難民の地位
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また、香港出身の政治家黄之鋒は、香港の抗議者が台湾で政治亡命を求める可能性について中華民国政府と会談するために台湾を訪れている。香港浸会大学学生連合会長の方仲賢(中国語版)も、台湾では亡命手続きが行われていないという黄之鋒の発言に反応し、民主進歩党は難民を助けるための具体的な法律を制定していないと述べている。中華民国総統の蔡英文はソーシャルメディアで定期的に抗議者を支援しており、中華民国の香港マカオ関係条例(中国語版)第18条には「政治的理由により直ちに安全と自由が脅かされている香港またはマカオの住民に対しては必要な援助を行う」と規定されているが、中華民国政府は政治難民のための手続きを整えていない。中華民国外交部長(英語版)の呉釗燮は、難民に対処するためには既存の法律で十分であると述べているが、ニューヨーク・タイムズの映像では香港からの難民の一部が台湾地区に不法に入境していることが示されており、既存の法律が不十分であることの証左となっている。香港自由新聞(英語版、中国語版)の記事は、人々は通常、香港から台湾に逃れるためにモーターボートを使用すると述べている。ニューヨーク・タイムズの動画を受けて、大陸委員会は抗議者に対して台湾地区に不法に入境しないよう警告し、留学査証や投資査証、観光査証などの特殊な場合しか対象にしていないが、既存の法律で十分であるとの声明を改めて発表した。留学査証については、2019年11月に中華民国教育部より、香港の大学生が台湾地区で講義を受けたり、勉強を続けたりすることを許可すると発表した。留学査証や投資査証の資格を持たない難民の場合、正式な亡命手続きができないため、30日間の観光査証で台湾地区に入境することになるが、合法的に就労することはできない。 民主進歩党が現行法で十分だとする立場とは対照的に、2020年中華民国総統選挙で敗北を喫した中国国民党の韓国瑜は、香港からの亡命者を支援するための難民法の成立を全面的に支持すると述べている。また、2020年4月に時代力量は、民主進歩党と立法院に対し、香港からの政治亡命者に対する手続きが明確になるように香港マカオ関係条例第18条を改正するとともに、難民法の成立を要請していた。2020年5月現在、中華民国総統の蔡英文と外交部長の呉釗燮は既存の法律で十分だと主張しているにもかかわらず、香港やマカオの居住者は同条例第18条に基づいて台湾からの正式な援助を受けていない。また、中国国民党主席の江啓臣は、蔡英文のもとで民主進歩党政権は香港人の支援を声高に主張してきたが、意味のある支援をしてこなかったとし、香港人に政治亡命を認める法律を制定すべきだと主張している。江啓臣は、民主進歩党が法律を制定していないことについて、「『香港支援』を空約束の標語にすべきではない。法制化へ向けて知恵を絞り、実際の行動で香港を支えよう」と述べた。 中華民国政府が正式に難民としての地位を認めていないにもかかわらず、香港の一部の人々は台湾に逃れてきたが、その中には銅鑼湾書店の創始者である林栄基(英語版、中国語版)も含まれている。林栄基は、台湾は香港人にとって中国大陸の弾圧に対抗する「最後の砦」であり、若い香港人は台湾に出て行くべきだと述べている。しかし、台湾には難民法がないため、若い香港人がどのようにしてこれを実現するかは不明。林栄基自身は、台湾での投資査証取得に必要な金額である20万ドルを新しい書店のために調達した。 中華民国大陸委員会は台湾地区に逃れてきた人々を支援していないため、非政府組織がより積極的に支援活動を行っている。台湾基督長老教会の済南基督長老教会(中国語版)は、香港から台湾に逃れてきた人々に避難所を提供したり、香港にいる抗議者に物資を送るなどの支援をしてきた。台湾学生連合会(中国語版)秘書長の陳估熊は、「台湾の非政府組織の基本的な使命は、政府に難民法を改正するよう圧力をかけることだ」とし、非政府組織は長期的な支援ができないため、難民を合法的に受け入れることがもっとも効果的だと述べている。 2020年5月27日、中華民国総統の蔡英文は、香港から逃れてきた人々に対する人道支援を行うための計画を策定すると発表した。2020年6月18日、計画の詳細が明らかになった。2020年7月1日、台港経済文化合作策進会の下に台港服務交流弁公室が台北に開設される予定で、人権団体や市民団体と協力して、基本的な生活費、居住、定住、就労、保護などの問題を抱える人々を支援することを意図しているという。弁公室の支援は台湾に入境してからとなる。難民・亡命法の施行についての発表はなく、中華民国政府は支援を求める人を「難民」ではなく「要保護者」と呼んでいる。 2020年7月下旬、香港から来た5人が船の燃料切れで東沙諸島に向かって漂流しているところを、中華民国海巡署が発見した。香港特別行政区政府保安局(英語版、中国語版)長の李家超(英語版、中国語版)は「犯罪者をかくまっている」と台湾に警告を発し、犯罪人引渡し協定が結ばれていないにもかかわらず、5人の返還を求めた。2020年8月26日には、香港からの12人が中国海警局によって発見された。いずれの事件でも、乗客は台湾地区への逃亡を望んでいたと考えられている。 中華民国内政部移民署(英語版、中国語版)によると、16種類の在留許可取得プログラムの下で台湾に移住する香港人の在留許可が増加傾向にあるという。2018年には、4,148件の在留許可証の発行と1,090件の永住権付与があり、2019年には5,858件の在留許可証の発行と1,474件の永住権付与があった。2020年1月から8月まで、4,596件の許可証と1,057件の永住権付与が発行された。移民署の関係者は、この上昇傾向は最近の香港の政治状況と大きく関係していると述べている。
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