環境保護への取り組み
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/14 09:18 UTC 版)
東京農工大学の本谷勲研究室による植生・野鳥調査によると、烏山寺町一帯にはカシ・ケヤキ・サクラ・マツ・イチョウなどの高木やカエデ・ウメ・ツツジ・ツゲなどの低木も含めて150種類以上の植物が見られ、寺院それぞれに50から60種類以上が植栽されている。これらの樹木を生活の場とするコジュケイ・ヒヨドリ・オナガ・モズなど、15種類以上の野鳥が生息し、高源院の鴨池には、毎年秋にシベリアから多くのカモが飛来して一冬を過ごす。 この地は水利に恵まれ地下水に富み、地元の人の話では井戸水を柄杓で汲めるほどであったという。烏山の地は海抜約45メートルの台地で、北から東南部にかけては烏山川(高源院の鴨池を水源とする)と烏山用水(玉川上水の分流)が流れ、西北部から南東には戸越用水(品川用水)が流れていた。西には水無川という川もあり、これらの川付近の低地は水田となっていた。高源院の鴨池はもともと「亀の子出井」(かめのこでい)と呼ばれていた湧水で年中水が涸れず、水位は井の頭池と同じであるといわれる。 世田谷区内には、国分寺崖線沿いを中心に約100カ所の湧水が存在する。世田谷区内の湧水で特徴的とされるものに、「宙水」がある。烏山寺町の北側はかつて「烏山七沢」といわれる水源地であり、7カ所の湧水が存在していて地面を12尺(約3.64メートル)から16尺(約4.85メートル)も掘れば必ず水が湧くといわれるほどであった。これは、付近の地中の関東ローム層中に宙水を含む地層が地下1.5メートルから2メートルのところに分布しているためである。かつては武蔵野台地上に宙水を蓄えた場所が多く存在していたが、いずれも水源が浅かったために涸渇し、現存するところは少ない。世田谷区内の宙水は、北烏山・南烏山付近を起点に八幡山、経堂、桜、弦巻、上馬から野沢を含む範囲に分布する可能性が高い。 長い年月をかけて形成された緑豊かな烏山寺町の環境も、1970年代になると都市開発の影響で危機に立たされることになった。建物が老朽化したということで建て替えを計画した寺院があったが、その計画段階では「鉄筋3階建、地下室あり、面積3,000平方メートル」という大規模なものであった。この建物が烏山寺町の中心部に完成してしまうと、景観の面で異質なだけではなく日照面でも問題が出てくることが予想されたため、単純に反対するだけではなく「環境にとってなにが一番大事か」という方向に話が向かっていった。 烏山寺町の豊かな自然環境は、宙水などの豊富な地下水に支えられている。しかし、地下室を造る場合は大規模に基礎工事を行って地下水を大量に汲み上げる必要があり、しかもその工期が1年以上かかることが予定されていた。このような工事を行ってしまうと、地下の浅い部分にある宙水が涸渇することが予想された。宙水の涸渇は井戸の水涸れだけではなく樹木の衰弱など自然環境のバランスを大きく崩し、しかも一度破壊された宙水は回復できないということがわかってきた。そこで話し合いを重ねた結果、地下室は掘らず、建物の高さにも配慮した建築物にするということに決まった。 寺院建て替え問題については解決したものの、同様の問題が今後烏山寺町のあちこちで発生することが予想された。そこで地域住民と寺院が協力して環境を守ってゆくことを目的として、1975年(昭和50年)11月1日に「烏山寺町の環境を守る会」が結成され、「烏山寺町環境協定」が締結された。なお、「烏山寺町環境協定」は次の5つの条で構成されている。 第1条 地域環境の維持向上 第2条 地下水の保護 第3条 自然環境の整備保全 第4条 町なみの維持整備 第5条 烏山寺町の環境を守る会 烏山寺町の環境を守る会は、環境保全のために次のような活動を行った。 1976年(昭和51年) - 東京電力の地下高圧送電線埋設工事に対する申し入れ 1977年(昭和52年) - 朝日生命久我山グラウンド体育館施工に対する要請 1979年(昭和54年) - 東京都水道局および東京ガスに対する工事による汲み上げ地下水還元の要請 1979年(昭和54年) - 東京都下水道局に対する下水道本管埋設工事に対する地下水系保護の要望 1977年(昭和52年)、烏山寺町の207,000平方メートルにわたる地域は世田谷区との協定によって「みどりのモデル地区」に指定された(「自然環境の保護及び回復に関する条例(昭和52年4月東京都世田谷区条例第11号)」の規定による)。なお、高源院境内の鴨池(弁天池)は1985年(昭和60年)3月1日に「烏山弁天池特別保護区」(2,322平方メートル)に指定された。
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