鎌
★1.人の命を奪う鎌。
『入鹿』(幸若舞) 父・御食子(みけこ)の卿と母が田の草取りをする間(*→〔観相〕4)、赤ん坊の鎌足は畦に寝かされていた。そこへ狐が鎌をくわえて来て、鎌足の枕もとに置き、かき消すように失せた。氷のごとく輝く鎌だったので、父母は「これは宝になるかもしれぬ」と思い、鎌足の身近に置いて養育した。鎌足は成人後、この鎌で逆臣蘇我入鹿の首を討った→〔盲目〕7。
『詩語法』(スノリ)第6章 9人の奴隷の草刈り鎌をオーディンが砥石で研ぎ、よく切れるようにしてやる。奴隷たちが砥石を欲しがるので、オーディンは砥石を空中に投げ上げる。奴隷たちは我先に砥石を掴み取ろうとして、互いに鎌で喉を切り合ってしまう。
『真景累ケ淵』(三遊亭円朝) 新吉とお久の駆け落ちの途中、草むらの鎌でお久は怪我をする。お久の顔が豊志賀に見えたので(*→〔醜女〕4b)、新吉は鎌でお久を殺す。新吉はお久の親類お累と結婚するが、彼は名主の妾お賤と関係して(*→〔兄妹婚〕5)、お累を捨ててしまう。お累は、お久を殺した鎌で自殺する。数年後、墓掃除の寺男が、良く切れる草刈り鎌を新吉に見せる。新吉は、それがお久とお累の命を奪った鎌であることに気づき、「この鎌で自殺せよとの神仏の懲(こらし)めか」と悟る。彼はその場でお賤を殺し、自害する。さらにお賤の母も、旧悪を懺悔して鎌で自害する。
『鎌髭』 下男茂作(=実は俵藤太秀郷の息子・守郷)が、旅の六部(=実は平将門の息子・良門)の髭を、鎌で剃ってやろうと言う。守郷は髭を剃るふりをしつつ、良門の咽に鎌をかけて、掻き切ろうとする。しかし良門は不死身の身体ゆえ、刃物を受けつけない。2人は本名を名乗りあい、戦場での再会を約束して別れる。
★3.鎌で風を切る。
風の三郎さま(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 富山県地方には、草刈鎌の刃先を風の方へ向けて高く立て、手を叩きながら「ホー、ホー、ホー」と大声をあげる風習がある。鎌の刃によって風の神を傷つければ、風が衰えると考えられているからだ。
『南島の神話』(後藤明)第1章「南島の創世神話」 昔は、鎌が自分で稲を刈って働いたので、人間は、鎌が稲を刈ってくるのを、ただ待っていればよかった。ところがある時、悪童トリセが、働く鎌を見て、「何ということだ。鎌が1人で働いている。そうではなく、人間が働くべきだ」と言った。すると鎌はもう働かなくなり、人間が働かねばならないようになった(インドネシア、トラジャ族)。
『現代民話考』(松谷みよ子)4「夢の知らせほか」第1章の9 昼間、花畑の手入れをしていて、鎌をなくした。畑の中や灰の中をかきまわしたが、見つからなかった。その夜、夢に鎌が出てきて、「金盞花(きんせんか)の中にいるから」と言う。夜が明けるのを待ちかねて花畑へとんで行って、金盞花を分けて見ると、ちゃんと鎌があった(長野県)。
『月と不死』(ネフスキー)「琉球の昔話『大鶉の話』の発音転写」 昔々、父鶉と母鶉がいた。母鶉が卵を産んで抱いているところへ、東の方から野原が燃えて来た。父鶉は、母鶉と卵を見捨てて飛び去った。母鶉は「我が羽があるかぎり、厚羽を持つかぎり、抱いて守ろう、座って守ろう」と言い、大和鎌(やまとがま)を持ち出して、ぐるりを苅り開けた。そうすると母鶉と卵は無事で、周りが燃えて行ってしまった(沖縄県宮古郡伊良部島佐良浜村)。
★5.多くの人の命を奪う鎌。
『大鎌』(ブラッドベリ) 男が妻と子供2人を車に乗せて運転中、道に迷って、人里離れた農家へたどりつく。中には農家の主の死体と、「この家へ来た者に、農場の一切を与える」との遺言状があった。一家はそこへ住みつき、男は大鎌をふるって広大な麦畑の麦を刈る。麦を刈ると、どこかで誰かが死ぬことを男は感じる。しかし仕事をやめることはできない。それが彼の運命なのだ〔*やがて火事が起こり、妻と子供2人が死ぬ。男は呪いの言葉をわめき、狂気の笑い声をあげ、麦を刈り続ける〕。
*大鎌を持って訪れる死神→〔椅子〕1の『この世に死があってよかった』(チェコの昔話)。
鎌取池の伝説 鎌取池のそばに細い坂道があり、農夫が通る時に鎌を持っていると、必ず、命をとられるか鎌をとられるか、どちらかであった。命をとられなくてほっとしたと思うと、手に持っていた鎌が、いつのまにか池の中へ落ちているのである。それゆえ、池に来る時には鎌を持って来てはならない、とかたく禁じられていた(神奈川県横浜市戸塚区)。
『紀伊国狐憑漆掻語(きいのくにのきつねうるしかきにつくものがたり)』(谷崎潤一郎) 村の男が丸木橋を踏み外し、谷川へ片足をつっこんだ。水が足に粘りついて、ずるずると深みへ引き込まれる。「ガータロ(河童)の仕業だ」と気づいた男は、ガータロは鉄気(かなけ)を嫌うので、腰にさしていた鎌を川の中へ投げる。そうしたら難なく足が抜けて、男は命拾いした。
*鎌で胎児を助け出す→〔腹〕3cの『和漢三才図会』巻第76・大日本国「和泉」。
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