黙ってトイレをつまらせろ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/14 08:39 UTC 版)
「船本洲治」の記事における「黙ってトイレをつまらせろ」の解説
船本は労働者の階級闘争を3つの領域、すなわち合法闘争領域、半合法領域、非合法領域に分けたが、「黙ってトイレをつまらせろ」とはその思想性の違いについて説明するための例え話である。 とある事業所で経営者がケチってトイレにトイレットペーパー(ちり紙)を置かなかったとする。労働者がこれに対応する方法として考えられるのは (1)組合など代表者を通してトイレットペーパーを置くように会社と交渉する。 (2)上司を吊るし上げるなどして実力闘争でトイレットペーパーを置かせる。 普通はこのあたりであろう。しかし船本はここで (3)黙って新聞紙など硬い紙をあえて流し、トイレを詰まらせろ。 と第三の方法を提示した。船本はこれが弱者のもっともラディカルな革命的な闘争であると主張した。 船本はこれを解説して (1)は現実の階級支配を認め、自己を「弱者」として固定し、敵を対等以上の交渉相手として設定し、自己の存在を敵に知らせ、陳情する。(2)は、現実の階級支配にいきどおり、自己を「強者」として示し、敵を対等以下の交渉相手として設定し、自己の存在を半分知らせ、実力で要求を呑ませる。(3)は、現実の階級支配を恨み、自己を徹底した「弱者」として設定し、したがって自己の存在を敵に知らせず、かつ敵を交渉相手として認めず、隠花植物の如く恨みを食って生きる。結果的には会社側はトイレの修理費が馬鹿にならぬのでチリ紙を完備するであろうが、(3)の思想性は(1)や(2)と比較して異質である。第一に「弱者」としての自己に徹底していること、第二にそれゆえ敵に自己の存在を知らせず、ただ事実行為によってのみその存在を示していること、第三に敵を交渉相手として設定しないために、この闘争は必然的に最初からプロレタリア権力として宣言していることである。 —船本洲治「現闘委の任務を立派に遂行するために」株式会社共和国発行『黙って野たれ死ぬな』2018年、pp.209-210 船本はさらにもう一つの例示をしている。ある鋳物工場では作業に手袋が必須だが真面目に手を抜かずに働くと3日で手袋に穴が空いてしまう、しかし会社側は5日に1組しか手袋を支給しないとしよう。組織労働者であれば会社にもっと頻繁に手袋を支給しろと要求するであろうが、船本は「それなら手袋が5日もつ程度にしか働くな」とサボタージュすることを推奨した。 船本は講演にて「黙ってトイレをつまらせろ」の例やサボタージュについて、本工(組合労働者)と社外工(日雇い労働者)の闘争の違いを述べる中で 闘いのやり方というのはぜんぜん違うんです。要求を出さないほうがはるかに革命的だと思うんです。(中略)ストライキなんかよりはるかにサボタージュなんかのほうがね、革命的なんちゃうかなという感じがするんですわ。そいでその組合なんか僕はいらない。組合なんか作ったら、あんた、資本家にもっともっと巧妙にさぁ、搾取されてね、いつの間にかしらんうちに廃人にされちまう。で、組合なんかつくらんでね、仲間でできるんちゃうか、釜共の運動というのは、だいたいそんなふうなゲリラ的な現場闘争で、大衆運動だったんです。 —船本洲治「現闘委の任務を立派に遂行するために」株式会社共和国発行『黙って野たれ死ぬな』2018年、pp.47-48 と述べ、弱者がなにができるか、その状況を帝国主義との闘いの武器に転化すること、それなしで分断支配を乗り越えられないし革命闘争の勝利もないと考え、 船本は遺書のなかでも 武装闘争を成功させる秘訣は黙ってやること、わからぬようにやること、声明も出さぬこと。エセ武闘家に嫌疑がかかるようにやること。独立した戦闘グループが相互に接触を持たず自立してやること、民衆に理解できるようにやること、公然活動領域と接触せず事実行為で連帯すること。 —船本洲治「世界反革命勢力の後方を世界革命戦争の前線に転化せよ」株式会社共和国発行『黙って野たれ死ぬな』2018年、p.290 と述べている。 神戸大学の原口剛は船本の言葉を引用しながら以下のように解説している。 だがそれは「弱者」が「強者」になることを意味してはならない、なぜなら『「弱者」であるワシらのもろい側面の一つは、「弱者」であるワシらがもっと弱い立場にある「弱者」をいじめることによって「強者」からの抑圧を解消しようとすることである。関東大震災の朝鮮人虐殺や南京の大虐殺を見よ。-船本2018p.235』「弱者」が「強者」になることで自己の状況を打破しようとすること、それゆえ互いに争い合うこと、仲間内からさらなる「弱者」を生み出すこと。それこそが、資本と国家による分断支配のからくりであった。とすれば、この支配のくびきから逃れる方途は、「弱者」としての存在を徹底することである。船本はその戦術を「ひらきなおる戦略」という言葉で表現する。 —原口剛「解放の思想と実践」株式会社共和国発行『黙って野たれ死ぬな』2018年、pp.30-31
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