空賊とは? わかりやすく解説

空賊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/20 12:00 UTC 版)

空賊(くうぞく)は、主に武装した航空機などを用いて、航行中の航空機や地上の町を襲撃し、略奪行為を行う盗賊のこと。空の盗賊。基本的にSFファンタジー作品に登場する。

概要

多くは海を舞台にした海賊、山を根城にした山賊などの、いわゆる盗賊のイメージをそのまま空に移したものとして描かれる。一機、もしくは複数の航空機を所有して一団をなし、海賊や山賊と同様の行為を行う。物語の世界観によって、現実的な航空機を用いているものもあれば、飛行空母や、魔法などの特殊な技術を用いた航空機を用いているものもある。義賊として描かれるものも多い。

用例

日本では、田中貢太郎の怪談「追っかけて来る飛行機」(1934)の中に「空賊」という語が登場している[1]

「海賊があるから、やがて 空賊 くうぞくと云うのができるかも知れないよ」 — 田中貢太郎、「追っかけて来る飛行機」

ドイツ語では「Luftpirat」という語が1908年に登場している。英語には「空賊」を一語で表す単語はなく、空の海賊ということから一般的には「Air pirate」や「Sky pirate」などと表記されるが、どちらも20世紀初頭には登場している。

現実における事例

第一次世界大戦中の1917年4月23日、英国向けの木材を積荷として北海を航行中だったノルウェーの民間帆船「ロイヤル(ROYAL)」号が、ドイツ帝国海軍ツェッペリン飛行船L23 (en:Zeppelin LZ 66) 号の搭乗員に乗り込まれて拿捕された[2]。遭遇後、ツェッペリンは船の上を旋回したのち、すぐ近くに来ると船首正面に爆弾を落として停止させた。そして近くに降りた飛行船から3人のドイツ人が船に送り込まれ、「ロイヤル」号の船員は閉じ込められた。翌朝ドイツ海軍駆逐艦が現れ、さらに人員が乗り込んできた。しかし彼らは帆や索具を操ることができなかったため、閉じ込めていた船員らを解放すると、船をドイツのクックスハーフェンへと向かわせるよう命じ、翌朝に到着した。「ロイヤル」号はドイツの裁判所に押収され、売却された。その後は戦時中も戦後もドイツの色々な海運会社に売却されて使われたが、1924年にスクラップとなった[3][4][5][6]

歴史的に非正規軍が(有人)軍用機を運用した事例は少ないが、例として、1995年のタリバンMiG-21戦闘機によるエアスタン事件が挙げられる。

比喩表現

ハイジャック犯のことを英語で「Air pirate」と呼ぶことがある。世界で初めて記録された航空機ハイジャック事件は1931年に起きており(非公式だが1929年の発生事例もある)、「Air pirate」という語はその何年も前から存在していた。また日本でも、日本航空ハイジャック事件が続けて起きた1970年代には、ハイジャック犯のことを「空賊」と呼称した記事がいくつか出ているが[7]、現在はその意味で使われることはあまりなくなっている。

ベトナム戦争ベトナム民主共和国では、北爆を行うアメリカ空軍を指して「ヤンキーの空中海賊」と蔑称で呼称した[要出典]

2021年5月23日にアテネからヴィリニュスに向かうライアンエアー4978便ベラルーシ領空でベラルーシ空軍戦闘機によりミンスク・ナショナル空港へ緊急着陸させられ、搭乗していた政治活動家でジャーナリストラマン・プラタセヴィチらが拘束された事件において、日本語圏における報道で「空賊」という表現が使われた[8][9][10]

空賊が登場する作品(20世紀前半)

20世紀末頃からはさまざまな作品で題材とされているため、ここでは前半に絞った。

小説

  • ジュール・ヴェルヌ征服者ロビュール』(1886)とその続編『世界の支配者』(1904) - 「空賊」という語は使われていないが、地上にいる人物を飛行船で拉致する展開がある。
  • オスカー・ホフマン (SF作家)(ドイツ語: Oskar Hoffmann (Autor)空賊と彼の飛行船(ドイツ語: Der Luftpirat und sein lenkbares Luftschiff〉シリーズ(1908-1911) - ドイツのパルプSFで、「Luftpirat(空賊)」と呼ばれるモルス船長が出てくる。
  • ギャレット・P・サービススカイ・パイレート(英語: The Sky Pirate (novel)」(1909) - 「Sky Pirate(空賊)」と呼ばれるアルフォンソ・ペイトン船長。
  • ジョン・A・ヘファーナン(John A. Heffernan) The Sky Police(1910)[11]
  • スティーヴン・ギャラード(Stephen Gaillard) The Pirates of the Sky: A Tale of Modern Adventure(1915)[12][13]
  • ガイ・ソーン英語版『空賊』The Air Pirates(1919) - 高速飛行艇を操る正体不明の賊に旅客飛行艇が襲撃・略奪される。
  • ジョン・W・キャンベル「空中海賊株式会社」 Piracy Preferred (1930) - 『暗黒星通過!』 The Black Star Passes (1953)所収。邦訳では「空賊」という語は使われていない。原語では「The Pirate」と表記[14]
  • A・H・ジョンソン(A. H. Johnson)The Raid of the Mercury(1931)[15]
  • 田中貢太郎「追っかけて来る飛行機」 - 『日本怪談全集 第一巻』(改造社、1934)所収[1]。空賊自体が登場するわけではないが、「空賊」という語が登場。

