発見と開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 22:41 UTC 版)
1950年代から1960年代の間、アメリカ国立癌研究所 (NCI) は植物と海洋生物素材からの幅広い物質探索(スクリーニング)を行っていた。そのスクリーニングの結果、ホヤの一種であるEcteinascidia turbinata の抽出物が抗癌活性を示すことが1969年に明らかとなった。 活性分子の精製と同定は、十分に繊細な技術が開発されるまで長い年月を要したが、1984年にイリノイ大学のK. L. Rinehartによって活性成分の一つであるエクテイナシジン743の構造が決定された。Rinehartは、西インド諸島の礁でスクーバダイビングによって、ホヤを収集した。スペインの会社PharmaMarがイリノイ大学から、この化合物のライセンスを取得し、トラベクテジンを含むホヤの養殖を試みたが大した成果はなかった。ホヤからのトラベクテジンの単離収率は極めて低く、1グラムのトラベクテジンを単離するのに1トンのホヤが必要となる(臨床試験には約5グラムの化合物が必要と考えられた)。そこで、Rinehartはハーバード大学の化学者E. J. コーリーに、トラベクテジンの合成法の開発を依頼した。コーリーの研究グループは1996年に、トラベクテジンの全合成を発表した。その後、より単純で扱いやすい合成法が開発され、ハーバード大学が特許を取得し、PharmaMarにライセンス供与した。現在、トラベクテジンは、PharmaMarによって開発された、微生物Pseudomonas fluorescens の培養によって得られる抗生物質であるサフラシンB (safracin B) を出発原料とした半合成法を基に供給されている。 トラベクテジンは1996年に初めてヒトに投与された[要出典]。2007年に、欧州医薬品庁 (EMEA) は、アントラサイクリン系抗がん剤およびイホスファミドによる治療が失敗したかこれらの薬剤に適さない進行性軟部肉腫の患者に対する治療薬として、トラベクテジン(商品名 Yondelis)の販売を承認した。EMEA医薬品委員会 (CHMP) は、トラベクテジンは充分にデザインされた現在の最良の治療との比較ランダム化試験によって評価されておらず、臨床的有効性のデータは主に脂肪肉腫と平滑筋肉腫患者に対するものであると意見を述べた。しかしながら、軸となる研究では、2つの異なるトラベクチン投与計画群で有意差が見られており、病気の希少性を鑑みて、CHMPは例外的に医薬品承認を認めることができるとした。承認の一部として、PharmaMarは特定の染色体転座がトラベクテジンに対する反応性を予測するのに使えるかどうかについて明らかにするためのさらなる臨床試験を行うことに合意した。2008年にEMEAおよびFDAに対して再発卵巣癌へのペグ化リポソームドキソルビシンとの併用療法についての販売承認申請資料が提出されたが、2011年にはFDAから第III相臨床試験の追加を要求されたため米国での申請を取り下げた。 また、前立腺癌、乳癌、小児腫瘍に対する第II相臨床試験が行われている。
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