農民工と都市戸籍への転籍
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習近平の中国共産党中央委員会総書記(最高指導者)就任後の2014年3月16日、中国政府は「国家新型都市化計画(2014~2020年)」(新型都市化計画)を発表した。この発表では、戸籍登録を都市規模に応じて緩和し、2020年までに1億人に居住している都市の都市戸籍を与えるという目標を掲げた。この計画の背景には、中国経済の成長減速を打破するために、農民工を中小都市への移住を促し、消費者の立場にすることで、再び経済成長を促す狙いがあった。しかしながら、この政策を進める為、大都市にある農民工居住区の取り壊しを強制的に進め、補償の無い状態で農民工たちを立ち退かせた。 2016年9月に国務院が「1億の非都市戸籍人口の転籍を推進する方案」を発表し、農民工の転籍を推進した。 また、国家発展改革委員が2019年4月8日に発表した「2019年新型都市化建設の重点任務」により、今まで常住人口100万人未満の中小都市の場合のみに農村からの移転制限が撤廃されていたが、常住人口100万人以上300万人未満の都市(貴陽、石家庄、福州、南昌など65都市)へ拡大した。但し、逆に言えば全ての都市に対して制限を撤廃したわけではないことを示しており、人口300万以上の都市は、制限が残った形となっている。 そして、常住人口300万人以上500万人未満の大都市(西安、ハルピン、青島、長春、済南など13都市)の移住の制限は、完全撤廃ではないが定住条件の緩和をし、重点グループ(都市で就職した新たな農民工、都市に居住・就職して5年以上で、かつ一家で農村から移住した住民、進学した農村学生と軍隊に入った都市住民)に対する定住制限は撤廃されている。 実際に、発表前に以下の都市で都市戸籍取得制限緩和や撤廃が行われた。 2019年3月に、石家庄は、戸籍取得条件を全て撤廃した中国の省都として初となった(それ以前は、安定的な住所と就業を条件としていた)。 2019年2月に、西安は大卒以上は年齢制限なし、大卒未満は45歳未満と緩和させた。 また、他にも非都市戸籍者が希望すれば居住証を発行し、居住証で受けられる公共サービス拡大をしている都市もある。 500万人以上の大都市(上海、北京、深圳、重慶、天津、広州、成都、南京など14都市)の場合の制限は、戸籍枠を大幅に拡大し、戸籍取得採点制度において社会保障費納付期間と住居期間を採点に占める割合を引き上げ、採点項目簡素化をするよう求められているものの残っている。例えば、深圳では大幅にポイント制を簡素化したにも関わらず、2017年に取得を希望した者の内、4割程度しか認められなかった。 更には、上海と北京は500万人以上の都市の中で、最も取得が難しい都市としての状況が続くとの見方がある。上海の場合は、広州や深圳に比べてはるかに厳しい取得条件(居住証を7年以上保有し、その間、上海の社会保険に加入し保険料を支払っていることが必要とされ、その上で学歴に応じて申請に必要なポイント数が決められている。)を科しており、年に5,000人しか取得できないようにしている。また北京では、2018年で、取得を希望した12万4,657人の内、取得できたのは6,019人であった。 そして2018年末時点で、都市戸籍を持たない者の総人口比は約16.2%、約2.26億人であり、2015年以降縮小傾向にあるものの、都市戸籍を取得した農民工が9,000万人を超えたにも関わらず、絶対数としては減少していない。更には、深圳、東莞では非都市戸籍者が都市戸籍者を上回る「倒挂」と呼ばれる現象が生じている。 また農民工の都市戸籍の転換は緩和したにも関わらず進んでいない現状となっている原因は、以下の2つの立場による要因によるものである。 政府側の要因:公共サービスの提供に関わる負担などから無尽蔵に戸籍を与えることに躊躇する。基本的にはその都市経済の発展に役立つと思われる高学歴人材に戸籍を与える傾向がある。そのため、高学歴でない大多数の単純労働者は簡単に戸籍取得できないようになっている。 農民工側の要因:戸籍所在地の土地権益を手放したくないという誘因が働いている。具体的には農村の土地は集団所有地であり、その運用で得られる配当や土地使用権が存在する。これらを手放してまで都市戸籍を持つということは将来の保険を失うことを意味する。
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