実写映画

  • Pirates of 1920(1911) - サイレント映画[16][17]
  • フィリバス(英語: Filibus(1915) - マリオ・ロンコローニ(Mario Roncoroni)が監督したイタリアのサイレント映画。

アメリカン・コミックス

  • Green Lantern Vol 1 #27(1947) - Sky Pirate がグリーンランタンの敵(ヴィラン)として登場した。

脚注

  1. ^ a b 田中貢太郎 追っかけて来る飛行機 - 青空文庫
  2. ^ Robinson, Douglas Hill (1962). The Zeppelin in Combat: A History of the German Naval Airship Division, 1912-1918. London: G.T. Foulis. pp. 220–21. OCLC 1302222 
  3. ^ “A ZEPPELIN'S CAPTURE OF A SCHOONER”. The Times: p. 5. (May 12, 1917) 
  4. ^ “Zeppelin captures ship”. Flight IX (19): 10. (May 10, 1917). ISSN 0015-3710. http://flightglobal.com/pdfarchive/view/1917/1917%20-%200448.html 2017年8月26日閲覧。. 
  5. ^ Friedrich Engelke”. Flieger und Luftschiffer. 2017年8月26日閲覧。
  6. ^ shipstamps.co.uk • View topic - ROYAL barque 1881”. shipstamps.co.uk. 2017年8月26日閲覧。
  7. ^ 国立国会図書館デジタルコレクション - 検索結果
  8. ^ 「空賊」と化したベラルーシ 前代未聞の暴挙で払う代償の大きさは?|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト”. ニューズウィーク日本版 (2021年6月1日). 2021年9月4日閲覧。
  9. ^ コラム:ベラルーシ、領空を政治的武器にできない現実”. ロイター. 2021年9月4日閲覧。
  10. ^ 旅客機の強制着陸で「ルビコン川」渡ったベラルーシ その先に待っていたのはロシア?:朝日新聞GLOBE+”. 朝日新聞GLOBE+. 2021年9月4日閲覧。
  11. ^ Bleiler, Everett; Bleiler, Richard (1990). Science-fiction, the Early Years: A Full Description of More Than 3,000 Science-fiction Stories from Earliest Times to the Appearance of the Genre Magazines in 1930: with Author, Title, and Motif Indexes (Page 357). Kent State University Press. p. 357. ISBN 0-87338-416-4. https://books.google.com/books?id=KEZxhkG5eikC&pg=PA357&lpg=PA357&dq=air+pirate+fiction&source=bl&ots=M2IkGVwE9y&sig=TJ9vz9PEX4sdtstz9PXZfUuYcnI&hl=en&sa=X&ei=b9GRVa-AOIX6sAWr2Z_4CA&ved=0CCoQ6AEwAjgK#v=onepage&q=air%20pirate%20fiction&f=false 
  12. ^ Gaillard, Stephen (1915). The Pirates of the Sky: A Tale of Modern Adventure. Chicago: Rand McNally & Company. https://books.google.com/books?id=ixQfAAAAMAAJ&pg=PR1&lpg=PR1&dq=the+pirates+of+the+sky+a+tale+of+modern+adventure&source=bl&ots=wS3Htv0Ddt&sig=m-mYKOo-wkF4SWf_vmW_fLNeqH8&hl=en&sa=X&ei=yhyPVaKoIsHaoAT985pw&ved=0CEMQ6AEwBw#v=onepage&q=the%20pirates%20of%20the%20sky%20a%20tale%20of%20modern%20adventure&f=false 
  13. ^ Bleiler, Everett; Bleiler, Richard (1990). Science-fiction, the Early Years: A Full Description of More Than 3,000 Science-fiction Stories from Earliest Times to the Appearance of the Genre Magazines in 1930: with Author, Title, and Motif Indexes (Pages 271-272). Kent State University Press. pp. 271–272. ISBN 0-87338-416-4. https://books.google.com/books?id=KEZxhkG5eikC&pg=PA271&lpg=PA271&dq=air+pirates+fiction&source=bl&ots=M2IkEYoE9z&sig=FErdMysE1y7-yPBY461IwdQn8Zk&hl=en&sa=X&ei=IBqPVdiuKojWoAT1jZSoCg&ved=0CFgQ6AEwDQ#v=onepage&q=air%20pirates%20fiction&f=false 
  14. ^ Amazing Stories Volume 05 Number 03 : Internet Archive
  15. ^ Bleiler, Everett; Bleiler, Richard (1998). Science-Fiction: The Gernsback Years: A Complete Coverage of the Genre Magazines Amazing, Astounding, Wonder, and Others from 1926 Through 1936. Kent State University Press. p. 194. ISBN 0-87338-604-3. https://books.google.com/books?id=PbMdeizaCNcC&pg=PA194&lpg=PA194&dq=air+piracy+fiction&source=bl&ots=OExfldCJHE&sig=MYufpYm7ZTAOmJ48i-9INvgcvAE&hl=en&sa=X&ei=mdSRVeWyFMn7tQXoybKoAg&ved=0CC0Q6AEwAzgK#v=onepage&q=air%20piracy%20fiction&f=false 
  16. ^ Lawson, Mark (December 5, 2014). “Beware air pirates, be nice to Martians: lessons from the dawn of British sci-fi”. New Statesman. July 9, 2015閲覧。
  17. ^ Paris, Michael (1992). Winged Warfare: The Literature and Theory of Aerial Warfare in Britain, 1859-1917. Manchester University Press. p. 57. ISBN 0-7190-3694-1. https://books.google.com/books?id=SxcNAQAAIAAJ&pg=PA57&lpg=PA57&dq=pirates+of+1920+1911&source=bl&ots=_pgpi9zoJv&sig=ZI62v4CO3GibJDjXS5D0D-0WTsc&hl=en&sa=X&ei=YgmSVeDFNsPEsAXwg6H4Dg&ved=0CFsQ6AEwDA#v=onepage&q=pirates%20of%201920%201911&f=false 

