起源と血清型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/18 09:46 UTC 版)
ポリオウイルスは他のヒトエンテロウイルス(コクサッキーウイルス、エコーウイルス、およびライノウイルス)と似た構造を持っている。これらのウイルスもまた、宿主細胞の認識と侵入に免疫グロブリン様受容体を利用する。ポリオウイルスのRNAおよびタンパク質の系統解析からは、ポリオウイルスがA群コクサッキーウイルスCクラスターの共通祖先からカプシドタンパク質内に変異を起こす事で進化した可能性が示唆される。ポリオウイルスの種分化は、A群コクサッキーウイルスのCクラスターが利用するICAM-1からCD155へと、利用する細胞表面の受容体の特異性が変化した結果かもしれない。受容体の特異性の変化はさらに病原性の変化と神経組織への感染を可能にした。 ポリオウイルスはゲノムの変異が起こりやすいウイルスである。RNAウイルス持つRNA依存性RNAポリメラーゼや、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼ)は校正機能を欠くため、一般にRNAウイルスは、DNAウイルスと比べると遺伝子複製の正確さが低い。ただ、ポリオウイルスの場合は、他のRNAウイルスと比べても、さらに高い頻度でゲノムに変異が起きることが知られている。具体的には、アミノ酸の置換を伴わない変異(同義置換)が塩基当たり1.0 x 10−2 置換/年、アミノ酸の置換を伴う変異(非同義置換)が塩基当たり3.0 x 10−4 置換/年の確率でそれぞれ発生する。ゲノム中の塩基の分布は均等でなく、アデノシンの比率は5'末端側では期待値より低く、3'末端側では高い。使用コドンにも偏りが存在し、アデノシンで終了するコドンが好まれる一方、シトシンやグアニンで終了するコドンは避けられている。使用コドンの傾向は下記の3系統で異なり、この違いは選択圧ではなく突然変異によって引き起こされるようである。 ポリオウイルスは血清型によってさらに1型、2型および3型の3つに分類され、これらの血清型はカプシドタンパク質がわずかに異なる。このカプシドタンパク質の違いによって細胞の受容体の特異性とウイルスの抗原性が変化する。1型が野生型として最もよくみられるが、全ての型が高い感染性を示す。2015年11月現在、野生型の1型はパキスタンやアフガニスタンの一部地域に局在している。野生型の2型は1999年10月にインドのウッタル・プラデーシュ州で検出されて以来報告がなく、2015年9月に根絶が宣言された。2015年11月現在、野生型の3型は2012年にナイジェリアとパキスタンの一部で検出されて以来報告されていない。 各血清型のうち、特定の株がポリオワクチンとして用いられる。不活化ポリオワクチン (IPV) はいずれも病原性標準株であるMahoneyないしBrunenders (1型)、MEF-1/Lansing (2型)、Saukett/Leon (3型)の3株をホルマリンにより不活化することで製造される。経口ポリオワクチン (OPV) は弱毒生ワクチンであり、弱毒化された各血清型のポリオウイルスを含む。1960年代に世界的に使われるようになったサビンのOPVでは、1型と3型がサル腎臓上皮細胞でのウイルス継代を経て作製されている。また、全ての型のワクチン株がウイルスゲノムのIRES領域に変異を持ち、特に1型と3型における病原性の低下に大きく寄与していると考えられている。 過去には、ポリオウイルスはピコルナウイルス科エンテロウイルス属の独立種として分類されていた。2008年に分類が見直され、ポリオウイルスの各血清型はいずれもエンテロウイルス属の独立種から外れ、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属ヒトエンテロウイルスC型(後にエンテロウイルスC型に名称変更)に加えられている。また、エンテロウイルス属の標準種もポリオウイルスから(ヒト)エンテロウイルスC型へと変更されている。
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