連合軍の作戦計画
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 04:01 UTC 版)
12月18日にブラッドレーが第3軍のパットンと今後の作戦について電話で協議した。ドイツ軍の侵攻が開始されたとき、パットンは数日中にドイツ本国に向けての攻勢開始を計画しており、予備として使用予定であった第10機甲師団を第8軍団の援軍に回されたことに「このドイツ軍の攻撃は第3軍の攻勢をつぶそうとする妨害の攻撃以外の何物でもない」と腹を立てていたが。ドイツ軍の攻勢が本格的で大規模なものと判明してくると、これを第3軍で叩こうという考えになっていた。アイゼンハワーとブラッドレーは事前に第3軍を反攻の主力とすることを決めており、ブラッドレーからパットンに対し「今夜中にでも、第4機甲師団(英語版)と第80歩兵師団(英語版)だけでも出発させてくれ」と早急に第8軍団の支援に向かうように指示を行うと「アイクは第8軍団も貴官の指揮下に入れてドイツ軍撃退を任せるつもりだ」「明日、アイクがヴェルダンで会いたいと言っている」と作戦会議への参加を求めた。パットンは作戦会議への参加を了承すると「このさいクラウツにもっと進出させて、第3軍を南から北に転回させて包囲殲滅するチャンスだと思う、これで戦争は早く終わる」という意見を述べている。 12月19日連合軍上級指揮官達はヴェルダンで作戦会議を開催したが、今回の侵攻がドイツ軍による本格的な反攻であると確信したアイゼンハワーとブラッドレーの間で作戦方針は決定されており、その概要が参加者に説明された。 ミューズ川を固守防衛線とする ドイツ軍攻勢を撃破することに主眼を置き、一時的に現戦線の一部を縮小しても反撃戦力を強化する 第21方面軍はミューズ川の南と東でドイツ軍を阻止する 第6方面軍はモーゼル川河畔で防衛態勢をとり第3軍の南翼をカバーする 第12方面軍は第21方面軍と連携しミューズ川東でドイツ軍を阻止するとともに、第3軍は第1軍と第8軍団を指揮してドイツ軍第5・第6装甲軍を撃破する このときアイゼンハワーはパットンにバストーニュの南にいる第3軍を北部への反撃に向けるのにどのくらいかかるかを尋ねた。パットンは「私の3個師団なら12月22日、第1軍と第8軍団は12月25日」と答えた。前述の通り、第3軍は新たな攻勢のため東進準備をしており、わずか3日の間に全軍を北方向に90°転換させて適時適所に進軍させることは常識的には無理であり参加者はどよめいたが、パットンは昨日にブラッドレーから反攻戦力の主力にすると内示されてからすぐに第4機甲師団と第80歩兵師団に北進を指示しており、軍参謀らには司令部をルクセンブルグ内に移転することも命令済みで、準備を整えたうえで自信を持っての回答であった。パットンの独演はさらに続いて「私の3個師団だけでもクラウツを叩き潰せる」「クラウツは挽き臼に頭をつっこんだようなもんだ、そしてその挽き臼の取っ手を握っているのがオレだ」などと冗談も言って、アイゼンハワーら出席者を爆笑させている。パットンの発言に満足したアイゼンハワーは「ジョージ、攻撃は早くても12月22日以降、遅くとも23日以前にしよう。しかし前進は手順をふんで注意してやってくれ」と命じ、パットンは大きくうなずくと「クリスマスまでにはバストーニュに到達する」と約束している。 しかし、会議の席では威勢のいいパットンの発言に賛意を示したアイゼンハワーも、やはり第3軍の3個師団だけの反撃では心もとないことと、ドイツ軍の進撃により巨大な「バルジ」ができつつあり、その北側と南側では連絡が取りづらくなっていることを考慮して、「バルジ」の北側を第21方面軍司令官のモントゴメリーに任せることとした。モントゴメリーを作戦に主体的に関わらせることによって、隷下のイギリス軍やカナダ軍の戦力も使用できるようになるが、北部のアメリカ第1軍と第9軍もモントゴメリーの指揮下に入ることとなり、第1軍司令官のホッジスをはじめアメリカ軍の指揮官たちは、偏屈で不愛想なモントゴメリーの指揮下に入ることを嫌がった。特に自分の指揮下の2個軍を持っていかれるブレッドレーは大きな屈辱感を覚えて、ウェストポイント陸軍士官学校で同期生ながら上官であったアイゼンハワーに辞任を申し出るなど抵抗したが、アイゼンハワーは個人的にも親しかったブラッドレーに一歩も退かず「ブラッド、それが私の命令なのだよ」と告げている。戦況に即した軍の再編成を終えたアイゼンハワーは、アメリカ軍とイギリス軍の間の不協和音を解消させるため「敵は堅固な陣地から突出することによって、最大の博打を最悪の敗北にする機会を我々に与えてくれた」「今や、地上、空中、いかなる場所でも敵を撃破することだけを考えるべきである。この決意の下に団結し、戦争目的に対する揺るぎない信念を持ち、神のご加護のもと、我々は最も偉大な勝利に向かって前進するのだ」と全軍に向けて訓示をしたが、この後不協和音は解消されるどころか更に大きくなっていった。
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