参考文献

  • 幻想職業案内所(スタジオエクレア)『幻想世界のハローワーク 『ドラクエ』の勇者から『FF』の聖騎士まで!』(笠倉出版社、2012) ISBN 978-4-77-308638-6
  • サイドランチ 編『ゲームシナリオのためのファンタジー解剖図鑑:すぐわかるすごくわかる歴史・文化・定番260』(誠文堂新光社、2016) ISBN 978-4-41-651607-2

関連項目


空賊

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ウィザーズ・ブレイン」の記事における「空賊」の解説

正確に《魔法士》種別ではなくヴァーミリオンCDヘイズ職業大戦中には数多くの空賊がデータ《魔法士》などの奪取目的として飛行艦艇・船舶襲っていたが、現在はヘイズ世界唯一の空賊となっており、その別称とされる。 ここではヘイズ能力について解説する能力解析 蓄積した観測データ元に《魔法士》などの能力解析する同様の能力は“創生能力を持つ〈悪魔使い〉の錬やサクラ持っているが、他者圧倒する演算能力を持つヘイズのそれは、解析速度解析精度段違いである。この能力により未来予測精度上げることができるが、ヘイズ自身はほとんど記憶領域持たない未来予測高速演算によって短期的な未来を完璧に予測出来る。そのため〈炎使い〉〈人形使い〉はもちろん、十倍程度運動加速による攻撃であれば難なくかわせる。《魔法》が使えないI-ブレインを持つ“できそこない《魔法士》”であるヘイズが他の《魔法士》互角以上に戦え最大理由。ただし、いくら予測完璧であっても速度体勢などの原因で“どうやって物理的に回避不可能な攻撃に関してどうしようもない欠点は、相手攻撃方法知らない対応しようがないため、能力分からない相手に対して使えないことと、敵が二人になると負担が2倍以上になること。ただし相手攻撃方法見た経験したりすることで、予測精度向上する破砕の領域Erase circle空気分子動き正確に予測し、そこに音による変化加えることでバタフライ効果による《論理回路》形成する形成できる《論理回路》最大値直径約50cm。この《論理回路》〈騎士〉情報解体と同じ能力有しなおかつ時間の経過”による《論理回路》変化同時に情報制御》を行なうため、〈騎士〉情報解体より遥かに高速で(すなわち解体する力が強い)、〈騎士〉には不可能な生物情報解体すら可能。また空気分子による《論理回路》は、ある程度範囲内であれば任意の位置形成できるため、〈騎士〉には不可能な遠隔からの情報解体も可能である。 《情報の海》へ接続しないため、厳密には《魔法ではなく、ノイズメイカーの影響下でも使用が可能(予測演算さえできれば使えるとされる起動するにはヘイズI-ブレイン機能75パーセントを超高速演算装置として使用しなければならない(錬の3000倍(フィア600倍)の演算速度が必要)為、演算特化したI-ブレインを持つヘイズにしか使えない虚無の領域Void sphere破砕の領域発展型。形成した《論理回路》新しくひとまわり大きな《論理回路》形成し、その形成され《論理回路》がさらに大きな《論理回路》を……という具合指数関数的に《論理回路》巨大化させ、最終的に自らの大きさに耐えられなくなった《論理回路》周囲物質巻き込んで自壊することによってありとあらゆる物質確実に解体する作中、最も高い破壊能力有しており、その解体力は〈騎士〉情報解体上回る事実上〈龍使い〉絶対情報防御に対して唯一有効な情報解体でもある。《論理回路》大きさ調節可能であり、最大([Hunter Pigeon]の補助演算つき)で直径10km欠点は、一度起動するI-ブレイン過負荷オーバーフロー[要曖昧さ回避]し、3時間以上の休止時間必要な点。その間一切I-ブレイン用い能力使えなくなる為、まさに最後の切り札と言うべき技。

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