置文伝説
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今川貞世(了俊)の『難太平記』(応永9年(1402年))によれば、足利氏の先祖である源義家は、置文(一種の遺書)に、自分は七代の孫に生まれ変わり、天下を取るだろうと予言したという。ところが、その七代目にあたる足利家時(尊氏と同じく足利頼氏側室の上杉氏の子)は、自分の世には天下を取ることが出来ないことを悟り、自分の寿命を縮めることと引き替えに、子孫3代のうちに足利家が天下を取ることを祈願して自刃し、その孫がまさに尊氏であるとされる。貞世自身の証言によれば、貞世は尊氏と直義の前でこの置文を拝見した経験があり、尊氏兄弟は「今天下を取る事ただこの発願(ほつがん)なりけり」と言ったという。 足利氏の有力武将の証言というだけあって、かつては信頼の置ける話とされ、足利氏には代々天下を取る野望が有り、その使命感に駆られて、尊氏は北条高時や後醍醐天皇への離反を繰り返し、ついに天下を牛耳ったのだと説明されることがあった。 この説に疑問を提起したのは、大正・昭和期の研究者である中村直勝である。正平5年/観応元年(1350年)もしくはその翌年に書かれたと思われる直義の書状に、「故報国寺殿」(家時)が「心仏」(高師氏)に与えたという遺書を閲覧し感激したとある。直義の書簡の宛先は高師秋(師直の従兄弟)であるから、家時の書状は代々高一族が保管していたと見られ、しかも直義がその存在を知ったのは後醍醐との対決から15年も後のことである。したがって、家時の書状の存在自体は確実であるが、これを足利氏の天下取りの動機に求めることはできない、という。 佐藤進一は、さらに、建武の乱が発生した時の貞世は11歳に過ぎないことを指摘し、仮にもし貞世が尊氏・直義の眼前で家時置文なるものを見たという証言が本当であるとしても、それは幕府が成立した後のことであろうから、やはり天下取りの動機の史料的根拠としては弱いとしている。 20世紀末からは、動機の根拠どころか、家時の書状の内容自体が、はたして『難太平記』の言うように天下取りを指示したものかどうか、疑問視されるようになった。川合康によれば、足利氏が源氏嫡流と見なされるようになったのは、幕府が成立した後の工作の結果であり、貞世が語る義家・家時の伝説もその「源氏嫡流工作」の一環であるという。細川重男によれば、これは2016年時点での有力説である。
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置文伝説
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詳細は「足利尊氏#置文伝説」を参照 今川貞世(了俊)の著作である『難太平記』(応永9年(1402年))によれば、足利氏には、先祖に当たる平安時代の源義家が書き残したという、「自分は七代の子孫に生まれ変わって天下を取る」という内容の置文が存在し、義家の七代の子孫にあたる家時は、自分の代では達成できないため、八幡大菩薩に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願し、願文を残して自害したという。二代後の子孫たる足利尊氏・直義兄弟はこれを実見し、貞世自身もその置文を見たことがあると記している。 尊氏と直義は元弘の乱で鎌倉幕府を滅ぼして、後醍醐天皇の建武政権樹立に多大な貢献をしたものの、最後の得宗北条高時の子北条時行が中先代の乱を起こして鎌倉を占拠したが、その後に紆余曲折から後醍醐との対決である建武の乱に発展し、室町幕府を樹立することになった。そして、足利方の有力武将である貞世の証言であることから、かつては家時の願文が幕府樹立の動機とも考えられていた。しかし、20世紀半ば以降、この説はほとんど支持されていない。 家時が執事高師氏に遣わした書状を、師氏の孫で尊氏の執事となった高師直の従兄弟である高師秋が所持しており、直義がこれを見て感激し、師秋には直義が直筆の案文を送って正文は自分の下に留め置いた、という直義の書状が残っているため、「家時の置文」そのものの実在は確実である。しかし、直義がこの置文を見たのは建武の乱から15年後であるため、これが挙兵の動機であるとは考えにくい。 また、「家時の置文」の内容自体も、貞世の主張する「天下を取れ」というものとは別物だったと考えられている。「足利氏は源氏嫡流である」という認識は、室町幕府成立後に、幕府が正当性を高めるために行った工作によって広まったものであり、貞世が語る義家・家時の天下取り伝説も、その源氏嫡流工作の一環であるとするのが有力である。
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