製品のコンセプトとその受容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/12 06:01 UTC 版)
「キャラクター・ボーカル・シリーズ」の記事における「製品のコンセプトとその受容」の解説
キャラクター・ボーカル・シリーズ(以下CVシリーズ)は各音声のキャラクターを架空のボーカリスト、バーチャルシンガー(バーチャルアイドル)とし、それをユーザーがプロデュースするというコンセプトの製品である。発売元のクリプトン・フューチャー・メディア(以下クリプトン)は先代の合成エンジンVOCALOIDを使用した「MEIKO」(2004年発売)がパッケージに女の子のキャラクターイラストを使用して一定の成功を収めたことから、次世代エンジンのVOCALOID2を使用した新製品にはかわいい女性の声を入れ、アニメ風のイラストを使用することを決めていた。しかし新製品の企画を立ち上げた当初はバーチャルアイドルを志向していたわけではなく、かわいらしい声の歌手10人ほどに声をオファーした際に「自分のクローンが作られる」「オリジナル作品のカバー曲がはんらんする」といった理由で軒並み断られ、それを機に発想を転換、実際の歌手の声で歌うソフトという発想から離れ、人間の真似ではなく一つの新しいキャラクターが歌うというCVシリーズが立ち上がることとなった。ライブラリの音声には歌手ではなく声に特徴のある声優を起用した。なおライブラリの音声については歌はうまくなくてもかまわず、歌手である必要はないという。CVシリーズでは製品のイメージに見合ったキャラクターの外見、それに年齢・身長といったキャラクター設定も定められることになったが、これは自由すぎるのはかえって不自由であり、ある程度はイメージに制限を設けたほうが良いと考えられたからである。一方で、キャラクターを色付けしすぎないことも考慮され、設定は最低限に抑えられた。初音ミクでは当初「「歌」が失われた近未来の世界で、歌う技術を持ったアンドロイド「初音ミク」が発見され、人々が歌うことの素晴らしさを知っていく……というストーリー的なもの」も考えられていたが、公式プロフィールへの採用は見送られている。キャラクターイラストは前述の「MEIKO」ではクリプトンの社員が描いていたが、CVシリーズでは本職のイラストレーターに依頼し、萌えを意識したキャラクターが描かれた。 CVシリーズのキャラクターはかわいらしいキャラクターに歌わせるというイメージを演出することで、合成音声であることによるリアリティの不足を補うとともにソフトを使用するユーザーのモチベーションを刺激する狙いから設定されたものである。しかし、このキャラクターの存在により、CVシリーズは音楽ソフトとしての枠にとどまらない発展を見せる。2007年8月にCVシリーズ第1弾の「初音ミク」が発売されると、初音ミクを使用した動画がニコニコ動画、YouTubeといった動画投稿サイトに次々と投稿されて人気を博し、それらが初音ミクのプロモーションとなって新たなユーザーによる動画の投稿を促すという好循環により爆発的なヒットとなったが、それらの動画の多くは合成音声とキャラクター画像とを合わせキャラクターが歌っているという体裁をとっており、ソフトウェアとしての性能をアピールするだけでなくキャラクターとしての人気を呼び込み、初音ミクはインターネット上で生身の肉体を持たないアイドルとしての成立を見ることとなる。これにより初音ミクという製品は、「音楽というメディアの中で振る舞うキャラクターを操作可能にした画期的な製品」としても位置づけられることとなった。すなわち、製品を購入したユーザーの誰もが、メディアの中にいるアイドルのプロデュースに参加できるのである。CVシリーズなどのVOCALOIDを用いて作品を発表する作者に対しては、プロデューサーの略である「P」と言う敬称が用いられるようになっており、虚構キャラクターをプロデュースするプロデューサーとみなす形となっている。 しかしその一方で、音楽製作者のための電子楽器のひとつとして捉える立場からは、キャラクターを余計なものとする見方も存在するという。またその逆に、音楽製作を目的としないファンの購入も多いとされ、2008年の夏までに「初音ミク」は約4万本、「鏡音リン・レン」は約2万本を出荷したがクリプトンは実際に音楽製作に使用しているのは購入者のうち1万から1万5000人ほどと見ておりキャラクターがパソコンの中にいるという所有感が購入を後押ししていると分析している。 なお、こうした流れに伴って「MEIKO」「KAITO」といったCVシリーズではない過去のVOCALOIDについても関連キャラクターとしてファンに受容されるようになり、またクリプトン以外の会社からも「がくっぽいど」をはじめキャラクター設定を伴った製品が発売されている。初音ミクの発売から始まったブームは、架空のキャラクターを使って音楽を作るという特徴をもつ新しい音楽ジャンルとしての発展を見せている。
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