楽曲構成と内容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/18 00:16 UTC 版)
「ピアノソナタ第3番 (スクリャービン)」の記事における「楽曲構成と内容」の解説
以下の4楽章から成り、全曲を演奏するのに平均18分を要する。 ドランマティコ Drammàtico アレグレット Allegretto アンダンテ Andante プレスト・コン・フォーコ Presto con fuoco 興味深いことにこのソナタは、保守的な特徴とモダンな特徴とを同時に見せ付けている。しかしながらスクリャービンはこの作品に、説得力をもって統一された感じを与えている。左手の意気揚々としたリズムを持つスケルツォ風のアレグレット楽章は、たとえ循環形式による残りの3楽章の結合には関与しないとしても、またそれゆえに、楽式の組み立てにとっては余分なものかもしれないとしても、何らかの(「思い違いの」)小休止を差し出すことで、心理学的・標題的な機能を果たしている。事実スクリャービンは、(凝った対位法や、極度に半音階的な和声法などの)後期ロマン派音楽の自由に、厳格な古典派的な楽式を当てはめることによって、自分の音楽語法の崩壊や分裂を避けることができたのである。 例えば第1楽章は、著しくバランスのとれたソナタ形式で作曲されている。展開部の開始でさえ、二重線によって丁寧に区切られている。呈示部、展開部、再現部はみなほとんど同じ長さである。展開部は、20小節の長さの部分によってはっきり別れ、境目となる部分(第74小節と第75小節)は、楽章のほとんどど真ん中である。呈示部のフレーズの長さは、8小節×3(第1主題と経過句)、6小節×3(第2主題)、4小節×3(結句)となっている。調体系も同じように統制されており、経過句は近親調へ相応に転調する。呈示部はイ長調で終わり、再現部は相応に嬰ヘ長調で終わる。 この非常に安定した外面は、晦渋で突飛なポリフォニーで溢れんばかりである。展開部の開始は、第1主題に第2主題を包み込ませることによって、両主題を結合させている。この手の込んだテクスチュアは、ついに半音階(第2主題)と、第1主題の省略に濃縮され、羽目を外して熱狂的に繰り返される。 統一されたアフェクトの確立に使われるもう一つの表現手段は、抜本的な表現力をもって各楽章に染み渡っている特徴的なリズム動機の用法である。第1楽章の「ドランマーティコ」の発想記号は、言葉の古典的な意味での「ドラマ」と取り違えてはならない。その代わりに私たちが経験するのは、うんざりするほど繰り返される、爆発的なリズムの燃焼なのである。「ドランマーティコ」は、進行形の展開ではない。不変の特性、すなわち「心髄の様相」なのである。リヒャルト・ワーグナーの「ライトモチーフ」への呼応がみられる。 同じように、アレグレット楽章の中間部におけるバロック音楽風の16分音符による三連符の執拗な繰り返しは、「奥床しい気分」を産み出している。 よりロマンティックな着想は、後半2楽章を開始主題の(ピアニッシモによる)回想によって結びつけたり、アンダンテ楽章の主題を終楽章において、恍惚としたクライマックスとして「マエストーソ」で再現したりするような、循環形式の用法に見られる。チャイコフスキーやラフマニノフのようなロシアの作曲家は、しばしば終楽章の抒情的な主題をクライマックスのコーダとして再登場させている(例えば両者のピアノ協奏曲を参照)。スクリャービンは、緩徐楽章の主題の用法においてより大胆なところを見せており、ここからその後の2つのソナタにおける形式の凝縮の実験に辿り着いたのかもしれない。《ピアノ・ソナタ第4番》の2つの楽章の配置は、《ソナタ第3番》の後半2楽章に密接につながっているように見える。《第4番》のプレスティッシモ楽章のクライマックスは、アンダンテ楽章の主要主題の恍惚とした翻案である。単一楽章のソナタへの更なる凝縮は《第5番》に見られ、又しても「恍惚とした」クライマックスは、「甘美な」ラングィード主題の再現なのである。 スクリャービンにおけるモダニズムの痕跡は、ロマンティックな観念を表現するためにより急進的な手段を用いた結果と看做し得る。終楽章の、三度にわたって呈示される断固とした主題の圧縮(「非有の奈落に沈み込む」ことの象徴)は、ロマン的というよりはるかに古典的に響く。ワーグナーによる新ロマン主義への回答であるという見解も見られる。
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