae である[6]
  3. ^ 可食部は果皮ではなく仮種皮である[8]
  4. ^ a b ただしこれらの科の中には、異なるタイプの果実を形成する種を含む科もある。
  5. ^ 複数形は bacceta である[12]
  6. ^ 複数形は bibaccae である[15]
  7. ^ 複数形は hesperidia である[17]

出典

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  3. ^ a b c d e f g h i 原襄・西野栄正・福田泰二 (1986). “果実”. 植物観察入門 花・茎・葉・根. 培風館. pp. 47–68. ISBN 978-4563038427 
  4. ^ a b c d 岩瀬徹・大野啓一 (2004). “いろいろな果実”. 写真で見る植物用語. 全国農村教育協会. pp. 118–126. ISBN 978-4881371077 
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  6. ^ bacca”. Merriam-Webster Dictionary. 2022年12月14日閲覧。
  7. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “漿果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 653. ISBN 978-4000803144 
  8. ^ a b c d e f Armstrong, W.P.. “Identification Of Major Fruit Types”. Wayne's Word. 2022年12月4日閲覧。
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  12. ^ baccetum”. Flore du Québec. 2022年12月14日閲覧。
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  14. ^ Judd, W.S., Campbell, C.S., Kellogg, E.A., Stevens, P.F. & Donoghue, M.J. (2015). “Annonaceae”. Plant Systematics: A Phylogenetic Approach. Academic Press. pp. 253–255. ISBN 978-1605353890 
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  27. ^ a b 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “ナシ状果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1025. ISBN 978-4000803144 
  28. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “石果”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 781. ISBN 978-4000803144 
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  31. ^ 福原達人. “8-4. 動物被食散布”. 植物形態学. 福岡教育大学. 2022年12月8日閲覧。
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  34. ^ 岡本素治, 小林正明, 脇山桃子 (2011). “果実の論理”. 種子のデザイン 旅するかたち. INAX出版. pp. 61–64. ISBN 978-4-86480-700-5 


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